今年4月8日の誕生日に古希を迎えた、桃井かおり。この日の服装は、黒のパンツスーツ。ジャニス・ジョプリンのポートレートのようなイメージで撮影しようと、黒の背景布を用意してスタンバイしているところに桃井が現れた。イメージを伝えて1枚、試し撮りをする。その写真をひと目見て、桃井はとっさにジャケットを脱ぎ、スタイリストがたまたま持っていたスカーフを身にまとって、「こっちの方が良いと思うのよね」とポーズを撮り始めた。
桃井とカメラマンのヒリヒリするようなセッション。「いいんじゃない」と、桃井が納得の笑顔を見せ、その場にいた全員の緊張がほぐれた。“アドリブを連発するタイプの女優”という噂は聞いていたが、こちらがあらかじめ用意していたプランを遥かに凌駕する、“桃井かおり”ここにあり、を目の当たりにした数分間だった。
12歳から英国にバレエ留学。高校卒業後、文学座付属演劇研究所に所属し、1971年に『あらかじめ失われた恋人たちよ』で映画デビュー。以降、山田洋次監督の映画『幸福の黄色いハンカチ』(77)やドラマ『熱帯夜』(松田優作と共演)、『前略おふくろ様』(萩原健一と共演)など人々の記憶に残る名作映画・ドラマに多数出演。化粧品のCMでタイムレスな美肌のイメージがある人も多いだろう。ロブ・マーシャル監督の映画『SAYURI』(2005年)でハリウッドデビューを果たし、54歳の時に生活拠点をロサンゼルスに移し、64歳で結婚したことでも世間を驚かせた。歌手、プロデューサー、デザイナー、エッセイストなど多くの顔を持ち、奔放なスタイルで躍進を続けている。
■久しぶりのドラマ出演『緊急取調室』天海祐希との幸せな“時間”
今回、ドラマの撮影のため、“2週間の隔離生活”を覚悟して帰国。出演するのは、天海祐希主演の人気ドラマ『緊急取調室』(テレビ朝日系で7月8日スタート、毎週木曜 後9:00)だ。第1話で、飛行機のハイジャックを企てた大國塔子役を演じる。
オファーを受けた理由を聞くと「天海に会いたかったというのが一番」と即答した。「一緒に飲んでいて、こんなに気持ちいい女はいない。桃井かおり史上、一番いい女優さん。人柄も素晴らしいわけ。座長としての仕切りから気遣いから見事なもの。知力もものすごく高いから、台本の内容に関して意見を交わしていても、ものすごく楽しかった。それに、兄貴みたいなところもあって、ものすごく支えてくれるわけ。お芝居をしてすごく面白かったし、人として支えてもらって、すっかり惚れてしまって、交際を申し込みました」。
これに、天海は「交際期間が面倒だったので、すぐ結婚してください」と返したそう。もう一つ、惚れ込んだのが井上由美子氏の脚本だ。
「井上さんとは別件で話をしていた時に、『これやらない?』って。もともと好きなドラマだったし、第1話の台本をいただいて、50年間地下に潜っていたテロリストの役ということで、真壁(天海)の取り調べを受けてみたいな、と思いました。それに、井上さんの脚本は、完成度の高さとか会話の面白さとか、ほめるところはたくさんあるんだけど、物語の中で新しい“テーマ”を生み落としていくんですよね。今回のテーマは“時間”だったと思います」
学生運動のカリスマ的存在で、公安にマークされ、50年間地下に潜伏していた塔子。その役作りには、奇しくも新型コロナウイルス対策でロックダウン(都市封鎖)を経験した桃井の実体験が生かされることになった。
「2020年3月にロックダウンしてから、1年4ヶ月、買い物にも3回しか行けず、夫以外、誰とも会わずに生活していたんです。その時に私が感じた時間が止まったような感覚。世間と隔離されたような状況の中でどういう精神状態になるのか。そこに“時間”というものが重くのしかかってくる。50年経てば、19歳の女の子はおばあさんになっているわけ。女が老けるということが、どういうことか。私もそうだけど、『かおりちゃん』と呼ばれ、『いま、一番勢いがある若い子』ともてはやされてから、あっという間におばあさんになるわけじゃない。そのキツさ。思想は、美貌を超えられないのよ。私も70歳になったなんて信じられないけど、年をとるって、あっという間にやってくる。そいういう私自身経験したことすべてを塔子に注ぎ込んで演じました」
天海との取り調べシーン(小日向文世演じる小石川も同席)では、長回しの一発撮りを敢行。あらゆる犠牲を払ってでも、このシーンをより良いものにしようと挑んだ役者たちの思いがスパークする刺激的なシーンになったようだ。
■50歳からの働き方改革 「嫌なことはしない」
劇中の塔子とは正反対に、桃井自身は動き続け、むしろ50歳を過ぎてから日本を飛び出して、活発化。どんな心境の変化があったのだろうか?
