ドラマ&映画 カテゴリ
ORICON NEWS

『君たちはどう生きるか』宮崎駿監督の絵コンテを読み解くジブリスタッフの本音

 スタジオジブリ・宮崎駿(※崎=たつさき)監督の10年ぶりの新作『君たちはどう生きるか』(公開中)が、7月14日の公開から8月20日までの38日間で観客動員464万5000人、興行収入69億8300万円(※興行通信社調べ)を突破するヒットとなっている。作品に関する情報が少ない中、撮影監督を務めた奥井敦(おくい・あつし)氏と、ポストプロダクションを担当した古城環(こじょう・たまき)氏から話を聞くことができた。

(左から)スタジオジブリ『君たちはどう生きるか』撮影監督を務めた奥井敦氏、ポストプロダクションを担当した古城環氏 (C)ORICON NewS inc.

(左から)スタジオジブリ『君たちはどう生きるか』撮影監督を務めた奥井敦氏、ポストプロダクションを担当した古城環氏 (C)ORICON NewS inc.

写真ページを見る

【写真】その他の写真を見る


 今月22日、都内にあるドルビージャパン本社。『君たちはどう生きるか』は、ドルビーシネマでも上映を行っており、その経緯やメリットについてスタジオジブリのスタッフから直接話を聞く特別取材会が開催された。宮崎駿監督と各工程のスタッフとの間にどのようなやり取りがあったのか、興味津々で参加した。

眞人とサギ男=映画『君たちはどう生きるか』(公開中)(C)2023 Studio Ghibli

眞人とサギ男=映画『君たちはどう生きるか』(公開中)(C)2023 Studio Ghibli

写真ページを見る

 『君たちはどう生きるか』の制作にあたり宮崎駿監督からどのような指示があったのか、と聞くと「具体的な指示はすごく少なかった」(古城氏)と2人とも苦笑い。古城氏は「宮崎駿監督の場合、絵コンテにいろいろ書いてあって、音を入れていく時は絵コンテに書いてある擬音に則ってやっていくんですが、なぜそう書いてあるのか、というのを読み解く日々でした」と述懐した。

 「とあるシーンでは、『ドアノブの音だけが無音になる』と注意書きのように書いてあったんです。それを見て、スタッフ一同『なぜ、無音?』と疑問に思いました。全体の流れからしても、ドアノブの音だけを無音にしたい理由がわからなくて1日悩む(笑)。そういったことがけっこうありましたね。それらを乗り越えて出来上がったものが、今、劇場で上映されているんです」(古城氏)。

 一方、奥井氏は「宮崎駿監督とは30年一緒にやっているので、監督の“どうしてほしい”のかが何となくわかる。自分なりの考えで仕上げたものをチェックに出して、100%一発OKではないけれど、ほとんど何も言われない」レベルに現状は至っているという。

 宮崎駿監督の作品づくりに長きにわたって関わり、信頼関係を築いてきた奥井氏が目指しているのは「宮崎駿監督が想定しているであろう仕上がりのちょっと上。指示通りにやればいいというわけでもなく、指示をクリアした上でより良い方向に膨らませることを心がけています」。そして、宮崎駿監督の想定を超えるプラスアルファを追求してきたことの延長線上に「ドルビーシネマという選択肢があった」と話した。

(左から)スタジオジブリ『君たちはどう生きるか』撮影監督を務めた奥井敦氏、ポストプロダクションを担当した古城環氏 (C)ORICON NewS inc.

(左から)スタジオジブリ『君たちはどう生きるか』撮影監督を務めた奥井敦氏、ポストプロダクションを担当した古城環氏 (C)ORICON NewS inc.

写真ページを見る

 ドルビーシネマは、高色域で鮮明な色彩と幅広いコントラストを表現するHDR(ハイ・ダイナミック・レンジ)映像のための技術である「ドルビービジョン」や、映像に合わせてさまざまな音があらゆる方向から聴こえてくるように音を配置できる立体音響の技術である「ドルビーアトモス」などを兼ね備えたシアターで、国内では現在9つの劇場で導入されている。

 奥井氏は、米ドルビーラボラトリーズが2014年に新技術としてドルビービジョンを発表した時からいち早く興味を持ち、「15年にLAのパインシアターでドルビーシネマのデモンストレーションを見たんです。黒の締まり方、ハイライトの動き方に衝撃を受けました」。ついでに言うと、ドルビービジョンが初めて採用された映画は、15年に公開された『トゥモローランド』(ディズニー)。

 その後、「三鷹の森ジブリ美術館の短編作品『毛虫のボロ』が完成した2018年、以前から使用されているSDR(スタンダード・ダイナミック・レンジ)で制作したデータをパインシアターに持ち込んで、試しにドルビーシネマ化(HDR化)してみたんです。それを宮崎(駿)さんに見てもらったところ、非常に気に入ってくれて。次に長編をやることがあったらトライしてみようということになった」と、経緯を説明した。

