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深川麻衣、“聖母”から悪意のないナチュラル悪女へ 冴える『まんぷく』キャスティング

 試行錯誤の末にとうとう「まんぷくラーメン」の完成に至った朝ドラ『まんぷく』(NHK)。メインストーリーの脇で、着々と繰り広げられてきたのが、深川麻衣演じる吉乃をめぐる恋模様だ。吉乃は、克子(松下奈緒)と忠彦(要潤)の次女で、タカ(岸井ゆきの)の妹。しかも、そのお相手は、「塩軍団」の岡(中尾明慶)と森本(毎熊克哉)。かつてタカをめぐって繰り広げられた、現在の夫・神部(瀬戸康史)を中心とした恋の戦いには参戦していなかった2人である。この展開自体もおもしろいが、何より興味深いのは、深川麻衣の見せる「聖母」ならぬ「悪女」ぶりである。

吉乃を演じる深川麻衣/『まんぷく』(C)NHK

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■元・乃木坂46の「聖母」の自然体の演技

 かつてアイドルグループ・乃木坂46のなかで、メンバーたちやファンから「聖母」と呼ばれてきた深川麻衣。「みんなの輪のなかに入れないメンバーがいたら、話しかける」「メンバーの悪口を言っているのを誰も見たことがない」「上京したばかりのメンバー(川後陽菜)を高校に毎日送迎してあげていた」などのエピソードはよく知られるところだ。

 実際に穏やかで優しい性格はメンバーにもファンにも愛され、信頼され、乃木坂メンバーたちが出演したドラマ『初森ベマーズ』(テレビ東京系)では、家庭の事情によって幼いきょうだいの面倒を見ている「カアチャン」役をコミカルに演じていた。

 そして、卒業からまもなく、映画初出演にして初主演を務めた『パンとバスと2度目のハツコイ』(2018年2月公開)が、東京国際映画祭の特別招待作品に選出される。演じていたのは「恋愛こじらせ女子」。「ずっと好きでいることも、好きでいられることも自信がないの」「1人になりたいんだと思う」というフワッとした恋愛観を持つヒロイン。その表情はあまりに自然で、アイドルの「聖母・まいまい(深川麻衣の愛称)」とは別人のようだった。1月クールでは『日本ボロ宿紀行』(テレビ東京系)で地上波連続ドラマ初主演も果たした。

■かつての「聖母」が、悪意や打算のないナチュラル「悪女」に

『まんぷく』で演じている吉乃も、積極的な姉・タカに比べて、ふわっとしていて、マイペース。しかも、14歳設定から演じてきた岸井ゆきのと違い、子役からのバトンタッチで1月からの登場となったが、初登場シーンも「深川麻衣がいよいよ出演」的な演出はなく、説明もなく、あまりにナチュラルに家族のなかに溶け込んでいた。まるで「最初からそこにいた」くらいの印象だった。

 見るからに「おっとりしていて、優しそうで、品の良いお嬢さん」。だが、その言動は、ナチュラルに男を振り回す悪女にも見える。年頃になっても男性との付き合いに興味を示さなかった吉乃が、ふとしたきっかけで出会った岡と森本にひと目惚れされ、2人から猛アプローチをかけられる。だが、避けるでもなく、困惑するでもなく、かといって浮かれることもなく、普通に淡々と「3人での映画デート」をOKする。

 気の毒なことに、コワモテ&武骨な2人は、映画の約束を取り付けたことに浮かれ、落ち着かない様子。にもかかわらず、吉乃はそんな2人の思いも知らずに、マイペースにドタキャン。映画の待ち合わせ場所に向かう途中で、麺づくりをする萬平に出会い、その仕事を興味津々に見守るうちに、完全に用件を忘れてしまっていたのだ。結局、忘れられた2人も映画は諦め、一緒に麺づくりを手伝うことになる。

 その後も、岡、森本と、3人で会い続ける吉乃。鈴の勧める縁談の話はのらりくらりとかわしたり、同僚との恋バナでは「無骨な人が好き」と言ったりしているのを見る限り、2人にもそこそこチャンスはありそうな気配だ。しかしながら、自分をめぐって、抜け駆けせず正々堂々と戦おうとする男2人を両脇に置いて、涼しい顔で萬平のラーメン作りの話ばかりしている。

 決して2人を手玉にとってやろうとか、駆け引きを楽しんでやろうなんて考えはなく、かといって「どちらか一方を選ぶ、あるいはどちらも選ばない」という考えもなく、3人の時間をナチュラルに楽しんでいるのだろう。だからこそ、男はいつまでも気を持たされ続け、彼女のことで頭がいっぱいになり、他に行くにも行けない。悪意や打算がないぶん、実はこの手のタイプがいちばんタチが悪い。そんなナチュラル「悪女」を、まさか乃木坂46の「聖母」が自然体で演じる日がくるなんて……。

■マイペース悪女のハートを射止めるのは、エキセントリック系!?

 吉乃が男たちを振り回してしまう理由は、おっとりしていて恋愛にあまり興味がないこともあるが、何より「自分」を強く持っていることが大きいだろう。おとなしくおっとり見えて、誰にも媚びず、自分の考えをキッパリ言う。この手の女性に弱い男性は多いのではないか。

 だいぶ年上で他人の世良さん(桐谷健太)に対しても、フラットに強くダメ出しをするし、誰かに合わせるのではなく、常に自分の興味を最優先する。振り向かせるためには、おそらくご機嫌をとったり、尽くしたりするよりも、ビックリさせたり興味を抱かせたりする何かを提供したほうが良い。「お父さんみたいな人が好き」と言い、萬平おじちゃんの仕事に強い関心を抱いている様子からして、エキセントリックな天才肌が現れたら、岡と森本が仲良く2人そろって失恋なんて展開もありそう。

「聖母」と呼ばれてきた深川麻衣が、優しく穏やかな雰囲気をそのまま持ちつつ、意外な芯の強さや気丈さ、マイペースさを発揮したとき、最強の「悪女」になるという法則。『まんぷく』のキャスティングの巧みさが、ここでも冴えわたっている。
(文/田幸和歌子)

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