ドラマ&映画 カテゴリ
オリコンニュース

広瀬すず「底なし」の魅力 岩井俊二の好奇心を揺さぶる“芝居の上手さ”

■「Film makers(映画と人 これまで、そして、これから)」第32回 岩井俊二監督

 『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』(1993年)、『Love Letter』(1995年)、『スワロウテイル』(1996年)、『四月物語』(1998年)など数々の名作を世に送り出してきた岩井俊二監督。ストーリーラインや設定などさまざまな魅力を持つ岩井監督だが、なかでも特筆すべき点が、スクリーンに映し出される女優の美しさだ――。

映画『ラストレター』の場面カット (C)2020「ラストレター」製作委員会

映画『ラストレター』の場面カット (C)2020「ラストレター」製作委員会

写真ページを見る

この記事の写真はこちら(全3枚)


■岩井俊二監督の新ミューズ広瀬すず森七菜

 最新作『ラストレター』でも、岩井監督の出身地である宮城県を舞台に、手紙の行き違いから始まった世代の違う男女の恋愛模様がミステリアスに描かれるストーリーは、多くの人の共感を呼んでいるが、なかでも広瀬すず、森七菜という二人の新ミューズが活写されているシーンの瑞々しさや美しさは目を見張る。

 「広瀬さんはかなり初期の段階から彼女でいきたいねというのは(企画・プロデュースの)川村(元気)さんとの間でありました。(アニメ映画の)『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の声を広瀬さんにお願いしていたという縁もありましたが、ポテンシャルからしても是非という思いがあったんです。一方の森さんはビデオオーディションの一人だったのですが、最初に映像を見たときのインパクトがすごかった。100人ぐらい応募があったと思いますが、正直ほぼ即決ぐらい迷いがなかったんです」。

 広瀬は、松たか子演じる岸辺野裕里の姉・未咲の回想シーンと、未咲の娘である遠野鮎美の二役、森は裕里の高校時代の回想シーンと、裕里の娘・颯香の二役を演じる。物語の前半は現実の高校生として、ひと夏の日常を切り取った描写が続く。

 「二人に関しては、見せ場はずいぶん後半、回想シーンになってから。逆に言えば前半は物語のメインではないので、遊べたんです。衣装を含めて、いわゆる夏休みの日常を切り取った。一緒に布団を敷いたり、片づけたり。おじいちゃん、おばあちゃんの手伝いで掃除したり、宿題したり……」。

 しかし、ここで描かれた広瀬と森のいわゆる“何気ない夏休みの日常”が後半の物語に大きな役割を果たす。

 「彼女たちは後半になるまで、言ってしまえば出てこなくてもいいというぐらいの役割なのですが、そのなかでの前半戦。ともすると駆け足になってしまいがちのなかで、しっかりと表現する余力を二人が持っていたので、古民家や武家屋敷といった古い建物に、今風の子たちが収まって退屈な時間を過ごしていた感じを描くことで、過去と現在のつながりをジンワリと効かせることができました。物語のオンじゃないところに出てきて、そこから滑り込ませて中心に車線変更していくのは簡単そうで難しい。とても計算が必要なのですが、二人とも芝居が上手なので、非常によいアイドリングになったと思います」。

■広瀬すずは底が見えない

 広瀬と森に対して、“芝居が上手”という表現を使った岩井監督。これまでも「打ち上げ花火〜」の奥菜恵、『Love Letter』の中山美穂、酒井美紀、『スワロウテイル』の伊藤歩、『四月物語』の松たか子、『リリイ・シュシュのすべて』の蒼井優、『花とアリス』の鈴木杏ら、岩井作品では数々の印象的なヒロインが誕生しているが、監督にとって好きな女優とはどんな特性を持っている人なのだろうか。

 「文学的なにおいがする人が好きですね。パッと見てなにを考えているか分かってしまう人は苦手かもしれません。そういう人と出会うと現場で手も足も出なくなることがあります。自然とアップをとらなくなってしまう(笑)。ある意味で気の毒だと思う。生まれつき分かりやすい顔というか……そういう人っているので、可愛そうだなと思うのですが、演じるという仕事において、性格を含めて分かりやすいというのは損だと思います。なにを考えているか分からないような人の方が好きかもしれません」。

 続けて岩井監督は「分かりやすく伝えるように演じることって、そう難しくないんです」と語る。どれだけ底が見えないか……というのが俳優にとって大きな武器になる。その意味で、広瀬も森も岩井監督の好奇心が揺さぶられたようだ。

 「二人とも底の見えない感じはありましたね。僕も経験を重ねてきているので、その人をみると、ある程度『このぐらいかな』という見当はつくものなのですが、すずちゃんに関しては、今回ご一緒しただけでは自分のなかでは把握しきれませんでした。非常に分かりづらい。褒め言葉ですけれどね」。

■打率の高い俳優は侮れない

 作品を重ねても、テイクを重ねても「毎回どれがベストなのかと言われても分からない」と語った岩井監督。「もっといいものがあるかもしれない」と思いつつも、岩井監督のイマジネーションと、俳優のイマジネーションの折り合いのなかで「これが最善だろう」という部分でOKを出す。ときには思いがけない表情が出て大喜びすることもあるが、それだけを追い求めることも映画監督の仕事ではないという。

 「野球で言えば、結構ホームランを打っている印象があっても、打率は低い人っていますよね。でも打率の高い人というのは侮れない。ここぞというときにホームランを打ってくれるのも大切ですが、地味なシーンでどれだけ深みを出せるのかも重要なんです。一つのカットだけが良いよりも、全体のアベレージが高い方が、仕上がりが良く見えることもある。こだわるとキリがない世界なんです」。

 撮影のときは、映画全体の仕上がりのことはほとんど考えていないという。ひたすらワンカットずつ集中し、俳優から刹那的なものを引き出すことに注力をする。撮影が終了したあと編集段階になって初めて映画全体のことを考えるという。「一つ一つのシーンでお互いいろいろなアプローチはしますが、その何百も撮り重ねたなかでなにが描かれたのか、どれだけの表現ができたか、計算してもなかなかその通りにはならないんです」。

 岩井監督の言葉を聞いて作品を観ると、さらに映画というメディアの奥深さや面白さが感じられる。松たか子や福山雅治が奏でる物語はもちろんだが、広瀬と森が魅せる前半から後半にかけての温度の上がり方が、作品に大きな奥行きを与えていることも、この映画の大きな見どころの一つだ。(取材・文・撮影:磯部正和)

関連写真

  • 映画『ラストレター』の場面カット (C)2020「ラストレター」製作委員会
  • 岩井俊二監督 (C)ORICON NewS inc.
  • 映画『ラストレター』の場面カット (C)2020「ラストレター」製作委員会

オリコントピックス

求人特集

求人検索

メニューを閉じる

 を検索