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上映館が100倍に拡大、タイ版“カメ止め”『バッド・ジーニアス』ヒットの理由

 タイ映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』が、ジワジワと口コミで広がり、話題を集めている。もともと1館封切りでスタートした本作は、今や上映館は100超。公開前のメディアプロモーションすらなかったにも関わらず、このような好調ぶりを見せるあたり、異例のヒットを記録した映画『カメラを止めるな!』を彷彿とさせる。『スッキリ!』(日本テレビ系)で同作を紹介し、ヒットのきっかけを作った映画ライター・よしひろまさみち氏が、その好調ぶりを分析。来日した監督、主演女優にも、反響の感想を聞いた。

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■公開前の大プロモーションは不発? 波乱が続く映画興行

 今年の映画興行は波乱ぶくみだ。夏休み映画で期待されていた注目作のいくつかが奮わず、その代わりに話題の中心となったのが低予算の自主映画『カメラを止めるな!』だった。9月も『若おかみは小学生!』や『クワイエット・プレイス』など、大々的なプロモーションを打ちださなかった作品が口コミでヒットし、今もロングランを続けている。いわゆる番宣を中心とした地上波テレビのプロモーションの規模だけでは、ヒット予測は計れなくなっているといっていい。そんななか、ジワジワと全国に公開館を増やし続けている意外な作品がもう一つ。それがタイ映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』だ。

 昨年の映画界でダークホース的存在だったのは、韓国の『新感染 ファイナル・エクスプレス』や、インドの『バーフバリ 伝説誕生』など。カルトな人気を集めて話題となり、爆音上映や応援上映などといったイベント形式の上映に注目が集まった。今年は同様に『カメラを止めるな!』が異例のヒットとなったと共に、『バッド・ジーニアス』がダークホースといえそうだ。この2作品に共通するのは、出演者が無名、封切り時の上映館数の100倍を超す拡大公開、そしてそのきっかけとなったのは口コミ、ということだ。

■アジア各国でヒットするも、市場の小ささから日本では話題にならず

 そもそも日本でのアジア映画の市場は、日本映画と欧米の映画に比べるとそれほど大きくない。『バッド・ジーニアス』監督のナタウット・プーンピリヤはそんな日本の市場を聞いて、「知らなかったけど、それならこのヒットはなおのこと嬉しい」と語った。また、主演女優のチュティモン・ジョンジャルーンスックジンは、「アジア各国でヒットをしましたが、特に驚いたのが台湾。公開後にPRで訪れましたが、空港で何千もの人が出迎えてくれて、外に出られないほどの歓迎をされました」と、他国での反響の大きさに戸惑ったそうだ。

 彼らはタイ本国でも、この映画のヒットからブレイクした存在。それまでは無名だった。監督は「この作品のおかげでチャンスの機会が広がった。有名になったことよりも、それが僕らにとってのボーナスみたいなもの」と言うが、アジア諸国での彼らの認知度は作品のヒットにより急速に上がり、11月3日の来日も次回作の合間を縫っての緊急弾丸日程となっていた。

 では日本での彼らはどうかというと、前述の通り、アジア映画市場の小ささからか、本作の他国でのヒットはあまり伝わることがなかった。昨年の『アジアフォーカス・福岡国際映画祭2018』での上映で観客賞を受賞したとはいえ、作品や彼らを知っていたという人は、公開前は少なかっただろう。もちろん、1館封切りでスタートした作品だけに、公開前にメディアを使ったプロモーション祭りは皆無。それでも『バッド・ジーニアス』の人気は一人歩きし、封切り時は都内1館だった上映館も、現在は全国100を越す勢いとなっている。

 SNSなどでは、「噂通り面白かった!」「3回リピートした」「ハラハラドキドキ感がとんでもない」「もう1回観たい」と絶賛する声が多く、映画レビューサイトでの評価も高い位置をキープ。よくある大作映画であれば、公開前のプロモーション、公開直後から徐々に話題性は落ちていくのが通例だが、徐々に盛り上がりを見せているあたりは、まさに『カメラを止めるな!』と同様の流れといえる。

 実際、口コミの動きに同期して、上映館は増え続けている。9月22日に上映を始めた新宿武蔵野館では、初回から満席が続き、それを受けて翌週からはヒューマントラストシネマ有楽町などでの上映が決まる。封切館の武蔵野館では3週間で89回を上映したが、うち56回が満席と、平日でも動員が落ちないと映画興行界で注目に。4週目以降は横浜、お台場、川崎などの首都圏をはじめ、新潟、沖縄などに拡大し、現在では各県の劇場がブッキング済みとなっているのだ。

 さらにこれを後押ししたのは、メディアの力が大きい。大々的なプロモーション展開こそなかったものの、公開直前9月18日の『スッキリ!!』(日本テレビ系)での紹介、公開前日の新聞各紙でのレビューやインタビュー記事をきっかけに話題がふくらみ、武蔵野館での満席御礼が続くことに。また、公開後の10月4日に『news zero』(同系)で「満席続出の話題のタイ映画」と紹介されたことで、全国での知名度が一気にアップ。だが、10月初旬までは上映館数が少ないことから、観客が集中して殺到してしまい、観たくても満席で観られない、上映館が遠くて行けない、といった渇望感が広がった。まるで『カメラを止めるな!』と同じような現象ではあるが、これもまた上映館激増のひとつの要因といえるだろう。監督自身も、「どの国も、実際に観た人のSNSでの口コミやメディアの紹介、それに作品の力の相乗効果でヒットに結びついた」と分析している。

■NYでは疑問視? 「アジアと欧米の教育システムや学歴社会に違い」

 監督の言う通り、そもそもは純粋に作品の面白さが最大のヒット要因だが、ここにもアジア独特の事情がある。金持ちの子女が通う進学校に、奨学生として招かれた天才少女リン(チュティモン)が、勉強のできないクラスメイトのためにカンニングの手助けをしてしまう。それをきっかけに、リンがカンニングをビジネスにするストーリーは、日本にもある裏口入学や替え玉受験を彷彿とさせる。監督が、「NYで上映されたときに、なぜカンニングにそれほどの力を注ぐのか、といった質問が集中した。アジアと欧米の教育システムや学歴社会に違いがあるからでしょう」と語るとおり、日本を含めたアジアでのヒットは、まさに身近な物語であるがゆえの共感が下地となっているのだろう。

 面白さはそれだけではない。本作は、クライム・サスペンスの一方で青春映画としても成立しているし、タイでの経済格差を浮き彫りにした社会派としての側面もあり、ジャンルを超えた魅力がある。そのうえ、あらゆる手を使ったカンニングのギミックや時差を使ったトリックなど、伏線や仕掛けがてんこ盛り。そのどれもがキチンと帰結していくという脚本の力は、リピート観賞したい気持ちを駆り立てるはずだ。

 タイ版『カメラを止めるな!』とも言える『バッド・ジーニアス』。“カメ止め”の息の長さを思えば、本作がさらなる爆発を起こすことは間違いないだろう。

(文:よしひろまさみち)



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  • 公開中の映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(C)GDH 559 CO., LTD. All rights reserved.
  • 『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』出演者(C)GDH 559 CO., LTD. All rights reserved.

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