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“特濃ソース顔”が長所の阿部寛と北村一輝、対称的なポジションでシーンをけん引する苦労人50代

 映画が銀幕と呼ばれた頃、スターは「ソース顔」が多かった。だが80年代頃から中性的で「塩顔」「しょうゆ顔」が主流になり現在に至るが、そんななか今期ドラマシーンで異彩を放っているのが『スカーレット』『ニッポンノワール』の北村一輝と『まだ結婚できない男』の阿部寛だ。2人に共通するのは50代、そして映画『テルマエ・ロマエ』でともにローマ人を演じたほどの「特濃ソース顔」。2人は俳優としてのタイプは正反対。双極のポジションながら、エンタテインメントシーンのど真ん中を盛り上げている。そんな2人の軌跡を振り返りつつ、現代における50代俳優の需要を考える。

俳優としての成功までに共通点がある阿部寛と北村一輝 (C)ORICON NewS inc.

俳優としての成功までに共通点がある阿部寛と北村一輝 (C)ORICON NewS inc.

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■話題になりながらも対象的な評価 両輪で今期ドラマシーンを盛り上げる

 13年の時を経て帰ってきた『まだ結婚できない男』。阿部寛演じる桑野信介もリアルタイムで年齢を重ねた53歳であり、その偏屈さは健在。恒例の1人グルメについては、前作では肉厚のステーキなどを食べていたのが今回はしゃぶしゃぶなど、多少の経年変化が。周囲の人々への一向に伝わらない親切心や、親への不器用な愛情表現にもほろりとさせられる。特筆すべきは桑野の奇行。直近では稲森いずみ演じる由希江とのもんじゃデートで見せたコテさばきがSNSで話題に。「桑野さんのコテさばき、速すぎにもほどがある」「もんじゃを魅せる男・阿部寛」などお祭り騒ぎになっており、その一挙手一投足が視聴者を笑わせた。

 一方、北村一輝は今期ドラマ2作で傷跡を。朝ドラ『スカーレット』では、従来の憎めない朝ドラ父とは似て非なる、憎めてもしまう父・常治役。山っ気があり、見栄を張りがちですぐに酒を振る舞い、困った人は見捨てておけない。だが、彼が怒る際にはその裏側に深い愛情があり、視聴者は「いい加減にしろ!」と思いながらも、12日放送回では八郎(松下洸平)と常治のやりとりで爆笑&ほろり。SNSでは「クソ親父に泣かされてしまった…」など感動の声が多く挙がった。

『ニッポンノワール』では、警察組織の黒幕に対峙するアウトローっぽくも正義感のある熱い捜査一課長役。切れると必ず机を蹴り、座ると必ずのけぞって足を組むお約束も映えており、「南部(北村)いつも格好いい」などの声が多数挙がるほか、「朝ドラとニッポンノワールの北村一輝のギャップに笑える」という声などが挙がっている。

■若い頃に辛酸を嘗め、這い上がってきた2人の共通点

 阿部寛はモデルとしてデビューし、ファンション誌『メンズノンノ』のカリスマモデルとして創刊号から43号まで表紙を飾り、連続表紙出演としてギネスにも登録されている。その勢いに乗り、1998年にアイドルとしてアルバムをリリース。だがこれは撃沈。映画『はいからさんが通る』(1987年)や『孔雀王 阿修羅伝説』(1990年)など俳優活動もしていたが、徐々に表舞台で姿を観る機会は減っていった。

 その後はパチンコで生計を立てるなど苦しい日々。だが夕刊フジのインタビューによれば、「週刊誌から『あの人は今』企画に写真を貸せといわれ目が覚めた」。ターニングポイントは1993年の舞台『熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン』(作・演出/つかこうへい)での主演。風間杜夫平田満田中邦衛柄本明岸田今日子ら多くの名優が“つか組”から輩出されているが、阿部もここで演技力を培い、大河ドラマなど時代劇にも挑戦していった。

 そして、ホラー映画『発狂する唇』で得意の古武術やコミカルな芝居を披露して業界で話題になった後、当たり役・上田次郎(『トリック』)と出会う。完全復活を遂げ、人気に。2007年の映画『バブルへGO!!』の舞台挨拶で「最近になり借金を返し終えた」と告白しており、その後の活躍は皆が知る通りだ。

