7月29日から31日にかけて『FUJI ROCK FESTIVAL '22』が新潟県湯沢町苗場スキー場で開催された。海外メディアから「世界一クリーンなフェスティバル」としても紹介されることの多いフジロック。その所以は、スタート当初からごみ拾いをはじめとする環境保全活動に取り組み、来場者もそういった活動に参加できる仕組みを作ってきたからにほかならない。1997年の初開催から四半世紀が過ぎ、ウィズコロナのイベントにおける環境への取り組みについて、タワーレコードの事例をレポートする。
■「NO MUSIC, NO LIFE.」の精神にも通底する音楽フェスでの環境保全活動
新型コロナウイルスの影響により2020年は中止、21年は国内アーティストのみの出演というイレギュラーな形での開催となったフジロック。今年は、4日間のべ来場者数は6万9000人と例年の半数程度だったものの、3年ぶりに海外アーティストを招聘しての「いつものフジロック」となった。
入場ゲートで来場者にごみ袋が手渡される風景もいつも通り。同フェスでは例年、主催するスマッシュと環境NGO、タワーレコードが共同で、リサイクルのごみ袋の製作・配布を行っている。ごみ袋を開くとほんのりお米の香りがすることに気づく。地元・新潟の非食用米を有効活用した日本発のお米のバイオマスプラスチック“ライスレジン”が使われているからだ。
「これまで配布してきたごみ袋は、会場で回収されたペットボトルをリサイクルしたものでした。ところがコロナ禍で分別や回収が難しくなったこともあって、昨年から地元の南魚沼のライスレジンを採用しています」
そう説明してくれたのは、タワーレコードの坂本幸隆氏(営業戦略室ブランドマネジメント部部長)。音楽ファンならずとも多くの人に認知されている、タワーレコードの企業メッセージ「NO MUSIC, NO LIFE.」の制作に一貫して携わってきた人物だ。フジロックとの関りも、タワーレコードが初協賛した初年度の97年からと25年に及ぶ。
もともとは野外フェスの継続のために始められた活動であったが、音楽と社会との関わりをテーマにする「NO MUSIC, NO LIFE.」の精神にも通じることから、第2回開催からは国際青年環境NGO「A SEED JAPAN」(現・iPledge)とパートナーシップを組み、フジロックをはじめとするさまざまなイベントで、共同して活動を行っている。
「目的を持ち、確認しに行く場となっているフェスが多い中にあって、多様性を重んじるフジロックに魅力を感じています。主催するスマッシュ代表の日高(正博)さんにも、多様なものに触れられる場所という意味で、フジロックの会場とタワーレコードの店内は似ていると言われ、共感しました。ごみ袋を配布し、会場をクリーンに保つことは野外フェスの継続のための1 つの目標ではありますが、その一方で、音楽ファンと環境をはじめとする様々な社会の問題について考える機会を共有したいという思いもありました。イベントの数日間を特別なものにせず、そこで得た気づきを普段の生活の中で次のアクションにつなげてもらいたいと考えたんです」(坂本氏/以下同)
■デザインや伝え方にも時代が反映されるフジロックのごみ袋シリーズ
そんな思いから、当初配布されたごみ袋には「自分のことは自分で」といったストレートなメッセージがつづられていた。しかし、活動が徐々に定着してきた3年目あたりで、自分たちのメッセージは伝わっているのか、と疑問に感じるようになったという。
「楽しもうとフェス会場に来ている人に、説教臭いメッセージの入ったごみ袋を配って、果たして伝わるの? カッコイイほうがインパクトがあって、メッセージも読んでもらえるんじゃないの? そう思ったんです。そこで、02年に立花ハジメさんと横尾忠則さんのデザインによるごみ袋を配布しました」
手応えを感じた翌03年からはペットボトルをリサイクルしたごみ袋を製作し、そのデザインはCLUBKING×THE LINCOLN GRAPHICSが手がけている。そして04年には「芸術は爆発だ」の名言を残した芸術家・岡本太郎氏の顔写真を使用。そのコピー「BE TARO!」は糸井重里氏(コピーライター・エッセイスト)が考案するという、ごみ袋とは思えない豪華版となった。
「当時、今の渋谷駅に掲出されている巨大壁画『明日の希望』が南米で発見され、それを修復するために日本に持ち帰るキャンペーンを、糸井重里さんたちが始めていました。その流れで、『岡本太郎をもう一度日本国内で認知させたいから、何か一緒にやれないか?』というオファーをいただいたことが始まりでした。そこで、夏フェス会場のごみ袋を提案したわけですが、まさか承諾してもらえるとは思いませんでした(笑)」
