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崩れゆくドラマ映画化のあり方 上半期興収10億円超え僅か2本のみ

 夏興行真っ只なかの映画界である。邦画、洋画の話題作が目白押しで、多くの劇場が近年にないような賑わいを見せている。ただ、ヒット作品の傾向を見ていて、ひとつ気になることがあった。人気テレビドラマの映画化という邦画のヒットの定番的なあり方が、今崩れようとしているのではないかということである。

2009年の邦画トップとなる興収85億5000万円を記録した『ROOKIES〜卒業〜』

2009年の邦画トップとなる興収85億5000万円を記録した『ROOKIES〜卒業〜』

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◆人気ドラマ作品の総体的な地盤沈下

 人気ドラマの代表的な映画化作品である木村拓哉主演の『HERO』は、現在確かに大ヒットしている。すでに興収30億円を突破した。今後順調にいけば、50億円は優に超えてくるだろう。たいしたものだ。ただ、同じタイトルの前作『HERO』(2007年)は、81億5000万円という驚異的なメガヒットを記録しているのである。

 50億円超という見込みの数字は確かにすごいのだが、前作はその程度ではなかった。今回の『HERO』は、これまでのヒット方式に即してはいるのだが、その神通力は少々鈍化してきたと言っていいのではないかと思う。キムタク作品にして、そのような数字の推移になってきたことが、人気ドラマ作品の総体的な地盤沈下を象徴しているように見えてならない。

 地盤沈下は、こんなデータからもうかがえる。今年上半期、ドラマ(一般番組を含む)の映画化作品で、興収が10億円を超えたのは2本のみだった。昨年も、1年を通して興収10億円を超えた映画化作品は2本しかなかった。昨年、20億円を超えた作品は『相棒―劇場版III―』(21億2000万円)の1本と寂しく、明らかにヒット数は減っている。興収も大きなものが見込めなくなったのである。

◆近年は映画化ありきでのドラマ制作が進行

 ほんの少し前、2009年、2010年あたりと比べてみると、その差は歴然としている。2009年は、『ROOKIES〜卒業〜』(懐かしいがたかだか6年前なのだ)が、何と85億5000万円を記録して、その年の邦画のトップ。この年は、『ごくせん THE MOVIE』(これも懐かしい)も34億8000万円を記録している。2010年は、『踊る大捜査線 THE MOVIE3』が73億3000万円で邦画全体の第3位。同年の『のだめカンタービレ』は、前編と続編の累計で78億2000万円を記録している。

 人気ドラマの映画化作品は、その時分、確実に邦画興行の大きな部分を支えていたのが、以上のデータからはっきりと見てとれる。それらが、メガヒットに結び付くケースが多く、数字がとてもハイレベルだったからだ。それを、今年、昨年と見比べてみれば、興収減は明らかだ。

 その理由のひとつに、高視聴率のドラマがなかなか生まれなくなってきたことが、当然ながら挙げられると思う。人気ドラマが少なくなれば、その映画化作品も減り、ヒットのボリュームが萎んでいくのは、当然の成り行きである。現在は、ドラマ開始とともに、映画化を視野に入れるようなメディアミックス型のケースも増えてきているが、これとて、視聴率が低迷してしまえば、映画化の魅力は減る。この分野の命運は、大枠において視聴率が握るのである。

 いやいや、それほど視聴率の高くない深夜ドラマの映画化が成功していると指摘する向きもあるだろう。2011年のヒット作『モテキ』などが典型だが、それでもさきの『踊る大捜査線』や『ROOKIES』のようなメガヒットというわけにはいかない。『モテキ』は、コア層を大きく膨らませたような観客を集客したのは立派だったが、それは邦画の屋台骨を大きく支えるところまではいかないのである。

◆高視聴率のドラマが映画化されない事情

 ただ、視聴率の高いドラマでさえ、近年では映画化されないケースが生まれている現状も見逃せない。その代表例が『半沢直樹』と『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』だろう。映画化に至らない詳しい事情はわからないが、テレビ局側の事情というより、主演俳優や彼らの所属する事務所側の思惑が大きいと推測する。

 俳優なら、人気ドラマが作った固定的なひとつの役柄の枠に収まりたくない。事務所側なら、映画化がうまくいかなかった場合のデメリット部分も考えるだろう。映画化を画策したいテレビ局=製作側の思いどおりにいかない何らかの理由があるとみえる。稀れに登場する高視聴率のドラマが、映画化されないことが増えているのも、この分野の迷走を加速させている。

 視聴率云々というより、テレビそのものを観なくなった若者が増えているといった記事を最近よく見かける。となると、問題は人気ドラマの減少、映画化の停滞云々を超えて、テレビそのものに胚胎するということなる。この問題に触れることはしないが、ともかく、ドラマの低視聴率、少数の人気ドラマの非映画化といった事態、さらにテレビ離れなどを総合的に判断していくと、人気ドラマの映画化作品が置かれている現状が、かなり厳しいだろうことがわかってくる。

◆邦画実写ヒットの大きなウエイトを占める人気コミック原作映画

 今年上半期の邦画興収ベストテンには、ドラマの映画化作品が1本も入らなかった。6本もランクインしたアニメの強さは相変わらずだが、その一方、実写作品では『ビリギャル』がトップ(最終28億5000万円推定)となり、『暗殺教室』(27億7000万円)、『ストロボ・エッジ』(23億2000万円)、『寄生獣』(20億2000万円)が続く。

 これが何を意味しているかといえば、実写作品に限ってでは、ベストセラーの著作や多様なジャンルの人気コミックが、邦画ヒットの原作として大きなウエイトを占めているということであろう。この傾向は、昨年も同様だった。それらの数が増え、昨年の『るろうに剣心』(2作)のように、メガヒットに近い数字を出す作品も登場している。

 邦画ヒットを支えてきた人気ドラマの映画化作品の揺るぎなかったポジションが、今やコミック原作などの邦画作品にとって代わられようとしている。これは、さきに指摘したようなテレビ自体の影響力の低下とも大きなかかわりをもっているのであろう。こうなると、これまで邦画製作の中軸を担ってきたテレビ局の製作姿勢=体制にも、何らかの変化が現れるかもしれない。テレビ(ドラマ)発の映画のヒットがなくなる日も、ひょっとして、そう遠くはないのではないだろうか。ドラマ映画の低迷は、日本映画界の構造的な変化にまで、突き進む可能性がある。
(文:映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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