2011年にシングル「INORI」でメジャーデビューした4人組バンド・SEKAI NO OWARIのFukase(Vo/G)。そこから10年の節目となる2021年、Fukaseは、菅田将暉主演映画『キャラクター』(6月11日公開)で、連続殺人鬼というセンセーショナルな役で俳優デビューを果たした。音楽とは違う表現に挑んだFukaseは、役者というフィルターを通してどんなことを得たのだろうか――話を聞いた。
■悩んだ俳優のオファー、背中を押した神木隆之介
Fukaseが演じるのは、殺人のやり口にある種のこだわりを持ち、猟奇的な殺人を繰り返す異常者・両角。劇中では、うつろな表情に不気味な笑顔を浮かべる殺人鬼を好演しているが、演技は初経験だ。これまで何度か俳優の仕事のオファーはあったというが「餅は餅屋」という考えが強かったという。「僕自身、映画がすごく好きなので、未熟な人間が入ることによって作品が壊れたり、不完全なものになったりするというのは、個人的にも、一クリエイターとしてもすごく嫌だったんです」。
特に本作では、主演の菅田をはじめ、小栗旬、高畑充希、中村獅童ら演技派と呼ばれる俳優たちが顔をそろえる。「僕らの仕事に例えるなら、まだ楽器を触ったことがないのに『フェスのトリの一つ前をやりませんか』と言われているような話。とてもじゃないですが、そう簡単に『やります』なんて言えませんよね」と笑う。
当然、オファーを受けるまでには、いろいろ悩んだという。バンドのメンバーをはじめ多くの人に相談したというが、「ほとんどの人が『やってみなよ』って言ってくれて……。」と苦笑い。なかでも一番相談に乗ってくれたというのが、俳優の神木隆之介だという。
「たくさん連絡をくれて『出た方がいいし、できると思う』って励ましてくれたんです。特に神木くんが『Fukaseくんが演じるなら、優しい殺人鬼みたいなイメージはどうかな』と言ってくれたので、それをプロデューサーさんや監督にぶつけたんです。そこからなんとなくイメージがつかめていった感じでした」。さらにメンバーからも「ボーカルなんだから、表現者として芝居の仕事をやることは、バンドにとってもいいことだとずっと思っていた」と前向きな言葉をもらった。
こうした周囲の後押しと、撮影に入るまで、十分な時間がとれるスケジュールだったことが、Fukaseの心を動かした。「1年半ぐらいずっとワークショップでレッスンをやらせてもらえたんです。そこで『お芝居とはなんなのか』みたいなことを丁寧に教えていただき、俳優という仕事に丁寧に向き合えたのは大きかったです」。
■殺人鬼が作り上げられるまで
オファーを受けたものの、Fukaseが演じるのはサイコパスのような殺人鬼。非現実的なキャラクターだ。プロデューサーから「Fukaseさんならできますよ」と言い続けられたというが、よりどころになるものはなにもない。物語の冒頭で、菅田演じる漫画家の山城圭吾が「良い奴は悪人が描けない」とダメ出しされるシーンもあり、映画を観たFukaseは「俺のことをみんなは悪人だと思っているから、この役のオファーがあったのかな」と自嘲気味に語る。
Fukaseは「実際はこんな変なことをしていませんよ」と笑うと「どうしても殺人鬼という役が、自分のなかに浮かび上がってこなかったので、演技レッスンのときに、先生にどうしたらいいか聞くと『人生の最初から、自分の大切だと思っている記憶や人を、一つずつ頭のなかから消していってください』と言われたんです」と役へのアプローチ方法を述べる。大切なものを一つずつ消していくことで、「大切なものが周りになくなると、社会のルールやモラルというものは意味をなさなくなる。己の欲望の赴くままに突き進み、人間を人間と思わなくなると両角になれると思ったんです」と解説する。
ヒントは与えてもらったものの、自身で考え、作り上げた両角というキャラクター。そこにはFukaseならではのクリエイティブへのこだわりが垣間見える。「役作りもクリエイティブの一つだと思って取り組んだのですが、なにかを参考に構築すると、パクリにならないように削っていく作業が発生してしまう。それってクリエイティブとは正反対のことだと思ってしまい、精神的にも不健康に感じる。僕はゼロからイチを生み出すタイプだと思っているので、今回の役もなにかの作品を参考にしたということではないんです」。
