昨年12月9日に全国公開され、興行収入26億円、観客動員200万人を突破した大ヒット映画『ラーゲリより愛を込めて』。第2次世界大戦後の1945年から、シベリアの強制収容所(ラーゲリ)に抑留され、重労働に従事させられた日本人たち。厳寒と飢餓の過酷な生活環境の中、生きる希望を失わず、家族のもとへ帰れる日がくることを信じ、仲間を鼓舞し続けた実在の人物・山本幡男(やまもとはたお)を二宮和也が演じ、大きな感動を誘った。この心震わす感動巨編が7月7日、DVDとBlu-rayで発売される。多くの抑留者たちの心に希望の火を灯した山本の行動、そして言葉は、コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻など、先行き不透明な社会情勢の中で、希望を見失いつつある現代人の心を激しく揺さぶった。この映画の魅力に今一度迫ってみたい。
■大らかな精神の持ち主を演じた二宮和也の高い表現力
本作は作家・辺見じゅんのノンフィクション小説『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』を原作とし、社会派ドラマから恋愛物語まで幅広いジャンルで手腕を発揮する人間ドラマの名手・瀬々敬久監督がメガホンをとった。シベリアに不当に抑留された日本人はおよそ60万人、そのうちの1割は伝染病などを発症して命を落としたという。いかに壮絶な日々であったかは、その数字が物語っている。
身に覚えのないスパイ容疑をかけられた主人公の山本幡男(二宮和也)は、そのラーゲリにいた。映画では抑留者たちの悲惨な日常が淡々と描かれていた。敵意を丸出しにしたソ連の作業監督、日本人抑留者同士の小競り合い、栄養失調で死に逝く人、自ら命を絶つ人…、希望のかけらもない毎日は、抑留者から感情を奪っていく。そんな仲間たちに、「生きる希望を捨ててはいけません。ダモイ(帰国)の日は必ずやって来ます」と励まし続けるのが、山本であった。
ロシア文学愛好者でロシア語を解する物静かな学者肌といった風情の山本は、抑留者の中で決して目立つような、ヒーロー然とした存在ではない。しかし、どんな劣悪な環境下にあっても、決して道義と理性、温かな人間味は手放さない。自らを“卑怯者”と思い悩み、心の傷を抱える元日本兵、戦争が終わってもなお旧日本軍の階級にしがみつく元軍曹、心優しい純朴な元漁師、心に傷を負った同郷の先輩、誰とも分け隔てなく接し、収容所の環境の改善のためには南京虫でいっぱいの懲罰房に入れられることも厭わない。裏切った仲間を許し、読み書きのできない青年に字や俳句を教え、時には自らを鼓舞するように歌を歌って空気を和らげる。そんな懐の深さと強靭な精神を持った男の言動は、次第に周囲の人々の凍った心を溶かしていく。抑留者の1人が「生きているだけじゃダメなんだ。山本さんのように生きるんだ」と訴えるシーンがあるが、虐げられた状況で“人間的に生きる”ことはいかに難しいものだろうか。
そんな芯のある主人公を、二宮は実に柔らかく、優しく、自然に演じている。人格者ではあるが人間味があり、とっつきにくさを感じさせない。そんな身近な存在だからこそ、ヒーローとは市井の人たちの中にいるのだと感じさせられるのだ。後半、山本が病魔に侵されてからの演技は圧巻だった。症状が重くなる彼に仲間たちは遺書を書くことを勧める。それを聞いた時に何とも言えない静かな眼差し。腹の底から絞り出す一言ひと言に込められた万感の思いが、胸にずっしりと響いてくる。
■家族に届けられた主人公の万感の想い 今の時代を生きる現代人へのメッセージ