「私はかつて『徹子の部屋』にくわえタバコで出た女です。バカでしょう(笑)。なんの必要があったの?って、今は思う。そういう恥をいっぱいかいてきた。だから、昔のテープは全部燃やしました(笑)。コロナでこもっている間に、自分がしてきた不始末を反省しましたね。チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』(※)で、主人公が自分の墓を見た時みたいに。樹木希林さんが亡くなった時に、ある人から『生きている恐竜は、桃井かおりだけになった』と冗談交じりに言われたことがあったんです。あぁ、自分は恐竜だったから、あんなに大変だったんだ、なんて、客観視しちゃったりして。一人ぼっちになってしまった恐竜です。滅亡していないといけない生き物なのに、まだ生きているって感じでしょう」
※守銭奴の主人公がクリスマス・イヴに幽霊たちと、過去・現在・未来の旅をした結果、改心をする話。
フォトセッションとはまるで違う、インタビュー時の力の抜けた快活さ。このギャップも桃井かおりなのか、とただただ恐れ入った。あなたのように人生の後半を輝かせたいと思っている人に、何か秘けつがあったら教えてもらいたいと思ったので、そのまま聞いた。
「嫌なことはしない、って決めているの。おいしいものは食べたい、まずいものは食べたくない。でも、餓死するくらいならまずいものでも食べるけど、という程度のことなんだけど。デビューしたての頃は、『時代を代表する…』とか、『存在感のある芝居を…』と言われたけど、ハッと気がついたら、自分より年下の主役の子に意地悪するお姉ちゃんの役がきたりするわけじゃない? 主役のお母さん役とか、お局役とか。年を重ねていくうちに、求められる役も変わってきて、それを自分はやりたいのかどうか、ってこと。私は、やりたくないと思ったから、無理して引き受けないことにしたの。『逃げなきゃ』って感じだったわね。自分の働き方改革を自分でやったわけ」
50歳を過ぎてから、メジャーなところからは距離を置き、インディーズ映画との関わりを深めていった。海外作品にも出演するようになり、自身の短編小説を映画化した『無花果の顔』(06年)で長編監督デビューも果たした。監督2作目『火 Hee』(16年)は、べルリン国際映画祭で上映されて注目を集めた。
「10年間に8本の海外の作品に出たんだけど、私が出ている映画を見たって人から声がかかって、『メキシコで撮るんだけど…』というから、じゃあメキシコ行くか、みたいなことの繰り返しでしたよね、50代、60代は。映画に出たらこうなった。映画を作ったらこうなった。すべて転がっていった感じですよ」
いい方向に転がっているのは本人が持っている運もあるのかもしれないが、運は自分で行動して、初めて掴むことができるものだ。
「だから用心深く、飛べってことかな。自分がこうなりたい、ああなりたい、っていう夢があるでしょう。その夢って、所詮、自分が思い描いていることだからさ、手が届かないように思えて、実は少し頑張って手を伸ばせばつかめるくらいところにあったりする。それが夢なんだよね。どう? いいこと言ったでしょう?」
インタビューに立ち会っていた『緊急取調室』のスタッフなどからも思わず拍手が沸き起こった。
桃井とカメラマンのヒリヒリするようなセッション。「いいんじゃない」と、桃井が納得の笑顔を見せ、その場にいた全員の緊張がほぐれた。“アドリブを連発するタイプの女優”という噂は聞いていたが、こちらがあらかじめ用意していたプランを遥かに凌駕する、“桃井かおり”ここにあり、を目の当たりにした数分間だった。