「NO MUSIC, NO LIFE.」同様に、毎年デザインが変わるフジロックのごみ袋シリーズも、自然と時代を反映するものとなっている。ちなみに今年のタワーレコードのデザインは、近年コラボレーションが続く、ボードウォークのキャラクターでもあるMADBUNNYを起用。手に持つ看板には、昨今のウクライナ情勢を鑑み「LOVE PEACE」の文字が刻まれている。
■コロナ禍で活動内容に変化 物価の値上がりも直撃
例年、タワーレコードとiPledgeがコラボレーションしたブースでは、iPledgeのボランティアによるナビゲートで来場者がペットボトルのラベルやキャップ、紙コップ、割り箸などを分別するキャンペーンが展開されている。分別されたごみは、ごみ袋やトイレットペーパーなどにリサイクルされ、翌年のフジロックで活用されるといった会場循環型の仕組みを実現している。来場者が例年の4分の1以下だった昨年は、多くの協賛企業が参加を見合わせる中このコラボブースが変わらず活動を行う光景が印象的だった。しかし、コロナ禍でその活動内容にも変化が生じている。
「今まではごみの分別を来場者が体験できる取組みを行っていました。しかしコロナ禍では、他人の手にしたごみに触れることで感染する可能性もゼロではありません。来場者にリスクを負わせるわけにはいかないため、今年は環境クイズという形でごみについて考えるブースを運営し、参加者にはタワーレコードのタオルをプレゼントしました。また、ボランティアの人数も感染への不安からかコロナ前の半分程度となりました。様々な制限がかかる中で、NGOのコアスタッフの方々の工夫で活動が継続しています」
コロナだけではない。今の原油高をはじめとする物価の値上がりは、当然ながら前出のごみ袋の製作費増にも及んでいる。製作枚数はコロナ前の半分程度であったにも関わらず、費用は例年と同じだったからだ。「これまでの中でもっともお金も時間もかかった」と坂本氏は苦笑い。おそらくフェス会場のそこかしこで、同様の気づきがあったものと推察される。
■フェスでのボランティア経験で育成される人材 全国に広がる環境活動の輪
現代日本の野外フェスの先駆となったフジロックの初開催から25年経ち、フェスを起点とする環境ネットワークの輪は若い世代に広がり続けている。また、フジロックが「世界一クリーンなフェス」と評価されるように、来場者の間にも環境意識がしっかりと浸透しているように見えるが、長らくこの活動に携わっている坂本氏の目にはどう映っているのだろうか。
「スタートから20年以上が経過し、来場者も新陳代謝と言いますか、新しい層に入れ替わっています。当初は海外からのアーティストが中心でしたが、ある時期から日本人アーティストも多くブッキングされるようになり、当初の客層とは変わりましたし、コロナ前のフジロックの来場者の1割が外国人で、ごみ袋に印刷するメッセージも多言語にしたほうがいいのではないか、という意見も出るほどでした。新しい課題は何年か周期で起き、その度にごみやセキュリティについての見直しが行われ、iPledgeからの提案を検討しながら前に進んできました。一気に解決できない問題だからこそ、時代や状況に即した改善を繰り返しながら、今やれることをやるという諦めないアクションを続けることが重要だと考えています」
こういった活動内容の効果測定はなかなかしづらいものの、人材面においては目に見える成果も表れている。大規模フェスでは、初期からボランティアの存在は、運営に欠かせないものとなっている。フジロックでの活動に参加した学生ボランティアの中には各NGOのコアスタッフになったり、企業のCSR関連部署に就職したりするケースも少なくない。
「一緒に活動するiPledgeでは、学生に対して環境活動のリーダー育成トレーニングなども行っています。フェスでのボランティア経験をもとに、自ら団体を立ち上げるケースも増えていて、例えば『RISING SUN ROCK FESTIVAL』で活動する北海道のNPO法人ezorockもその1つ。初期にはA SEED JAPANとタワーレコードで彼らの活動をサポートしていました。ちなみにezorockでは09年からライスレジンのごみ袋を採用していて、今回のフジロックのごみ袋も彼らの先行事例に倣ったものなんです」