山本の妻・モジミ(北川景子)は、もちろん山本の希望の灯りではあるが、映画では抑留者全員の希望の象徴のようにも描かれていた。満州国ハルピンで生き別れになる前、「日本で落ち合おう」と夫に言われた約束を信じて、日本で前向きに気高く、力強く4人の子どもたちを育てる。過酷なラーゲリの描写の合間に挟み込まれるその姿は明るく輝き、より山本の置かれている悲惨な状況と会えない辛さを際立たせていた。常に笑顔で健気に戦後の混乱期を生き抜こうとするモジミだが、夫の訃報を受け取り、初めて感情を爆発させるシーンは、やるせないものだった。張りつめていた糸が切れたかのように慟哭する姿に、時代に翻弄され無念の涙を流した先人たちが重なった。
そのモジミをはじめとする山本の愛する家族たちに遺書を届けたのは、シベリア抑留を生き抜いた、松田研三(松坂桃李)、新谷健雄(中島健人)、相沢光男(桐谷健太)、原幸彦(安田顕)の4人の仲間だった。山本を敬慕する彼らは、驚くべき方法によって厳しいソ連の検閲網をかい潜り、託された言葉を、想いを届けにやって来る。もちろんそのシーンに山本はいないのだが、まるでそこにいるかのように気配を感じるのは、4人の演技と演出の妙によってであろう。山本の想いが2倍の深みを増して心に降りかかってくるような、切なくも美しい情景だった。
また、ラーゲリ内で抑留者たちに食料を分け与えられ、共に生活するようになった犬のクロの存在も見逃せない。草野球で球拾いをするなど、抑留者にとって癒しの存在となったクロは、入院した山本を案じ病室を離れなかった。クロもまた、山本によって凍っていた心を溶かしていった抑留者たちのように魅せられていたのだろう。そのクロもまた、山本の想いを日本に届けるかのように驚くべき行動に出る。ちなみにクロは実在し、映画同様に抑留者たちと共に日本に帰国したという。
公開後、「映画館全体がすすり泣き状態だった」というコメントが溢れた本作だが、エンドロールで流れるMrs. GREEN APPLEによる主題歌『Soranji』も作品の余韻に浸る大きな役割を果たしていた。作者の大森元貴(Vo/Gt)は「生きる事への探究、深淵に触れるようなただならぬ感覚でなんとか制作することができた」と映画への想いを語っている。最後まで決して希望を捨てなかった山本の生き方になぞらえたような歌詞が心に沁み入ってくる。
「生きるというのはどういうことかシベリアに来てわかった」という山本が家族に伝えたかった想いは、コロナ禍で閉塞感のある日々を過ごし、世界に目を向ければ戦争に紛争と、社会全体が窮屈で息苦しい時代を生きる私たちへのメッセージのようでもある。そして、メールや電話で簡単に想いを伝えられる今だからこそ、ラーゲリの生還者である4人が、途方もない時間と思いを込めて遺族に直接届けた“遺書”の重みに震える。その万感の想いを、次の世代に伝えなければならないと思う。
文・河上いつ子
Blu-ray&DVD『ラーゲリより愛を込めて』
2023年7月7日(金)発売
■豪華版Blu-ray(3枚組)
品番:TCBD1415/価格8800円(税込)
■豪華版DVD(3枚組)
品番:TCBD6935/価格7700円(税込)
■通常版Blu-ray(1枚組)
品番:TCBD1416/価格:5720円(税込)
■通常版DVD(1枚組)
品番:TCED6936/価格:4620円(税込)
【豪華版Blu-ray/DVD 3枚組】
<特典映像>
■ドキュメント『ラーゲリより愛を込めて』
■イベント集
・完成報告会見
・第35回東京国際映画祭
・スノーカーペットイベント&完成披露試写会
・高校生試写会イベント
・初日舞台挨拶(1回目・2回目)
・大ヒット御礼舞台挨拶
・「ラーゲリより愛と感謝を込めて」御礼舞台挨拶2023 (1回目・2回目)
■公開記念ナビ番組 特別編集版
・今こそ伝えたい!愛をつないだ人々の奇跡の実話
・奇跡をつないだ仲間との絆
■TBS『王様のブランチ』独占取材&二宮和也×松坂桃李スペシャルインタビュー(インタビュアー: LiLiCo)
■特報・予告・スポット集
<音声特典>