12歳から英国にバレエ留学。高校卒業後、文学座付属演劇研究所に所属し、1971年に『あらかじめ失われた恋人たちよ』で映画デビュー。以降、山田洋次監督の映画『幸福の黄色いハンカチ』(77)やドラマ『熱帯夜』(松田優作と共演)、『前略おふくろ様』(萩原健一と共演)など人々の記憶に残る名作映画・ドラマに多数出演。化粧品のCMでタイムレスな美肌のイメージがある人も多いだろう。ロブ・マーシャル監督の映画『SAYURI』(2005年)でハリウッドデビューを果たし、54歳の時に生活拠点をロサンゼルスに移し、64歳で結婚したことでも世間を驚かせた。歌手、プロデューサー、デザイナー、エッセイストなど多くの顔を持ち、奔放なスタイルで躍進を続けている。
■久しぶりのドラマ出演『緊急取調室』天海祐希との幸せな“時間”
今回、ドラマの撮影のため、“2週間の隔離生活”を覚悟して帰国。出演するのは、天海祐希主演の人気ドラマ『緊急取調室』(テレビ朝日系で7月8日スタート、毎週木曜 後9:00)だ。第1話で、飛行機のハイジャックを企てた大國塔子役を演じる。
オファーを受けた理由を聞くと「天海に会いたかったというのが一番」と即答した。「一緒に飲んでいて、こんなに気持ちいい女はいない。桃井かおり史上、一番いい女優さん。人柄も素晴らしいわけ。座長としての仕切りから気遣いから見事なもの。知力もものすごく高いから、台本の内容に関して意見を交わしていても、ものすごく楽しかった。それに、兄貴みたいなところもあって、ものすごく支えてくれるわけ。お芝居をしてすごく面白かったし、人として支えてもらって、すっかり惚れてしまって、交際を申し込みました」。
これに、天海は「交際期間が面倒だったので、すぐ結婚してください」と返したそう。もう一つ、惚れ込んだのが井上由美子氏の脚本だ。
「井上さんとは別件で話をしていた時に、『これやらない?』って。もともと好きなドラマだったし、第1話の台本をいただいて、50年間地下に潜っていたテロリストの役ということで、真壁(天海)の取り調べを受けてみたいな、と思いました。それに、井上さんの脚本は、完成度の高さとか会話の面白さとか、ほめるところはたくさんあるんだけど、物語の中で新しい“テーマ”を生み落としていくんですよね。今回のテーマは“時間”だったと思います」
学生運動のカリスマ的存在で、公安にマークされ、50年間地下に潜伏していた塔子。その役作りには、奇しくも新型コロナウイルス対策でロックダウン(都市封鎖)を経験した桃井の実体験が生かされることになった。
「2020年3月にロックダウンしてから、1年4ヶ月、買い物にも3回しか行けず、夫以外、誰とも会わずに生活していたんです。その時に私が感じた時間が止まったような感覚。世間と隔離されたような状況の中でどういう精神状態になるのか。そこに“時間”というものが重くのしかかってくる。50年経てば、19歳の女の子はおばあさんになっているわけ。女が老けるということが、どういうことか。私もそうだけど、『かおりちゃん』と呼ばれ、『いま、一番勢いがある若い子』ともてはやされてから、あっという間におばあさんになるわけじゃない。そのキツさ。思想は、美貌を超えられないのよ。私も70歳になったなんて信じられないけど、年をとるって、あっという間にやってくる。そいういう私自身経験したことすべてを塔子に注ぎ込んで演じました」
天海との取り調べシーン(小日向文世演じる小石川も同席)では、長回しの一発撮りを敢行。あらゆる犠牲を払ってでも、このシーンをより良いものにしようと挑んだ役者たちの思いがスパークする刺激的なシーンになったようだ。
■50歳からの働き方改革 「嫌なことはしない」
劇中の塔子とは正反対に、桃井自身は動き続け、むしろ50歳を過ぎてから日本を飛び出して、活発化。どんな心境の変化があったのだろうか?