「協賛なんですけど、長年活動を続けているので感覚的には運営側なんですよね」と坂本氏。これまで当たり前のことのように継続されてきた活動は、今ではフジロックの一部として、なくてはならぬものになっている。コロナ禍にも前進を止めなかったフジロックの環境への取り組みが、来年以降どのようにアップデートされるのか、大きな期待を持って注視していきたい。
文・児玉澄子
■「NO MUSIC, NO LIFE.」の精神にも通底する音楽フェスでの環境保全活動
新型コロナウイルスの影響により2020年は中止、21年は国内アーティストのみの出演というイレギュラーな形での開催となったフジロック。今年は、4日間のべ来場者数は6万9000人と例年の半数程度だったものの、3年ぶりに海外アーティストを招聘しての「いつものフジロック」となった。
入場ゲートで来場者にごみ袋が手渡される風景もいつも通り。同フェスでは例年、主催するスマッシュと環境NGO、タワーレコードが共同で、リサイクルのごみ袋の製作・配布を行っている。ごみ袋を開くとほんのりお米の香りがすることに気づく。地元・新潟の非食用米を有効活用した日本発のお米のバイオマスプラスチック“ライスレジン”が使われているからだ。
そう説明してくれたのは、タワーレコードの坂本幸隆氏(営業戦略室ブランドマネジメント部部長)。音楽ファンならずとも多くの人に認知されている、タワーレコードの企業メッセージ「NO MUSIC, NO LIFE.」の制作に一貫して携わってきた人物だ。フジロックとの関りも、タワーレコードが初協賛した初年度の97年からと25年に及ぶ。
もともとは野外フェスの継続のために始められた活動であったが、音楽と社会との関わりをテーマにする「NO MUSIC, NO LIFE.」の精神にも通じることから、第2回開催からは国際青年環境NGO「A SEED JAPAN」(現・iPledge)とパートナーシップを組み、フジロックをはじめとするさまざまなイベントで、共同して活動を行っている。
「目的を持ち、確認しに行く場となっているフェスが多い中にあって、多様性を重んじるフジロックに魅力を感じています。主催するスマッシュ代表の日高(正博)さんにも、多様なものに触れられる場所という意味で、フジロックの会場とタワーレコードの店内は似ていると言われ、共感しました。ごみ袋を配布し、会場をクリーンに保つことは野外フェスの継続のための1 つの目標ではありますが、その一方で、音楽ファンと環境をはじめとする様々な社会の問題について考える機会を共有したいという思いもありました。イベントの数日間を特別なものにせず、そこで得た気づきを普段の生活の中で次のアクションにつなげてもらいたいと考えたんです」(坂本氏/以下同)
■デザインや伝え方にも時代が反映されるフジロックのごみ袋シリーズ
そんな思いから、当初配布されたごみ袋には「自分のことは自分で」といったストレートなメッセージがつづられていた。しかし、活動が徐々に定着してきた3年目あたりで、自分たちのメッセージは伝わっているのか、と疑問に感じるようになったという。
「楽しもうとフェス会場に来ている人に、説教臭いメッセージの入ったごみ袋を配って、果たして伝わるの? カッコイイほうがインパクトがあって、メッセージも読んでもらえるんじゃないの? そう思ったんです。そこで、02年に立花ハジメさんと横尾忠則さんのデザインによるごみ袋を配布しました」
手応えを感じた翌03年からはペットボトルをリサイクルしたごみ袋を製作し、そのデザインはCLUBKING×THE LINCOLN GRAPHICSが手がけている。そして04年には「芸術は爆発だ」の名言を残した芸術家・岡本太郎氏の顔写真を使用。そのコピー「BE TARO!」は糸井重里氏(コピーライター・エッセイスト)が考案するという、ごみ袋とは思えない豪華版となった。
「当時、今の渋谷駅に掲出されている巨大壁画『明日の希望』が南米で発見され、それを修復するために日本に持ち帰るキャンペーンを、糸井重里さんたちが始めていました。その流れで、『岡本太郎をもう一度日本国内で認知させたいから、何か一緒にやれないか?』というオファーをいただいたことが始まりでした。そこで、夏フェス会場のごみ袋を提案したわけですが、まさか承諾してもらえるとは思いませんでした(笑)」
「NO MUSIC, NO LIFE.」同様に、毎年デザインが変わるフジロックのごみ袋シリーズも、自然と時代を反映するものとなっている。ちなみに今年のタワーレコードのデザインは、近年コラボレーションが続く、ボードウォークのキャラクターでもあるMADBUNNYを起用。手に持つ看板には、昨今のウクライナ情勢を鑑み「LOVE PEACE」の文字が刻まれている。
