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『キングダム』勢い衰えぬ興行の背景 万人を魅了するゲーム的かつ古典的な物語

 公開日は4月19日。まだ日本の元号は平成だった。あれから7週間が過ぎ、新元号、令和最初の月が終わったいまも、映画『キングダム』の勢いは止まらない。むしろ加速している。最新の映画動員ランキングで6位を維持し、累計興収は51億円を超えた。今年公開された実写映画のなかではダントツのヒットだ。もう6月である。少なく見積もっても2019年上半期を象徴する一作になることは確定したも同然だ。

令和の幕開けにふさわしい大作『キングダム』(C)原泰久/集英社(C)2019映画「キングダム」製作委員会

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■食傷気味の漫画実写化映画、生き残れるのはごく一部だけ

 なぜ、この映画はこれだけの支持を受けているのか。人気漫画が原作のアクション大作は珍しいものではなく、むしろメジャー映画においては主流。それはハリウッド映画でも同様だ。だが、毎月のように繰り出されるコミックならではの世界観を基調とした娯楽活劇は、そのスケールの大きさやキャストの豪華さの如何にかかわらず、すべてが興行的に成功しているわけではない。むしろ、観客は食傷気味なのではないか。

 逆に言えば、漫画原作活劇エンタテインメントの世界は、いまや戦国時代の様相を呈している。次々と襲来するが、生き残り、のし上がれるのは、ごく一部の限られた作品だけ。『キングダム』が我が国において、いままさに覇権を手中に収めつつある、その要因を確かめるべく、先週末に劇場に足を運んだ。

 そのシネコンでは、2スクリーンで上映されていた。私は小さい方のスクリーンで鑑賞したが、いずれのスクリーンも満席。いまは、チケット購入(引換)時に、満席か否かがわかる。この高揚感が、期待をさらに煽る。映画館で観る映画は「劇場体験」だ。演劇でもミュージカルでもそうだが、大入り満員のなかで堪能できることそれ自体が大きな付加価値となる。映画は演劇やミュージカルとは違い、映像という再生芸術だから、ともに体験する観客の数が重要な「臨場感」となる。

■リピーターが多い劇場に漂う、作品が愛されている雰囲気

 観客層は若い。そして女性率が高い。山崎賢人吉沢亮という見目麗しい俳優たちが共演するのだから、当然と言えば当然だが、どうも彼らのファンばかりではないようだ。リピーターも多い。もう一度、今度は別な友だちと観に来た、というような女の子が少なからずいる。

 コンテンツとして愛されている感がある。原作の力はもちろん大きいだろうが、コミック発という枠を超え、独立した一個の実写映画としての存在感を確立している雰囲気がある。おそらくリピーターだと思われる彼女たちが醸し出す「間違いのないものを、また観に来た」というムードが、静かに劇場のなかに浸透している。

 映画の上映前、無駄話をしているわけではない。静かだ。静かに集中している。その集中が、まだ本作を体験していない者にも伝播する。美しき相乗効果がある。少なくとも私は、この雰囲気に気持ち良く呑み込まれた。「劇場体験」としては最良の幕開けだった。

■コスパがいい2時間14分の満足感

 2時間14分。映画の上映時間としては、長いというほどではないが、決して短くはない。だが、あっという間だった。みっちり中身が詰まっているから、いい意味で2時間14分以上の満足感が得られる。あえて無粋な表現を用いるなら、コスパがいい。たとえるなら、ランチタイムの時間と価格で、ディナーのフルコースを堪能してしまった。そんなラッキーとハッピーを感じる。つまり、本当は4時間ほどの豪勢なものを、2時間14分で味わい尽くした達成感があるのだ。「得した」感がハンパない。

 とはいえ、長い長い大河ドラマをダイジェストで観た……ということではない。何かがはしょられている印象は皆無。見せ場の連続なのに、そのつなぎが緊密で、登場人物は少なくないのに、どのキャラクターにも愛情が湧く。つまり、よく練られた編集であり、何よりもドラマ部分がしっかりしている。だからこその満足感がここにはある。

 アクション場面を団子のように並べて、それらが離れないように串で突き刺すために物語を用いる。そのようなアクション大作は少なくないし、そうした成功例もあるが、映画『キングダム』は違う。観客がしっかり登場人物に愛着を持てるような描写を積み重ねているから、いざ活劇シークエンスが到来したとき、「よっしゃ!」という気持ちになるし、応援する感覚にもなる。こいつが闘うなら、しっかり見届けなくては。そんな佳き覚悟が、私たちの「映画神経」にみなぎり、スクリーンを見つめる醍醐味と化す。単純なことに思えるかもしれないが、この「シンプル・イズ・ベスト」を実現することはとても難しい。

