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『わたし、定時で帰ります。』社会問題をリアルに描くお仕事ドラマの新潮流

 今期ドラマで、タイトルなどから予想した内容と実際の内容とのギャップが最も大きかった作品の1つに、吉高由里子主演のドラマ『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)が挙げられるだろう。タイトルや主演の吉高由里子のイメージから想像されたのは、ややKY気味の強いヒロインが、自分の主義をキッパリ通し、周りとときには衝突しながらも、少しずつ環境を変えていくような会社モノ。ところが、これが大きく違った。『獣になれない私たち』(日本テレビ系)や『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日系)のように「会社」を舞台に社会問題をリアルに描くドラマになっている。

TBS系連続ドラマ『わたし、定時で帰ります。』(C)TBS

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■「スッキリ解決!」はしないお仕事ドラマ

 WEB制作会社で働く主人公・東山結衣は、「効率よく仕事をし、定時に帰ること」ことをモットーにしている。とはいえ、決してKYなわけではなく、自分の主義を声高に叫ぶわけでもなく、職場ではクセのある上司や同僚、新人の板挟みになり、さまざまな相談をされる立場になっている。そもそも「定時で帰る」というモットーも、かつての仕事上のトラウマからきたものだ。

 そして、周囲の「クセのある人たち」もまた、単に「困った人たち」や「モンスター」ではない。真面目で一生懸命で努力家で要領が悪く、体調が悪くても帰ろうとしない同僚や、出産を経て早々に職場復帰したワーキングマザーは、いずれも認められよう、遅れを取り戻そうと必死なために、周りに強くあたったり、空回りしてしまったりしている。

 年齢や性別、立場、経験値の違いはあれど、それぞれの思いや言い分には「理由」があって、共感できる部分や、観ていて痛みを感じる部分がある。また、主人公は彼らの話を一生懸命聞いては、気持ちをラクにさせたり、自信をつけさせたりするが、その態度は決して押しつけがましいものではなく、「スッキリ解決!」もしない。しかし、少しずつ職場の雰囲気を変えていっている。

■『ショムニ』とは異なる系譜のリアルを描くドラマが次々に生まれている

 ところで、近年は『獣になれない私たち』や『ハケン占い師アタル』、そして本作など、『ショムニ』(フジテレビ系)などが放送された2000年前後の時代とはまったく異なる流れの「リアルなお仕事ドラマ」が次々に生まれていることにも注目したい。

 なぜ今、「リアルなお仕事ドラマ」なのか。そこには、現代という時代と、時代性が色濃く投影される「世代間ギャップ」が生み出す衝突やズレ、すれ違いのドラマがあるからだろう。相手がどう思うか、感じるかを考えて行動することは人付き合いの基本だが、人は基本的に自分が経験したことからしか本当の意味での理解ができない。

 仕事においてはとくに、経験値の個人差だけで埋められない「時代差」は明確にある。上の世代の言う「私たちが若い頃には」が、仕事上、若い世代にピンとこないのは、時代があまりに大きく変化してしまっているからだろう。

 時代の変化は「仕事」の在り方においてとくに顕著で、スピード感もコストも、得られる報酬も、バブル世代や、バブル崩壊以降の世代、そして豊かな時代を知らない新人世代ではあまりに違いすぎる。仕事に対するモチベーションも異なるのがむしろ当たり前だろう。

■本来は物語の主人公にはなりにくいタイプが主人公

 終身雇用が完全に崩れ、経済が頭打ち状態になり、賃金も上がらず、新しいモノが生まれにくい現在。「ワークライフバランス」などと言われても、現実問題として働かなければ生活ができないし、いつまで働き続けなければいけないかわからない。「働く」ことそのものを考え続けなければいけない不安定な状況に至っている。

 また、女性も働くのが当たり前になり、制度の上では壁がなくなったとはいえ、依然として女性だけが家庭の中で担っている役割は大きい。働き方改革が掲げられるなか、「会社」を舞台にさまざまな労働問題やブラック企業、女性差別、世代間ギャップなどの問題をリアルに描くのが、今のお仕事ドラマの新潮流となっている。

 そうした作品で描かれるヒロインたちは、『けもなれ』のガッキーも、『アタル』の杉咲花も、本作の吉高も皆、従来のお仕事ドラマのヒロインのように「何かを成し遂げる人」ではなく、みんなを引っ張るわけでも、バッサリ斬る人でもない。それどころか、「仕事ができる」「効率が良い」「要領が良い」「ソツがない」と思われている、であることが特徴だ。

 しかし、彼女らに共通しているのは、さまざまな世代や立場の狭間で「緩衝材」的な役割や「つなぎ」の役割を担っていること。仕事に夢を抱きにくい時代に、ささやかな達成感、充実感を得られるものも、やっぱり「仕事」「働くこと」。そして、それを支えてくれるのは、人と人とのつながりであり、「全く価値観の異なる人たち」が集まる会社という場。それが今のドラマに求められるものなのかもしれない。
(文/田幸和歌子)

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提供元:CONFIDENCE

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