 北村一輝も同様の苦労人。10代で事務所やオーディションを受けるも惨敗。一時は海外放浪していた過去がある。だが、三池崇史監督から現在の芸名を命名されたことも知られているが、その出会いなどがターニングポイントとなり、Vシネでチンピラやヤクザ役など悪役の端役から這い上がってきた。1998年公開『JOKER 厄病神』ではチンピラ役を演じたが、役作りで前歯を抜歯。残りは溶けた歯に似せるため削るほどの情熱を見せた(現在は差し歯)。

 その後頭角を現し、2003年の夏川結衣ユースケ・サンタマリア主演ドラマ『あなたの隣に誰かいる』では北村は「虫の男」と呼ばれる役を。その不気味さで視聴者を震え上がらせた。2006年の石田衣良原作ドラマ『アキハバラ`DEEP』ではオタク社長を公演。『機動戦士ガンダム』のシャア・アズナブルのコスプレなども披露し、その狂気じみたコミカルさが話題に。

 そのうらぶれた雰囲気をフルに活かして、悪役側の上位ポジションに上り詰め、狂気・コミカル・エキゾチックを兼ね備えた北村はネットでも好評。人気コミック『ジョジョの奇妙な冒険』の人気悪役・猟奇殺人者の吉良役実写版に「ぜひ北村一輝を」との声はすでにネットでテンプレ化しており、“愛されキャラ”としても確立している。

■確かな経験を重ねてきた“本物”である50代がシーンをけん引

 いまの2人は、光と影とも捉えられる。順風満帆でなかった過去という意味では共通点があるが、コミカルで明るい正統派の主演側の阿部寛に対して、北村一輝は陰鬱で暗い悪役、もしくは変人がハマる敵役側の存在。そしてそれぞれが現在の日本のシーンにおいてその分野のトップに立っている。

 もうひとつの共通点は、顔が“濃い”ことだ。改めて見ると50代俳優には顔が“濃い”人が多い。今年1月クール月9『絶対零度』に出演する沢村一樹をはじめとして、遠藤憲一石丸幹二神保悟志高嶋政宏寺島進佐藤浩市などなど。さらに見れば、いわゆる名バイプレイヤーと呼ばれている俳優の割合も多いことが分かる。

 この背景には、80年代頃からの“中性的”俳優人気の時代がある。演技力や芝居への情熱など高レベルの俳優でありながら“濃い”顔ゆえに抜擢されることがなかなか叶わず、“影”の時代を歩む羽目に。そんななかVシネや2時間ドラマ、脇役や端役などでは重宝されたが、扱いがB級扱いだった感は否めない。この兆候に変化が起こったのが宮藤官九郎が台頭してきた頃。宮藤はVシネ的なものや2時間ドラマものをリスペクトしつつネタにし、メインストリームへと昇華。その後、『トリック』など2時間ドラマをパロディ化する流れが起き、この結果、2時間ドラマ的、脇役的な俳優が女性陣から「かわいいおじさん」と愛されるようになり、空前のバイプレイヤーブームが起こった、という流れがある。

 スポットライトが当たれば後は演技力。長年培われた力は本物であり、ドラマ通が注目する。視聴者の目が肥えた時代ともマッチした。情熱を持って確かな経験を重ねてきた“本物”であり、人生をしっかり歩んできた“先輩”が評価を集めるのは、エンタメシーンのみならずどの業界においても当然のことであり、幸せなことだろう。

 そんななか、今期異彩を放っている阿部寛と北村一輝。お互いにかぶらない立ち位置で経験を積み重ね、良い歳のとり方をしてきた2人は、『テルマエ・ロマエ』シリーズで共演もしているが、這い上がってきた者同士のシンパシーをお互いに感じているかもしれない。彼ら50代俳優が、今後のエンタメシーンを盛り上げる“鍵”であることは否めない。若きスターの台頭を待つと同時に、50代ベテラン俳優の活躍からも目が離せない。
(文/衣輪晋一)

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