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エンタメDAOでクリエイターエコノミー実現 ファン参加で映画作りに挑む『SUPER SAPIENSS』

 今年1月19日、映像監督の堤幸彦氏、本広克行氏、佐藤祐市氏が集い、記者発表が行われた。その内容は、3氏が共同で制作を指揮し、ファンと共に原作づくりから映像化にいたる全プロセスに挑むプロジェクト『SUPER SAPIENSS(スーパーサピエンス)』の発足というもの。このニュースには、単なる新作の製作発表ではなく、日本エンタテインメントの未来を切り拓くことになるかもしれない、革新的な挑戦が秘められている。それは、映像製作における「新しいシステム構築」と、ブロックチェーン技術を用いて製作資金を集めるという、日本初の「エンタメDAO(ダオ)」の立ち上げだ。

日本エンタメを活性化する新しい仕組み『SUPER SAPIENSS』

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■「まだ本当に作りたいものが作れていない』日本のエンタメを取り巻く閉塞感の訳

 長年にわたり、日本の映像エンタテインメントにおけるモノ作りの在り方に閉塞感を感じていたというのは、本プロジェクトの発起人で、映画プロデューサーの森谷雄氏。いくら自分が面白いと思う物語があっても、製作委員会の理解を得られなければ映画化できないのが現状だ。しかも合議制の中では、どうしてもリスクの少ない無難な作品に落ち着く傾向が強くなってしまう。

森谷雄氏(アットムービー代表取締役)

森谷雄氏(アットムービー代表取締役)

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「ふと気がつくと、映画ではポン・ジュノ監督がオスカーを受賞し、音楽ではBTSが世界を席巻し、そしてドラマでは『イカゲーム』が大ヒット。日本のエンタメ界が国内市場だけを見続けてきた間に、韓国は自分たちのオリジナル作品を世界に発信し、大ヒットさせたわけです。それを目の当たりにして、今の飽和状態となっている日本特有のモノ作りの仕組みを何とかしないといけないと感じていました。そんなとき、ある映画祭のカンファレンスで3監督が口にした、『まだ本当に作りたいものが作れていない』という発言にショックを受けて、完全にスイッチが入りましたね。それが、原作を作るところから、映像作品化までを一気通貫するプロジェクト『SUPER SAPIENSS』の始まりです」(アットムービー代表取締役・森谷雄氏/以下、森谷氏)

 2000年代に数々の興行収入記録を打ち立てた製作委員会形式での映画製作は、確かに合理性の面などでのメリットがある。だがしかし、森谷氏は「日本の映画作りが、そればかりになってしまったことが問題」だと語る。

「日本の映画界をけん引してきた3監督が賛同した、今回の新しい企画を持ち込んだとしても、結局のところ出演者や脚本は誰か、資金はいくらか、配給はどこかを聞かれ、ほとんどの人は我々の挑戦の理解を示さないわけです。これでは、いつまでたってもクリエイターが本当に作りたいものを作れない。そこで、かつて当社(アットムービー)に在籍して、映画業界の状況もよく知り、今ではテック業界の第一人者である國光さんに、新しい仕組みでIP作りや映画作りができる方法はないかと相談したんです」(森谷氏)

 そんな森谷氏に対して國光氏が提案したのが、ブロックチェーンを活用し、サポーターと共に新時代のIP創造に挑むという、「エンタメDAO」だった。

「最近、クリエイターエコノミーという言葉がよく使われますが、YouTubeやインスタなどの広告系、投げ銭やサブスクリプションサービスしかり、実際に利用されているプラットフォームは、その収益の多くがプラットフォーマーのものとなるためクリエイターへの見返りも少なく、応援するファンも“ギブ(Give)”のみで見返りがありません。その構造を崩して、クリエイターにも、応援したファンにもメリットがある仕組みをDAOで作っていきたいと考えたんです」(フィナンシェ代表取締役CEO/ファウンダー・國光宏尚氏/以下、國光氏)

國光宏尚氏(フィナンシェ代表取締役CEO/ファウンダー)

國光宏尚氏(フィナンシェ代表取締役CEO/ファウンダー)

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■すでにスポーツ領域では実現 クリエイターとファンの継続的な絆を築くDAOの可能性

 では、DAO(Decentralized Autonomous Organization)とは一体何なのだろうか。日本語では“分散型自立組織”と訳される新しい形態だが、國光氏によると、DAOの概念を理解するうえでのキーワードは、“ビジョン”“コミュニティ”“独自トークン(認証)”の3つだと言う。「重要なのは、まずしっかりとしたビジョンがあること。すると、それに賛同する人々が集まり、コミュニティが生まれます。そのコミュニティに対して独自のDAOトークンを発行し、賛同者が“会員証”的に購入する。これがDAOの最小構成の形です。賛同者がトークンを購入することで資金が集まる一方、コミュニティが大きくなれば、需要と供給の関係でトークンの価値が変わり、価値が上がればファンにもメリットが生まれる。ここが従来のクラウドファンディングとの大きな違いで、ファンも含めて、みんなで盛り上げていけば、みんながハッピーになれる可能性が高まるわけです」(國光氏)

 國光氏がCEOを務めるフィナンシェでは、スポーツ領域でDAOトークンを使い、チームとサポーターが継続的な絆を築けるという新しい応援の形を実現している。すでに湘南ベルマーレやアビスパ福岡といったサッカー、野球、卓球など計45のスポーツチームで、サポーターに向けてチーム独自のトークンを発行・販売して、サポーターとともに新たなチャレンジに取り組んでいる。それをエンタテインメント領域に拡大しようというのが今回の試みだ。

