脚本家の井上由美子氏によるオリジナル作品『BG 〜身辺警護人〜』(テレビ朝日系)は、武器を持たない民間ボディガードが、クライアントを丸腰で守り抜く姿を描く人間ドラマ。毎回の豪華ゲストも含めて話題となり、まさに終盤での盛り上がりを見せている。木村拓哉の新たな表情が見える役どころもみどころだ。井上氏に、本作に込めたこだわり、また脚本家としての自身のスタイルなどについて聞いた。
◆現代的なテーマになり得るボディガードの世界
『BG 〜身辺警護人〜』は、緊迫感あふれるアクションシーンとオフビートな日常描写の緩急が特徴。主人公・島崎章(木村拓哉)は、過去にボディガードとしての職務中に失態を演じ転職。妻とも離婚し数年を過ごしてきた設定。一時的に同居しているらしき息子とのカッコ悪いやりとりも魅力的だ。
「イメージは“傷だらけのボディガード”です。主人公の島崎は45歳の大人なので、天才やヒーローではなく、いろんな失敗を重ね、プライベートでも苦い思いを抱えているほうが魅力的だと考えました。人生そううまくいくことばかりじゃないけど、一歩ずつ前に進む。そんな主人公を見て視聴者が元気になれるよう、傷をたくさんつけました(笑)。島崎にとって傷は勲章なんです。20年以上、スターとして第一線におられる木村さんですが、一脚本家の私にとっては、とても信頼できる演技者です。特に一瞬一瞬の表情に説得力と意外性の両方があって、いつも驚かされます。まだ視聴者が見ていない新たな表情に、書き手としても立ち会いたいと思って取り組みました」
作品ごとに、何か1つでも新しい要素に挑戦することを自身に課すという氏ならではの言葉。主人公に限らず、レギュラー陣から各話ゲストに至るまでを立体的なキャラクターとして丹念に造形する手腕にも磨きがかかる。だが今回は、そもそもなぜボディガードの世界を描くことになったのだろうか。
「今の日本は、危険がすぐそばにあって、肉体的にも精神的にも安心できる瞬間が少ない。寄り添って守ってくれるボディガードという切り口から、人との繋がりを考えられればと思いました」
実際の民間ボディガードの訓練や仕事ぶりをリサーチするなかで、彼らが武器を携帯しないことも知ったという。
「とても現代的なテーマになると感じました。巷でよく“あいつ持ってるね”という言い回しをしますが、お金、学歴から子どもの遊びに至るまで、今は“持っている”人が強い。でも、持っている人も永遠に持
ち続けられるわけではない。何もなくなり丸腰になった時に真価が問われる。だから失うことを恐れなくていいんじゃない? そんな思いを丸腰のボディガードに託して描いています」
◆視聴者を信じて描きたい世界を見定める
氏のオリジナル新作というだけで、期待が高まるファンも多いが、そうした視聴者の声は意識するのだろうか。
「期待の声もあれば、ネガティブな声もたくさん届きます。時にはBGに護ってもらいたいくらい(笑)。でも、私の主戦場は身近な地上波なので、そういう生の声から感じられる時代の空気感も大事。耳をすましつつ、しかし、気にしすぎて小さくならないように、描きたい世界をきちんと見定めたいと思っています」
SNSでの盛り上がりが、ドラマを評価する指標のひとつになっているような昨今の傾向については?