イメージとして捉えたのは、前述した神木の「優しい殺人鬼」というキーワード。「自分はボーカリストなので、声から入ろうと思って、丸みを帯びたイントネーションでしゃべって、その声を聴きながら、目の動きや性格、仕草をイメージしていきました」とアーティストならではの視点で役を作っていった。
■俳優業と音楽活動の共通点
試行錯誤しながら構築した両角というキャラクター。これまで二の足を踏んでいた俳優業だが、経験することで音楽活動と共通する部分が多々あることに気づいたという。
「今回芝居をやらせてもらううえで、ある俳優さんに『どういう人の演技が下手だと思いますか』と投げかけたんです。それは、もし僕の芝居があまりにも下手だと、菅田くんも引っ張られてしまい下手に見えてしまったら申しわけないと思ったから。そうしたら『感情が目の奥まで行き届いてない人が下手だと思う』という回答をもらったんです。それを聞いて、僕らも歌でなにかを伝えたいと思ったとき、目の奥で歌うことがあったので、抽象的な表現ですが、共通するものがあるなと。このことに気づけたことはすごく大きかったです」。
俳優の経験は、音楽活動にも還元できると断言する。「僕らも自分の歌だけではなく、女性が主人公の歌を書いたりするので、自分とは違う人になって、人に気持ちを伝えるという経験は絶対に活きてくると思います。あいにくいまはコロナ禍でライブなどはできませんが、芝居で得た感覚を忘れないうちに、早くライブやりたいんですよね」と目を輝かせる。
■10年経ってもまだ楽しめている!
多くのことを得た俳優業。さらなる俳優という仕事への野望も湧き上がってきたのかと聞くと「もう恐縮ですとしか言えません。まあ、話もないでしょうけれど」と控え目に語る。続けて「最初だったから、みんな現場で優しかったんだと思うんです。でもここでもう一度……なんて言うと、『こいつ味しめてこっち側来ようとしてんじゃね』ってみんな厳しくなりそう」と笑うと「でも自分じゃない人間として生きる時間というのは貴重な経験だったし、なによりも現場が楽しかった」と充実した日々だったと回顧する。
この「楽しかった」という感情は、Fukaseにとって大きな収穫だった。「表現者として続けていくうえで、一番大切なのはモチベーションを保つことだと思うんです」と語ると、どんな偉大なアーティストでも、才能を持ち続けることはできても、モチベーションを維持するは、非常に難しいと指摘する。
そんななか、メジャーデビュー10年という節目に、映画というまったく違う表現方法を試すことができる場が与えられた。「僕にとっても一番怖いのが慣れなんです。経験を重ねると、ある種の方程式ができてしまう。それが創作活動にとっては、一番の足かせなんです。驚きや感動がなくなってしまうと、クリエイティブは作業になってしまう。それに抗うことって並大抵のことではできない。だからこそ、今回映画という、ある意味用意されたセリフや画角という制約があるなかで新しい表現にチャレンジできたことは、とても大きかったんです」。
「10年経ってもまだ楽しめることがいっぱいある。最高に恵まれているな」。目を輝かせながら語ったFukaseのこの言葉は、映画『キャラクター』という作品が、彼にとってどれだけ大きな出会いだったのかを物語っている。
(取材・文:磯部正和 撮影:KOBA)
映画『キャラクター』
6月11日(金)公開
■原案・脚本:長崎尚志
■監督:永井聡
■出演:菅田将暉、Fukase(SEKAI NO OWARI)、高畑充希、中村獅童、小栗旬
■公式サイト:http://character-movie.jp/
■公式Twitter:@character2021(https://twitter.com/character2021)