トークン発行型ファンディング:トークン購入者は支援だけでなくコミュニティを通じて投票権や抽選特典が与えられる

トークン発行型ファンディング:トークン購入者は支援だけでなくコミュニティを通じて投票権や抽選特典が与えられる

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 システムそのものはどちらもDAOだが、エンタメDAOの場合、スポーツDAOとはまた違った大きな可能性を秘めているという。

「トークン購入者は我々の『SUPER SAPIENSS』に賛同して集まってくれた人々であり、全員がクリエイターだと考えています。純粋に応援してくれる人はもちろんのこと、なかには映像を撮っている人、脚本書いている人、音楽を作っている人などもいるはずです。そういうクリエイターたちがどんどん入ってきてくれたら意見交換ができますし、それが3監督のヒントとなって、じゃあこういう風に映像化してみようか、と考えるかもしれない。つまり、コミュニティの人たちもモノ作りに参加できるということなんです」(森谷氏)

 つまりエンタメDAOで注目すべきは、トークン購入者は成果物の完成を待つだけでなく、原作から映像化に至る製作過程も見ることができ、意見もできるコミュニティ参加者であるという点。そこには、プロセスエコノミーが実現されており、さらには原作が共有されているため、コミュニティ内で二次創作も歓迎される。クオリティさえ高ければ、それが作品と成り得る可能性も十分に秘めている。まさに作りたいものを作れ、認められれば作品となり、それに適した見返りも生まれる。これは、森谷氏と國光氏が目指す運や人脈に左右されない、真の意味でのクリエイターファースト、そしてクリエイターエコノミーの実現である。

「僕らはこれまで、『この物語は絶対に面白い』と思った時に、企画を誰かの所へ持っていかなければならず、担当者に理解してもらえなければ、そこで話は終わってしまっていた。でもこれからは、「絶対に面白いと思ったから映画を作りました。これを欲しい人はいますか?』という時代。むしろそうならないと、日本のエンタテイメント界は、本当に終わってしまうんじゃないかという危機感すら持っています」(森谷氏)

■エンタメ界のシステムをアップデート 日本版マーベル目指す『SUPER SAPIENSS』の終わりのない物語

共創型コミュニティを実現。クリエイターはパートナーであるサポーターの意向を汲んだ作品作りを目指す

共創型コミュニティを実現。クリエイターはパートナーであるサポーターの意向を汲んだ作品作りを目指す

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 森谷氏と國光氏が抱く危機意識は、映像に限らず他のエンタテインメントにも共通する部分が多々ある。例えば、音楽分野でもこのDAOを上手く活かしていけるのだろうか。内容は多岐にわたれども、アーティストが抱くあらゆる目標や夢は、DAOの重要なビジョンと成り得る。それらはファンから共感が得やすいため、自然とコミュニティも広がっていくだろう。ではその時、従来のファンクラブを発展させる形とDAOで、何が違ってくるのだろうか。「一番の違いは、従来のファンクラブでは、主宰者が動かなければ何も起こらないことです。でもDAOなら、コミュニティに参加しているメンバーが自立して活動できます。例えば、コミュニティ内でグッズ考案もできますし、新規ファンを呼び込むのも大きな貢献となります。メンバーが増えてトークンの価値が上がれば、メンバーにも見返りがあります。しかも収益は、プラットフォーマーではなく、アーティストに届きます。もちろん、ピュアに作品を広めたり、トークンを購入してアーティストを応援したりするだけでも1つの貢献の形ですし、何よりも大切な自己実現につながると思います」(國光氏)

 『SUPER SAPIENSS』の挑戦は、映像業界に新しい風を吹き込むだけでなく、エンタテインメント界全体のシステムを大きくアップデートさせるという点でも、大きな意義を感じさせるものだ。とくにモノ作りとDAOという最新テックを結び付けることで、想像を超えた新しいコミュニティが形成されることへの期待は大きい。

 現在、『SUPER SAPIENSS』では、物語の源流を作り、絶対的なストーリーツリーが3監督と共有されている状態だと言う。そして、その物語は1つの作品で終わるものではなく、いくつもの枝分かれをしていくものになるという壮大な構想も明かしてくれた。

第1弾作品は縦スクロール型のオールカラー電子コミック・ウェブトゥーン

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「日本版マーベルと言っていいと思います。今後コミュニティの中から、3監督の後を継ぐ次世代の監督が生まれるかもしれない。とにかく、いろんな人に入ってきてもらって、自分がやれること、やりたいことを自由にやっているうちに、世界に出ていくパワーを持つ。それくらいのことが起きる可能性を持つコミュニティが、今、始まったという段階なんです」(森谷氏)

 本格的な映像コンテンツの足がかりとなる第1弾作品としては、縦スクロール型のオールカラー電子コミック・ウェブトゥーン制作が予定されている。さまざまな可能性を秘めたエンタメDAO。そのファーストケースである『SUPER SAPIENSS』が今後どんな展開を見せていくのか。その動向を見守っていきたい。

文・布施雄一郎

■SUPER SAPIENSS トークン発行型ファンディングページ
https://financie.jp/users/supersapienss/cards

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  • 日本エンタメを活性化する新しい仕組み『SUPER SAPIENSS』
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