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繊細な技を散りばめた料理のようなドラマ『グランメゾン東京』 背景に塚本あゆ子氏の映像演出

 今期の連続ドラマのなかでも、木村拓哉主演の『グランメゾン東京』(TBS系)がやはり強い。視聴率は安定の二桁を維持。コンフィデンス誌のドラマ満足度調査「ドラマバリュー」でも、初回から第4話まで90ポイント台と高い数字を獲得し続けている。その最大の魅力は、脚本・キャスト・演出など、ドラマを構成する各要素のバランスの良さだろう。オーソドックスな手法をきっちりおさえつつも、丁寧で繊細な技を散りばめた同作は、さながら一皿の調和のとれた料理のようでもある。

日曜劇場『グランメゾン東京』(日曜 後9:00)で主人公の尾花夏樹を好演中の木村拓哉 ※写真は第5話より (C)TBS

日曜劇場『グランメゾン東京』(日曜 後9:00)で主人公の尾花夏樹を好演中の木村拓哉 ※写真は第5話より (C)TBS

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■ドラマが元気だった時代の“昭和臭さ”も漂う

 物語は、木村演じる天才シェフ・尾花夏樹が、日仏首脳会談の食事会でアレルギー物質を混入させた事故をきっかけに落ちぶれ、鈴木京香演じるシェフ・早見倫子と出会ったことからともに世界最高の三つ星レストランを目指すというもの。

 脚本を手がけるのは黒岩勉氏で、1話で1人ずつかつての仲間が集結していく展開は王道で、ワクワク感がある。また、メインの2人に加え、沢村一樹や及川光博、さらに玉森裕太や寛一郎、吉谷彩子などの若手に至るまで、1人ひとりを主役のように均等に丁寧に描いているのも魅力だ。とはいえ、ストーリー自体はかなりベタだし、冒頭での海外ロケや豪華なセット、山下達郎の主題歌をはじめとした音楽の入れ方などには、ドラマが元気だった時代の“昭和臭さ”が漂う。

 また、玉森裕太をめぐる女性2人の描き方は、昭和の少女漫画的。(玉森の)職場の後輩女性(吉谷)に嫉妬し、陰からじっとりと見つめたり、後輩女性職場のロッカーの取手に画鋲が仕掛けられたりするくだりは、あまりに古典的。加えて、尾花の「宿敵」であるライバル店のシェフ(尾上菊之助)と、インチキ関西弁のコテコテ悪代官的なオーナー(手塚とおる)などの配置は、「ザ・日曜劇場」でもある。

 というのも、同作を手がけるプロデューサーは『半沢直樹』『下町ロケット』『陸王』『ノーサイド・ゲーム』などの伊與田英徳氏だ。一連の池井戸潤作品などは、普段ドラマをあまり観ない中年男性などの層を取り込み、安定感抜群。その一方で、『半沢直樹』が突き抜けてエンタメ性が高かったために、以降の作品は人情モノの色が濃くなり、正直「ちょっとしょっぱい」印象を持ち、あまり食指が動かなかった女性もいたことだろう。

 ともすれば、『グランメゾン東京』も、ベタで安定感抜群の昭和感漂うドラマになる可能性はあった。しかし、その味わいを大きく変えているのが、塚本あゆ子氏の繊細な映像演出だろう。

■王道の物語と繊細で美しい演出のマッチングの妙

 塚原あゆ子氏といえば、すぐに思い出されるのが、『夜行観覧車』『Nのために』『リバース』『アンナチュラル』『中学聖日記』などの作品だ。いずれもさまざまなシーンがすぐに頭の中に蘇ってくる、繊細で美しい映像が印象的だった。

『グランメゾン東京』でまず唸らされるのは、料理が作り上げられる工程のワクワク感。例えば、手長エビが蒸しあがる瞬間の「変化」が、画と音で繊細に映し出される様には、まるで香りが漂ってきそうなほどの臨場感がある。

 特徴的なのは、光の用い方だ。尾花が背後に朝日を浴びながら、コックコートを着る瞬間には、ぴりっと、しかし、心地よい緊張感が走る。場面転換の合間に差しはさまれる木漏れ日は、一瞬にして爽快感を物語に持ち込んでくる。また、ライバル店が引き抜き工作を企てるシーンは、ともすれば時代劇の悪代官的やりとりが繰り広げられているのに、背後の窓から差し込む光がそれをグンとナチュラルな画に仕立てている。

 そして、水面下で大きな出来事が動いている不穏な時の流れを象徴するのが、部屋の照明や、東京タワーの灯など、無機的な光だ。とはいえ、美しく繊細でドラマチックな演出は、女性視聴者に好評だが、従来の「日曜劇場」的ではない。

 そんななか、『グランメゾン東京』の巧みさは、『半沢直樹』的なエンタメ性、ベタで王道な物語と、塚原あゆ子氏ならではの繊細で美しい演出のマッチングの妙にあるのではないだろうか。この塩梅がうまくいかないと、要素ばかり盛り込んだ珍味のドラマにもなりかねないが、何より優れたバランス感覚が、意外な組み合わせによる新しい味を生み出している。

 ちなみに、『半沢直樹』をはじめとした池井戸作品からは、仲間のひとりである及川光博のほか、ライバル店の手塚とおる、尾上菊之助、ゲストキャラに春風亭昇太、石丸幹二などが出演しているが、その起用法もまた、ベースの素材であったり、スパイスであったり、実にうまく調和している。

 料理を主題にしたドラマだけあって、目立つのはそのバランスの良い調理法。実に美味しい一皿が毎回提供されている。
(文/田幸和歌子)

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提供元:CONFIDENCE

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