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現役最高齢スター、イーストウッドに衰えなし 米国での評価と88歳の進化

 クリント・イーストウッド監督&主演最新作『運び屋』が、3月8日より日本公開された。メキシコ犯罪組織の“ドラッグ運び屋”として、巨額を稼いだ90歳の米・園芸家の実話をもとにした犯罪ドラマだ。家庭を顧みずに仕事や社交に没頭した過去を、老年になって償おうとする主人公を、88歳のイーストウッドが演じている。

撮影現場のクリント・イーストウッド/『運び屋』(C)2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED,WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

撮影現場のクリント・イーストウッド/『運び屋』(C)2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED,WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

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 本作の米国における作品評価は、「イーストウッド映画史上、指折りの良作」とするものから、辛評までさまざまだ。観る人の年齢や性別、立場や人生経験によって、感じ方が大きく変わる作品でもあるだろう。ただし、イーストウッドの監督としての手腕や情熱、そして、主役級スターとしてのカリスマと迫力に、異論を唱える声はほとんどない。「イーストウッドに衰えなし」なのだ。

■監督として37本目。監督としても俳優としてもオーラは健在

 本作の主人公は、金銭的に苦しい日々を送る、孤独な90歳の男性アール(イーストウッド)。若い頃に家庭を顧みず、元妻メアリー(ダイアン・ウィースト)や娘アイリス(アリソン・イーストウッド)を悲しませ続けたことから、親族とは絶縁状態にある。そんなある日、「運転するだけで大金が稼げる」という話を持ちかけられたアールは、生計を立て直し、家族に償いたい一心で“ドラッグ運び屋”となる(最初の数回のドライブは、何を運んでいるのか気づいていない)。やがて麻薬捜査の手が迫るなか、元妻が病に倒れたことを知るアール。はたして、失われた家族との絆を修復することができるのか―――?

 監督としては37本目となる同作。米公開された昨年には、同じく監督作である『15時17分、パリ行き』も公開されており、1年にスタジオ規模の作品を2本も送り出すペースに驚かされる。さらに、「90歳の男性が主役」のドラマ映画を全米規模で一般公開させ、予算5000万ドルにして、世界興収約1.5億ドルを稼ぐことは、並大抵のことではないとも言われている(日本などでは未公開の時点での数字)。

 俳優としても、88歳にして主役級スターであり続ける存在は、他に思いつかない。同作内のイーストウッドからは確実に老いが感じられ、歩みもゆっくりで、少し震えているようにも見える。それでも、それが役作りなのか、自然体なのかは、どちらでもいい。物語が進むにつれて、何度も映る彼のアップにくぎ付けになり、親しみも共感も愛着も湧いてくる。116分のドラマを、ほぼ1人で運び続ける大スターとしてのオーラが、そこにはあるのだ。

 イーストウッド作品が衰えないどころか、進化が感じられる点を評するのは、米「ハリウッド・リポーター」誌のトッド・マッカーシー。その根拠として、「カナダ人撮影監督ワイヴス・べランガーとのコラボレーションによるビジュアル的な生命力」「キューバ出身のジャズ奏者、アルトゥーロ・サンドヴァルによる、ほどよく控えめな音楽」を挙げている。ベランガーは、リース・ウィザースプーン主演の『わたしに会うまでの1600キロ』やシアーシャ・ローナン主演の『ブルックリン』、マシュー・マコノヒー主演の『ダラス・バイヤーズクラブ』などの撮影監督を務めており、身体的・精神的な心の旅を映し出すことに長けている。同作でも、麻薬運びと人生運びという、まったく種類の違う“旅”を、ゆるさとスリルのバランスよく映し出している。

■自身の体験が反映されたパーソナルな作品?

 内容においては、イーストウッド自身の姿が反映されたパーソナルな作品でもあると捉える声が多い。若かりし頃のアールが仕事に没頭するあまり、自分の娘の結婚式まで忘れてしまうシーンがある。落胆する娘に妻は、「お父さんは、いつも家庭より仕事を選ぶ人だから」とこぼす。映画人としての長いキャリアを通じたイーストウッド自身の体験と想いが、アールというキャラクターに投影されているように思えるのだ。

 一方で、「男もつらいよ」というメッセージが伝わってくる、というのは、「ザ・ニューヨーカー」誌のリチャード・ブロディ。「男性は外で稼ぎ、女性は家族を守る、という以前の価値観のなかで、女性は不満や不公平を感じていたが、男性もまた、家族のもとにいられない疲弊感に苦しんでいた」という視点が感じられ、「同作に登場するアールの家族が妻、娘、孫娘というように女性メインであること」がそれを裏付けている、とする。さらに、娘役に自身の娘(アリソン)を配したこと、プレミアに最初の妻と今のガールフレンド、孫娘やその他の親族を同伴したことなども、イーストウッドのパーソナルな思い入れを感じさせる理由である。

 老年男性の過去への償いという意味では、2008年のイーストウッド監督&主演作『グラン・トリノ』と重ねる声も目立つ。脚本家は、ともにニック・シェンク。主人公は、『グラン・トリノ』が頑固者で気難しい元軍人、『運び屋』がプレイボーイ気質と楽観性を宿し続ける園芸家と、気性の面では真逆に近いが、後悔を抱える点は同じだからだ。

 また、同作の政治的視点を指摘する声もある。リベラル傾向の強いハリウッドでは珍しく、イーストウッドは熱烈な共和党支持者として知られる。こうしたなか、トランプ大統領のメキシコ国境強化策が物議を醸している最中に、メキシコ&米国の麻薬取引に関する映画を送り出したことが、政治的ステイトメントにも感じられるというのだ。そして、人種や性別におけるステレオタイプ的な描写が出てくること、「年配の白人男性ならば何でも許される」と思わせるような描写があることを批判するレビューもある。アールによるこれらの行動が、意図的なものなのか、無知によるものなのかについては、観る人によって感じ方が分かれるところだろう。同時に、イーストウッドがこれらのシーンを盛り込んだ意図についても、肯定的、否定的な意見が混在している。

 ちなみに、アールと相対する麻薬取締局エージェントのコリン役を演じるのは、イーストウッド監督作『アメリカン・スナイパー』で、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたブラッドリー・クーパーだ。出演シーンは多くないのだが、年齢も立場も異なる2人のキャラクターが交差するシーンは印象深い。

『運び屋』の米公開は、クーパーの初監督作『アリー/スター誕生』の2ヶ月後であったため、アールとコリンの絡みが、俳優出身監督としての“恩師”イーストウッドからクーパーへのバトンタッチのようにも思えて、不思議な感覚でもあった。もちろん、バトンタッチなどするつもりはない、と未踏の地を進み続ける永遠のスターパワーを感じている。経験と年輪を重ねながら、88歳にして精力的に製作活動を続け、今なお進化を遂げてる現役最高齢スター、イーストウッド。その辞書に“衰え”の文字はない。
(文/町田雪)

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提供元:CONFIDENCE

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