二宮和也・瀬々敬久監督による本編オーディオコメンタリー
■キャスト
二宮和也 北川景子
松坂桃李 中島健人 寺尾 聰 桐谷健太 安田 顕
奥野瑛太 金井勇太 中島 歩 田辺桃子 佐久本 宝 山時聡真 奥 智哉
渡辺真起子 三浦誠己 山中 崇 朝加真由美 酒向 芳 市毛良枝
■スタッフ
主題歌:「Soranji」Mrs. GREEN APPLE(ユニバーサルミュージック/EMI Records)
原作:『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』(辺見じゅん著/文春文庫刊)
監督:瀬々敬久
企画プロデュース:平野 隆
脚本:林 民夫
プロデューサー:下田淳行 刀根鉄太 辻本珠子
音楽:小瀬村晶
発売元:TBS
発売協力:TBSグロウディア
販売元:TCエンタテインメント
(C)2022 映画『ラーゲリより愛を込めて』製作委員会 (C)1989清水香子
■大らかな精神の持ち主を演じた二宮和也の高い表現力
本作は作家・辺見じゅんのノンフィクション小説『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』を原作とし、社会派ドラマから恋愛物語まで幅広いジャンルで手腕を発揮する人間ドラマの名手・瀬々敬久監督がメガホンをとった。シベリアに不当に抑留された日本人はおよそ60万人、そのうちの1割は伝染病などを発症して命を落としたという。いかに壮絶な日々であったかは、その数字が物語っている。
身に覚えのないスパイ容疑をかけられた主人公の山本幡男(二宮和也)は、そのラーゲリにいた。映画では抑留者たちの悲惨な日常が淡々と描かれていた。敵意を丸出しにしたソ連の作業監督、日本人抑留者同士の小競り合い、栄養失調で死に逝く人、自ら命を絶つ人…、希望のかけらもない毎日は、抑留者から感情を奪っていく。そんな仲間たちに、「生きる希望を捨ててはいけません。ダモイ(帰国)の日は必ずやって来ます」と励まし続けるのが、山本であった。
そんな芯のある主人公を、二宮は実に柔らかく、優しく、自然に演じている。人格者ではあるが人間味があり、とっつきにくさを感じさせない。そんな身近な存在だからこそ、ヒーローとは市井の人たちの中にいるのだと感じさせられるのだ。後半、山本が病魔に侵されてからの演技は圧巻だった。症状が重くなる彼に仲間たちは遺書を書くことを勧める。それを聞いた時に何とも言えない静かな眼差し。腹の底から絞り出す一言ひと言に込められた万感の思いが、胸にずっしりと響いてくる。
■家族に届けられた主人公の万感の想い 今の時代を生きる現代人へのメッセージ
山本の妻・モジミ(北川景子)は、もちろん山本の希望の灯りではあるが、映画では抑留者全員の希望の象徴のようにも描かれていた。満州国ハルピンで生き別れになる前、「日本で落ち合おう」と夫に言われた約束を信じて、日本で前向きに気高く、力強く4人の子どもたちを育てる。過酷なラーゲリの描写の合間に挟み込まれるその姿は明るく輝き、より山本の置かれている悲惨な状況と会えない辛さを際立たせていた。常に笑顔で健気に戦後の混乱期を生き抜こうとするモジミだが、夫の訃報を受け取り、初めて感情を爆発させるシーンは、やるせないものだった。張りつめていた糸が切れたかのように慟哭する姿に、時代に翻弄され無念の涙を流した先人たちが重なった。
そのモジミをはじめとする山本の愛する家族たちに遺書を届けたのは、シベリア抑留を生き抜いた、松田研三(松坂桃李)、新谷健雄(中島健人)、相沢光男(桐谷健太)、原幸彦(安田顕)の4人の仲間だった。山本を敬慕する彼らは、驚くべき方法によって厳しいソ連の検閲網をかい潜り、託された言葉を、想いを届けにやって来る。もちろんそのシーンに山本はいないのだが、まるでそこにいるかのように気配を感じるのは、4人の演技と演出の妙によってであろう。山本の想いが2倍の深みを増して心に降りかかってくるような、切なくも美しい情景だった。