 “次”とは宮崎駿監督の新作のことであり、スタジオジブリとしては宮崎吾朗監督の『アーヤと魔女』(20年)のことでもあった。

 古城氏がぶっちゃける。「ジブリ作品として初めてドルビーシネマ版を公開することになった『アーヤと魔女』は、壮大な実験場でした。もともとテレビ放送向けの作品だったので、5.1チャンネル(6つのスピーカーによって聴く人を取り囲むように音を再生する音響システム構成)で作られていたものをドルビーアトモス化したのですが、そのやり方で問題ないのか、それとも最初からドルビーアトモス用に作った方がいいのかを判断しなければならなかった。当時、『君たちはどう生きるか』の制作は始まっていましたので、宮崎駿監督の新作で大事故を起こすわけにはいかない。『アーヤと魔女』で実績を作っておくことはとても重要なことでした」

ワラワラ=映画『君たちはどう生きるか』(公開中)(C)2023 Studio Ghibli

ワラワラ=映画『君たちはどう生きるか』(公開中)(C)2023 Studio Ghibli

写真ページを見る

 アニメーションにとって、音も画(絵)と同じくらい重要な要素のひとつ。宮崎駿監督もこだわっており、前作『風立ちぬ』(2013年)ではあえてモノラル録音を採用していたほど。このことを踏まえ、「アトモスを採用したことで“うるさい”と言われない塩梅を模索した」と打ち明けた古城氏。とくに『君たちはどう生きるか』の前半は静かなシーンも多いことから、音響演出の笠松広司氏とも相談しながら、「画と音のバランスを工夫した」という。前述のとおり、「無音」の指示もあったくらい、「引き算で辛抱したところがあるので、もっと派手な作品を作りたい」と本音を吐露し、会場の笑いを誘った。

 映像に関しては、青サギが太陽を背に迫ってくるシーンや、冒頭部分の灯火管制を敷かれた暗いシーンで、「これまでのSDR映像では落としきれない明暗差を表現できた」と奥井氏は満足げだった。

(左から)スタジオジブリ『君たちはどう生きるか』撮影監督を務めた奥井敦氏、ポストプロダクションを担当した古城環氏 (C)ORICON NewS inc.

(左から)スタジオジブリ『君たちはどう生きるか』撮影監督を務めた奥井敦氏、ポストプロダクションを担当した古城環氏 (C)ORICON NewS inc.

写真ページを見る

 宮崎駿監督のもとで作品づくりに携わってきた両氏が、ドルビー技術に魅力を感じる点は、「没入感」だという。「監督や制作側の意図しているものをより正確に観客に届ける手段の最高峰にあるのがドルビーシネマ。作品世界に没入することで、より物語が心の奥に染みて感動してもらえるのではないか、そう信じて僕らはあらゆる技術を駆使し、作品を作ってきました」(古城氏)と話していた。

 ドルビーシネマを導入しているのは、MOVIXさいたま、丸の内ピカデリー、新宿バルト9、T・ジョイ 横浜、ミッドランドスクエア シネマ(名古屋)、MOVIX京都、梅田ブルク7.、TOHOシネマズららぽーと門真、T・ジョイ 博多の9ヶ所。通常版とドルビーシネマ版を見比べると、また違った世界を見られるかもしれない。

関連写真

  • (左から)スタジオジブリ『君たちはどう生きるか』撮影監督を務めた奥井敦氏、ポストプロダクションを担当した古城環氏 (C)ORICON NewS inc.
  • (左から)スタジオジブリ『君たちはどう生きるか』撮影監督を務めた奥井敦氏、ポストプロダクションを担当した古城環氏 (C)ORICON NewS inc.
  • (左から)スタジオジブリ『君たちはどう生きるか』撮影監督を務めた奥井敦氏、ポストプロダクションを担当した古城環氏 (C)ORICON NewS inc.
  • 眞人とサギ男=映画『君たちはどう生きるか』(公開中)(C)2023 Studio Ghibli
  • 眞人=映画『君たちはどう生きるか』(公開中)(C)2023 Studio Ghibli
  • サギ男=映画『君たちはどう生きるか』(公開中)(C)2023 Studio Ghibli
  • キリコ=映画『君たちはどう生きるか』(公開中)(C)2023 Studio Ghibli
  • 謎の少女・ヒミ=映画『君たちはどう生きるか』(公開中)(C)2023 Studio Ghibli
  • 夏子=映画『君たちはどう生きるか』(公開中)(C)2023 Studio Ghibli
  • 勝一=映画『君たちはどう生きるか』(公開中)(C)2023 Studio Ghibli
  • 老婆たち=映画『君たちはどう生きるか』(公開中)(C)2023 Studio Ghibli
  • ワラワラ=映画『君たちはどう生きるか』(公開中)(C)2023 Studio Ghibli
  • インコ大王=映画『君たちはどう生きるか』(公開中)(C)2023 Studio Ghibli
  • 老ペリカン=映画『君たちはどう生きるか』(公開中)(C)2023 Studio Ghibli

オリコントピックス

あなたにおすすめの記事

メニューを閉じる

 を検索