■公式Instagram:@character_movie2021(https://www.instagram.com/character_movie2021/)
■(C)2021映画「キャラクター」製作委員会
■悩んだ俳優のオファー、背中を押した神木隆之介
Fukaseが演じるのは、殺人のやり口にある種のこだわりを持ち、猟奇的な殺人を繰り返す異常者・両角。劇中では、うつろな表情に不気味な笑顔を浮かべる殺人鬼を好演しているが、演技は初経験だ。これまで何度か俳優の仕事のオファーはあったというが「餅は餅屋」という考えが強かったという。「僕自身、映画がすごく好きなので、未熟な人間が入ることによって作品が壊れたり、不完全なものになったりするというのは、個人的にも、一クリエイターとしてもすごく嫌だったんです」。
特に本作では、主演の菅田をはじめ、小栗旬、高畑充希、中村獅童ら演技派と呼ばれる俳優たちが顔をそろえる。「僕らの仕事に例えるなら、まだ楽器を触ったことがないのに『フェスのトリの一つ前をやりませんか』と言われているような話。とてもじゃないですが、そう簡単に『やります』なんて言えませんよね」と笑う。
当然、オファーを受けるまでには、いろいろ悩んだという。バンドのメンバーをはじめ多くの人に相談したというが、「ほとんどの人が『やってみなよ』って言ってくれて……。」と苦笑い。なかでも一番相談に乗ってくれたというのが、俳優の神木隆之介だという。
「たくさん連絡をくれて『出た方がいいし、できると思う』って励ましてくれたんです。特に神木くんが『Fukaseくんが演じるなら、優しい殺人鬼みたいなイメージはどうかな』と言ってくれたので、それをプロデューサーさんや監督にぶつけたんです。そこからなんとなくイメージがつかめていった感じでした」。さらにメンバーからも「ボーカルなんだから、表現者として芝居の仕事をやることは、バンドにとってもいいことだとずっと思っていた」と前向きな言葉をもらった。
こうした周囲の後押しと、撮影に入るまで、十分な時間がとれるスケジュールだったことが、Fukaseの心を動かした。「1年半ぐらいずっとワークショップでレッスンをやらせてもらえたんです。そこで『お芝居とはなんなのか』みたいなことを丁寧に教えていただき、俳優という仕事に丁寧に向き合えたのは大きかったです」。
■殺人鬼が作り上げられるまで
オファーを受けたものの、Fukaseが演じるのはサイコパスのような殺人鬼。非現実的なキャラクターだ。プロデューサーから「Fukaseさんならできますよ」と言い続けられたというが、よりどころになるものはなにもない。物語の冒頭で、菅田演じる漫画家の山城圭吾が「良い奴は悪人が描けない」とダメ出しされるシーンもあり、映画を観たFukaseは「俺のことをみんなは悪人だと思っているから、この役のオファーがあったのかな」と自嘲気味に語る。
Fukaseは「実際はこんな変なことをしていませんよ」と笑うと「どうしても殺人鬼という役が、自分のなかに浮かび上がってこなかったので、演技レッスンのときに、先生にどうしたらいいか聞くと『人生の最初から、自分の大切だと思っている記憶や人を、一つずつ頭のなかから消していってください』と言われたんです」と役へのアプローチ方法を述べる。大切なものを一つずつ消していくことで、「大切なものが周りになくなると、社会のルールやモラルというものは意味をなさなくなる。己の欲望の赴くままに突き進み、人間を人間と思わなくなると両角になれると思ったんです」と解説する。
ヒントは与えてもらったものの、自身で考え、作り上げた両角というキャラクター。そこにはFukaseならではのクリエイティブへのこだわりが垣間見える。「役作りもクリエイティブの一つだと思って取り組んだのですが、なにかを参考に構築すると、パクリにならないように削っていく作業が発生してしまう。それってクリエイティブとは正反対のことだと思ってしまい、精神的にも不健康に感じる。僕はゼロからイチを生み出すタイプだと思っているので、今回の役もなにかの作品を参考にしたということではないんです」。