■コロナ禍で活動内容に変化 物価の値上がりも直撃
例年、タワーレコードとiPledgeがコラボレーションしたブースでは、iPledgeのボランティアによるナビゲートで来場者がペットボトルのラベルやキャップ、紙コップ、割り箸などを分別するキャンペーンが展開されている。分別されたごみは、ごみ袋やトイレットペーパーなどにリサイクルされ、翌年のフジロックで活用されるといった会場循環型の仕組みを実現している。来場者が例年の4分の1以下だった昨年は、多くの協賛企業が参加を見合わせる中このコラボブースが変わらず活動を行う光景が印象的だった。しかし、コロナ禍でその活動内容にも変化が生じている。
「今まではごみの分別を来場者が体験できる取組みを行っていました。しかしコロナ禍では、他人の手にしたごみに触れることで感染する可能性もゼロではありません。来場者にリスクを負わせるわけにはいかないため、今年は環境クイズという形でごみについて考えるブースを運営し、参加者にはタワーレコードのタオルをプレゼントしました。また、ボランティアの人数も感染への不安からかコロナ前の半分程度となりました。様々な制限がかかる中で、NGOのコアスタッフの方々の工夫で活動が継続しています」
コロナだけではない。今の原油高をはじめとする物価の値上がりは、当然ながら前出のごみ袋の製作費増にも及んでいる。製作枚数はコロナ前の半分程度であったにも関わらず、費用は例年と同じだったからだ。「これまでの中でもっともお金も時間もかかった」と坂本氏は苦笑い。おそらくフェス会場のそこかしこで、同様の気づきがあったものと推察される。
■フェスでのボランティア経験で育成される人材 全国に広がる環境活動の輪
現代日本の野外フェスの先駆となったフジロックの初開催から25年経ち、フェスを起点とする環境ネットワークの輪は若い世代に広がり続けている。また、フジロックが「世界一クリーンなフェス」と評価されるように、来場者の間にも環境意識がしっかりと浸透しているように見えるが、長らくこの活動に携わっている坂本氏の目にはどう映っているのだろうか。
「スタートから20年以上が経過し、来場者も新陳代謝と言いますか、新しい層に入れ替わっています。当初は海外からのアーティストが中心でしたが、ある時期から日本人アーティストも多くブッキングされるようになり、当初の客層とは変わりましたし、コロナ前のフジロックの来場者の1割が外国人で、ごみ袋に印刷するメッセージも多言語にしたほうがいいのではないか、という意見も出るほどでした。新しい課題は何年か周期で起き、その度にごみやセキュリティについての見直しが行われ、iPledgeからの提案を検討しながら前に進んできました。一気に解決できない問題だからこそ、時代や状況に即した改善を繰り返しながら、今やれることをやるという諦めないアクションを続けることが重要だと考えています」
こういった活動内容の効果測定はなかなかしづらいものの、人材面においては目に見える成果も表れている。大規模フェスでは、初期からボランティアの存在は、運営に欠かせないものとなっている。フジロックでの活動に参加した学生ボランティアの中には各NGOのコアスタッフになったり、企業のCSR関連部署に就職したりするケースも少なくない。
「一緒に活動するiPledgeでは、学生に対して環境活動のリーダー育成トレーニングなども行っています。フェスでのボランティア経験をもとに、自ら団体を立ち上げるケースも増えていて、例えば『RISING SUN ROCK FESTIVAL』で活動する北海道のNPO法人ezorockもその1つ。初期にはA SEED JAPANとタワーレコードで彼らの活動をサポートしていました。ちなみにezorockでは09年からライスレジンのごみ袋を採用していて、今回のフジロックのごみ袋も彼らの先行事例に倣ったものなんです」
「協賛なんですけど、長年活動を続けているので感覚的には運営側なんですよね」と坂本氏。これまで当たり前のことのように継続されてきた活動は、今ではフジロックの一部として、なくてはならぬものになっている。コロナ禍にも前進を止めなかったフジロックの環境への取り組みが、来年以降どのようにアップデートされるのか、大きな期待を持って注視していきたい。
文・児玉澄子
2022/08/22