「SNSで盛り上がる要素から発想してドラマを作る方法もあると聞きます。でも、狙えば見抜かれそうですね。データで書くなら、AIのほうが上手でしょうし(笑)。私の方法論は古いのかもしれませんが、最後まで観てもらえると視聴者を信じて、懸命に書いていくだけです。島崎たち愛すべきBGに付き合ってやってよかったと思っていただけるラストになっていると思うので期待して下さい」
回を追うごとに、主人公の属する身辺警護課チームの結束が高まりを見せつつ、それぞれの思いが交錯し輻輳していく。人間ドラマの名手でもある氏が提示する怒涛の最終展開に注目したい。
(文/及川望)
■Profile/井上由美子
立命館大学文学部卒。テレビ東京を経て、脚本家デビュー。これまでに『白い巨塔』や『昼顔〜平日午後3 時の恋人たち〜』、『緊急取調室』など幅広い作風の人間ドラマを描き、数々の作品をヒットに導く。木村拓哉とは『ギフト』、『GOOD LUCK!! 』、『エンジン』に続き、『BG 〜身辺警護人〜』で13年ぶりのタッグ。
(『コンフィデンス』 18年3月12日号掲載)
◆現代的なテーマになり得るボディガードの世界
『BG 〜身辺警護人〜』は、緊迫感あふれるアクションシーンとオフビートな日常描写の緩急が特徴。主人公・島崎章(木村拓哉)は、過去にボディガードとしての職務中に失態を演じ転職。妻とも離婚し数年を過ごしてきた設定。一時的に同居しているらしき息子とのカッコ悪いやりとりも魅力的だ。
「イメージは“傷だらけのボディガード”です。主人公の島崎は45歳の大人なので、天才やヒーローではなく、いろんな失敗を重ね、プライベートでも苦い思いを抱えているほうが魅力的だと考えました。人生そううまくいくことばかりじゃないけど、一歩ずつ前に進む。そんな主人公を見て視聴者が元気になれるよう、傷をたくさんつけました(笑)。島崎にとって傷は勲章なんです。20年以上、スターとして第一線におられる木村さんですが、一脚本家の私にとっては、とても信頼できる演技者です。特に一瞬一瞬の表情に説得力と意外性の両方があって、いつも驚かされます。まだ視聴者が見ていない新たな表情に、書き手としても立ち会いたいと思って取り組みました」
作品ごとに、何か1つでも新しい要素に挑戦することを自身に課すという氏ならではの言葉。主人公に限らず、レギュラー陣から各話ゲストに至るまでを立体的なキャラクターとして丹念に造形する手腕にも磨きがかかる。だが今回は、そもそもなぜボディガードの世界を描くことになったのだろうか。
「今の日本は、危険がすぐそばにあって、肉体的にも精神的にも安心できる瞬間が少ない。寄り添って守ってくれるボディガードという切り口から、人との繋がりを考えられればと思いました」
実際の民間ボディガードの訓練や仕事ぶりをリサーチするなかで、彼らが武器を携帯しないことも知ったという。
「とても現代的なテーマになると感じました。巷でよく“あいつ持ってるね”という言い回しをしますが、お金、学歴から子どもの遊びに至るまで、今は“持っている”人が強い。でも、持っている人も永遠に持
ち続けられるわけではない。何もなくなり丸腰になった時に真価が問われる。だから失うことを恐れなくていいんじゃない? そんな思いを丸腰のボディガードに託して描いています」
◆視聴者を信じて描きたい世界を見定める
氏のオリジナル新作というだけで、期待が高まるファンも多いが、そうした視聴者の声は意識するのだろうか。
「期待の声もあれば、ネガティブな声もたくさん届きます。時にはBGに護ってもらいたいくらい(笑)。でも、私の主戦場は身近な地上波なので、そういう生の声から感じられる時代の空気感も大事。耳をすましつつ、しかし、気にしすぎて小さくならないように、描きたい世界をきちんと見定めたいと思っています」
SNSでの盛り上がりが、ドラマを評価する指標のひとつになっているような昨今の傾向については?
「SNSで盛り上がる要素から発想してドラマを作る方法もあると聞きます。でも、狙えば見抜かれそうですね。データで書くなら、AIのほうが上手でしょうし(笑)。私の方法論は古いのかもしれませんが、最後まで観てもらえると視聴者を信じて、懸命に書いていくだけです。島崎たち愛すべきBGに付き合ってやってよかったと思っていただけるラストになっていると思うので期待して下さい」
回を追うごとに、主人公の属する身辺警護課チームの結束が高まりを見せつつ、それぞれの思いが交錯し輻輳していく。人間ドラマの名手でもある氏が提示する怒涛の最終展開に注目したい。
(文/及川望)
■Profile/井上由美子
立命館大学文学部卒。テレビ東京を経て、脚本家デビュー。これまでに『白い巨塔』や『昼顔〜平日午後3 時の恋人たち〜』、『緊急取調室』など幅広い作風の人間ドラマを描き、数々の作品をヒットに導く。木村拓哉とは『ギフト』、『GOOD LUCK!! 』、『エンジン』に続き、『BG 〜身辺警護人〜』で13年ぶりのタッグ。
(『コンフィデンス』 18年3月12日号掲載)
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2018/03/08