■鼓舞とマッサージが同時にある、魂に働きかけてくる映画

 私は原作未読だが、わからなくなる瞬間が皆無だった。時代状況や人物背景についてのことさらな説明はほとんどないが、作品自体がオープンマインドで全方位に開かれているから、眼の前=画面で生きている人間を凝視しているだけで、理解が訪れる。がんばる必要もない。「単純明快」な事の成り行きが、私たち観客の心と躰を「単純明快」にしてくれる。そんな鼓舞とマッサージが同時にあるような、魂に働きかけてくる映画なのである。

 紀元前245年。戦乱の世であった中国の秦が舞台。みなしごの少年が、奴隷の身から大将軍になることを目指して、剣術に励む。やがて少年は青年に成長する。主人公には同じ境遇の同志がいた。同じ目標に向かってともに研鑽を重ねていたライバルでもある、その同志は腕を見込まれ、王宮に召し上げられる。ところが、王宮では王の弟によるクーデターが勃発。若き王の影武者だった同志は命を落とす。主人公は、同志の代わりに、玉座を奪われた若き王が再び王として帰還するために、尽力することになる。

 この展開は、ある意味、ゲーム的なのかもしれない。だが、勇者などをモチーフにしたゲームは基本的に神話や歴史からインスピレーションを得ている。つまり、古典的なのだ。すなわち、古今東西、多くの人々が、飽くことなく好んできた物語の原型のようなものが、ここには横たわっている。

 友情、喪失、よみがえり、奮起、奪還、天命、成就。ストーリーのイントロにふれるだけで、このようなキーワードが思い浮かぶ。

■ラブやロマンスを排除する、腹をくくった「単純明快」な世界観

 劇中、伝説の大将軍がこんな台詞を吐く。「望んでいるのは、血沸き肉躍る時代です」。そう、ここには、血湧き肉躍るフレーズばかりがある。そして、肉食であろうとなかろうと、性別にかかわらず、人は血沸き肉躍る瞬間を待ち望んでいることを、この映画は証明する。

 重要なのは、ここには色恋が一切紛れ込んでいないことである。主人公の冒険の旅に同行することになるヒロインはいるが、山の民である彼女はその扮装とマスクによって、色気のようなものを完全に抑止している。戦闘能力は高くはなく、主人公は彼女のことを心配はしているが、それはあくまでも同志に対する気持ちであり、男が女を守る、というような心情には設定されていない。この潔さがいいのだ。逆に言えば、性別を超えた同行者としてのありようがそこにはある。

 考えてみれば、戦乱の世において、生きるか死ぬかの淵に立ち、闘い続ける者たちが、ラブやらロマンスやらにかまけているヒマはないのだ。そんな腹をくくった世界観もまた、わたしたちが「単純明快」を思う存分、むさぼり、満腹するためには、必要なファクターだったのではないか。

 そのような意味で、ブレがない。ブレがないから立ち止まらない。立ち止まらないから、重量と速度が同時にあり続ける。

■山崎賢人のワイルドなけん引力、吉沢亮のカリスマ性が映画全体を引っ張る

 主演・山崎賢人のこれまでのパブリックイメージを鮮やかに覆す、無垢なる野生児ぶりがたまらない。つべこべ言わず、行動あるのみ。不屈の闘志を剥き出しにしても、嫌味が一切なく、どんな相手にも同じようにカジュアルに接する「開かれた」フェアネスは、最良の主人公像である。いわゆる優等生ではなく、ワイルドなけん引力が、映画全体を引っ張っていく。「こいつとなら」。誰もが、その旅に同行したいと思うだろう。

 主人公の同志と、若き王の2役に扮した吉沢亮のカリスマ性も、図抜けている。終始、気品を失わず、しかし、仕える者たちの精神を高めるオーラを放っている。吉沢は変幻自在の若手だが、正直、ここまでの存在感を発揮するとは思わなかった。この若き王も「このひとのためなら」と思わせる人物像であり、主人公とはまた別のベクトルで、作品の中核でエネルギーを放っている。

 強力すぎる助っ人として、中盤から登板する山の王に扮した長澤まさみも最高だ。余計な御託を並べず、一度協力することを決めたら、あとは無言で全力を傾けるのみ。窮地に立っても、怯まず、迷わず、悠然と事態に対処する。己のするべきことの本質を完全に把握しているし、それを実現できる辣腕ぶりに、真のリーダーシップを発見する社会人も多いのではないか。「こんなひとがいてくれたら」。そう願わずにはいられない不動の理想キャラである。

 そして、ラスボスとはまた違った立ち位置で、作品のクライマックスを支える大将軍を快演する大沢たかおが素晴らしい。かなりアバンギャルドな発声による役作りをしているが、「このひとのことがもっと知りたい」と思わせる破格の人間力がある。人が人を吸引する。そのとき必要なのは、理屈を超えた魅力なのだということが、一目瞭然である。

 映画『キングダム』のメガヒットは、必然である。血湧き肉躍る古典の心は不滅だし、それは永遠に朽ちないことがここでは示されている。そして思う。このような作品が多くの人々に支持されていることはとても健全だし、令和という時代の幕開けにふさわしい。
(文/相田冬二)

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提供元:CONFIDENCE

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