「私はかつて『徹子の部屋』にくわえタバコで出た女です。バカでしょう(笑)。なんの必要があったの?って、今は思う。そういう恥をいっぱいかいてきた。だから、昔のテープは全部燃やしました(笑)。コロナでこもっている間に、自分がしてきた不始末を反省しましたね。チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』(※)で、主人公が自分の墓を見た時みたいに。樹木希林さんが亡くなった時に、ある人から『生きている恐竜は、桃井かおりだけになった』と冗談交じりに言われたことがあったんです。あぁ、自分は恐竜だったから、あんなに大変だったんだ、なんて、客観視しちゃったりして。一人ぼっちになってしまった恐竜です。滅亡していないといけない生き物なのに、まだ生きているって感じでしょう」
※守銭奴の主人公がクリスマス・イヴに幽霊たちと、過去・現在・未来の旅をした結果、改心をする話。
フォトセッションとはまるで違う、インタビュー時の力の抜けた快活さ。このギャップも桃井かおりなのか、とただただ恐れ入った。あなたのように人生の後半を輝かせたいと思っている人に、何か秘けつがあったら教えてもらいたいと思ったので、そのまま聞いた。
「嫌なことはしない、って決めているの。おいしいものは食べたい、まずいものは食べたくない。でも、餓死するくらいならまずいものでも食べるけど、という程度のことなんだけど。デビューしたての頃は、『時代を代表する…』とか、『存在感のある芝居を…』と言われたけど、ハッと気がついたら、自分より年下の主役の子に意地悪するお姉ちゃんの役がきたりするわけじゃない? 主役のお母さん役とか、お局役とか。年を重ねていくうちに、求められる役も変わってきて、それを自分はやりたいのかどうか、ってこと。私は、やりたくないと思ったから、無理して引き受けないことにしたの。『逃げなきゃ』って感じだったわね。自分の働き方改革を自分でやったわけ」
50歳を過ぎてから、メジャーなところからは距離を置き、インディーズ映画との関わりを深めていった。海外作品にも出演するようになり、自身の短編小説を映画化した『無花果の顔』(06年)で長編監督デビューも果たした。監督2作目『火 Hee』(16年)は、べルリン国際映画祭で上映されて注目を集めた。
「10年間に8本の海外の作品に出たんだけど、私が出ている映画を見たって人から声がかかって、『メキシコで撮るんだけど…』というから、じゃあメキシコ行くか、みたいなことの繰り返しでしたよね、50代、60代は。映画に出たらこうなった。映画を作ったらこうなった。すべて転がっていった感じですよ」
いい方向に転がっているのは本人が持っている運もあるのかもしれないが、運は自分で行動して、初めて掴むことができるものだ。
「だから用心深く、飛べってことかな。自分がこうなりたい、ああなりたい、っていう夢があるでしょう。その夢って、所詮、自分が思い描いていることだからさ、手が届かないように思えて、実は少し頑張って手を伸ばせばつかめるくらいところにあったりする。それが夢なんだよね。どう? いいこと言ったでしょう?」
インタビューに立ち会っていた『緊急取調室』のスタッフなどからも思わず拍手が沸き起こった。
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2021/07/12