また、ラーゲリ内で抑留者たちに食料を分け与えられ、共に生活するようになった犬のクロの存在も見逃せない。草野球で球拾いをするなど、抑留者にとって癒しの存在となったクロは、入院した山本を案じ病室を離れなかった。クロもまた、山本によって凍っていた心を溶かしていった抑留者たちのように魅せられていたのだろう。そのクロもまた、山本の想いを日本に届けるかのように驚くべき行動に出る。ちなみにクロは実在し、映画同様に抑留者たちと共に日本に帰国したという。
公開後、「映画館全体がすすり泣き状態だった」というコメントが溢れた本作だが、エンドロールで流れるMrs. GREEN APPLEによる主題歌『Soranji』も作品の余韻に浸る大きな役割を果たしていた。作者の大森元貴(Vo/Gt)は「生きる事への探究、深淵に触れるようなただならぬ感覚でなんとか制作することができた」と映画への想いを語っている。最後まで決して希望を捨てなかった山本の生き方になぞらえたような歌詞が心に沁み入ってくる。
「生きるというのはどういうことかシベリアに来てわかった」という山本が家族に伝えたかった想いは、コロナ禍で閉塞感のある日々を過ごし、世界に目を向ければ戦争に紛争と、社会全体が窮屈で息苦しい時代を生きる私たちへのメッセージのようでもある。そして、メールや電話で簡単に想いを伝えられる今だからこそ、ラーゲリの生還者である4人が、途方もない時間と思いを込めて遺族に直接届けた“遺書”の重みに震える。その万感の想いを、次の世代に伝えなければならないと思う。
文・河上いつ子
Blu-ray&DVD『ラーゲリより愛を込めて』
2023年7月7日(金)発売
■豪華版Blu-ray(3枚組)
品番:TCBD1415/価格8800円(税込)
■豪華版DVD(3枚組)
品番:TCBD6935/価格7700円(税込)
■通常版Blu-ray(1枚組)
品番:TCBD1416/価格:5720円(税込)
■通常版DVD(1枚組)
品番:TCED6936/価格:4620円(税込)
【豪華版Blu-ray/DVD 3枚組】
<特典映像>
■ドキュメント『ラーゲリより愛を込めて』
■イベント集
・完成報告会見
・第35回東京国際映画祭
・スノーカーペットイベント&完成披露試写会
・高校生試写会イベント
・初日舞台挨拶(1回目・2回目)
・大ヒット御礼舞台挨拶
・「ラーゲリより愛と感謝を込めて」御礼舞台挨拶2023 (1回目・2回目)
■公開記念ナビ番組 特別編集版
・今こそ伝えたい!愛をつないだ人々の奇跡の実話
・奇跡をつないだ仲間との絆
■TBS『王様のブランチ』独占取材&二宮和也×松坂桃李スペシャルインタビュー(インタビュアー: LiLiCo)
■特報・予告・スポット集
<音声特典>
二宮和也・瀬々敬久監督による本編オーディオコメンタリー
■キャスト
二宮和也 北川景子
松坂桃李 中島健人 寺尾 聰 桐谷健太 安田 顕
奥野瑛太 金井勇太 中島 歩 田辺桃子 佐久本 宝 山時聡真 奥 智哉
渡辺真起子 三浦誠己 山中 崇 朝加真由美 酒向 芳 市毛良枝
■スタッフ
主題歌:「Soranji」Mrs. GREEN APPLE(ユニバーサルミュージック/EMI Records)
原作:『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』(辺見じゅん著/文春文庫刊)
監督:瀬々敬久
企画プロデュース:平野 隆
脚本:林 民夫
プロデューサー:下田淳行 刀根鉄太 辻本珠子
音楽:小瀬村晶
発売元:TBS
発売協力:TBSグロウディア
販売元:TCエンタテインメント
(C)2022 映画『ラーゲリより愛を込めて』製作委員会 (C)1989清水香子
2023/07/07