イメージとして捉えたのは、前述した神木の「優しい殺人鬼」というキーワード。「自分はボーカリストなので、声から入ろうと思って、丸みを帯びたイントネーションでしゃべって、その声を聴きながら、目の動きや性格、仕草をイメージしていきました」とアーティストならではの視点で役を作っていった。
■俳優業と音楽活動の共通点
試行錯誤しながら構築した両角というキャラクター。これまで二の足を踏んでいた俳優業だが、経験することで音楽活動と共通する部分が多々あることに気づいたという。
「今回芝居をやらせてもらううえで、ある俳優さんに『どういう人の演技が下手だと思いますか』と投げかけたんです。それは、もし僕の芝居があまりにも下手だと、菅田くんも引っ張られてしまい下手に見えてしまったら申しわけないと思ったから。そうしたら『感情が目の奥まで行き届いてない人が下手だと思う』という回答をもらったんです。それを聞いて、僕らも歌でなにかを伝えたいと思ったとき、目の奥で歌うことがあったので、抽象的な表現ですが、共通するものがあるなと。このことに気づけたことはすごく大きかったです」。
俳優の経験は、音楽活動にも還元できると断言する。「僕らも自分の歌だけではなく、女性が主人公の歌を書いたりするので、自分とは違う人になって、人に気持ちを伝えるという経験は絶対に活きてくると思います。あいにくいまはコロナ禍でライブなどはできませんが、芝居で得た感覚を忘れないうちに、早くライブやりたいんですよね」と目を輝かせる。
■10年経ってもまだ楽しめている!
多くのことを得た俳優業。さらなる俳優という仕事への野望も湧き上がってきたのかと聞くと「もう恐縮ですとしか言えません。まあ、話もないでしょうけれど」と控え目に語る。続けて「最初だったから、みんな現場で優しかったんだと思うんです。でもここでもう一度……なんて言うと、『こいつ味しめてこっち側来ようとしてんじゃね』ってみんな厳しくなりそう」と笑うと「でも自分じゃない人間として生きる時間というのは貴重な経験だったし、なによりも現場が楽しかった」と充実した日々だったと回顧する。
この「楽しかった」という感情は、Fukaseにとって大きな収穫だった。「表現者として続けていくうえで、一番大切なのはモチベーションを保つことだと思うんです」と語ると、どんな偉大なアーティストでも、才能を持ち続けることはできても、モチベーションを維持するは、非常に難しいと指摘する。
そんななか、メジャーデビュー10年という節目に、映画というまったく違う表現方法を試すことができる場が与えられた。「僕にとっても一番怖いのが慣れなんです。経験を重ねると、ある種の方程式ができてしまう。それが創作活動にとっては、一番の足かせなんです。驚きや感動がなくなってしまうと、クリエイティブは作業になってしまう。それに抗うことって並大抵のことではできない。だからこそ、今回映画という、ある意味用意されたセリフや画角という制約があるなかで新しい表現にチャレンジできたことは、とても大きかったんです」。
「10年経ってもまだ楽しめることがいっぱいある。最高に恵まれているな」。目を輝かせながら語ったFukaseのこの言葉は、映画『キャラクター』という作品が、彼にとってどれだけ大きな出会いだったのかを物語っている。
(取材・文:磯部正和 撮影:KOBA)
映画『キャラクター』
6月11日(金)公開
■原案・脚本:長崎尚志
■監督:永井聡
■出演:菅田将暉、Fukase(SEKAI NO OWARI)、高畑充希、中村獅童、小栗旬
■公式サイト:http://character-movie.jp/
■公式Twitter:@character2021(https://twitter.com/character2021)
■公式Instagram:@character_movie2021(https://www.instagram.com/character_movie2021/)
■(C)2021映画「キャラクター」製作委員会
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2021/06/05