ソニー、JVC ケンウッドという大手メーカーがそれぞれ本格参入したハイレゾ(High Resolution)オーディオ市場。音楽配信の領域でも、ソニーミュージック傘下のmora、ビクターエンタテインメントのVICTOR STUDIO HD-Music. がそれぞれハイレゾ配信に注力し、今年3月には電子情報技術産業協会が「サンプリング周波数と量子化bit 数のいずれかがCDスペックを超えているもの」と、改めて「ハイレゾ」の定義付けを行うなど、一般向けのニュースでも、その呼称を目にすることが急速に増えている。新たな領域へと進んだ感のあるハイレゾ市場をめぐる状況をレポートする。
■アーティスト発信による新しい流れも
今年4月、くるりの岸田繁がハイレゾに対する思いを記したツイートが話題となった。くるりの作品をリリースするビクターエンタテインメントでは、同社ビクタースタジオが運営主体となるハイレゾ専門配信サイト「VICTOR STUDIO HD-Music.」を2月に発足しているが、岸田が同スタジオでくるり音源をMP3、CD用マスター音源、ハイレゾ配信音源のかたちで比較試聴体験した上での
感想を、自らを取り巻く環境についても考察した上で、27ツイートにわたって述べたものだ。
「ハイレゾ音源を聴いて、前者2つ(MP3、CD)との決定的な違いを、音楽として感じてしまった」という素直な驚きに続き、音楽配信用の高圧縮な音源をも売らざるを得ないレコード会社の現状や、同社やスタジオのスタッフ、親会社の技術者らへの信頼と、その中で音楽を作っている自らの状況などまでを綴り、「今後CDが市場の主力商品じゃなくなって、ハイレゾ配信になるならば、本気でそれを浸透させることをやりたいと思っている」と述べている。ネット上では、その
アーティストとして素直で真摯な意見に対し、共感を寄せる多くの書き込みが行われた。
そのくるりは4月19日に、「ロックンロール・ハネムーン」と「同tofubeats remix」で初めてのハイレゾ音源配信をVICTOR STUDIO HD-Music.で開始している。CD用マスターなどの下位フォーマットでも、192kHz/24bit、96kHz/24bit 等のハイレゾフォーマットに拡大・伸長させられるビクタースタジオの独自技術「K2HDプロセッシング」を採用した音源(WAV:96kHz/24bit及びFLAC:96kHz/24bit)で、5月末現在も同サイトのDLランキング首位をキープしている。
このくるりの事例の他、同時期にはASIAN KUNGFU GENERATIONの後藤正文が4月30日、「Gotch」名義でのソロアルバム『Can’t Be For ever Young』をCDだけでなく、eonkyo music等ハイレゾ配信サイトからもリリース。昨年10月からハイレゾ配信を開始した音楽配信サイト「mora」では、当初から既発作品のハイレゾ化を進めてきたが、加藤ミリヤ『LOVELAND』(2 月)、JUJU『DOOR』(3月)、最近ではaiko『泡のような愛だった』(5月/リードトラック「明日の歌」をハイレゾ配信)等、新譜CDのリリースとハイレゾ配信の開始を同時に行う試みも始めている。
■大手2社がそれぞれ総合的な商品展開を開始
そんななか、昨年9月にソニー、10月にJVC ケンウッドという大手オーディオメーカーがハイレゾ市場への本格的な参入を発表。ソニーはHDDオーディオプレイヤーやUSB DAC内蔵アンプ、ヘッドホン、ヘッドホンアンプなど、8カテゴリー18製品を一挙に揃えての参入で、特にウォークマンの最上位機種でハイレゾに対応する「NW-ZX1」は、数ヶ月にわたって品薄状態が続くほどのヒット商品となった。一方のJVC ケンウッドもコンパクトコンポーネントシステムからヘッドホンに至る総合的な商品ラインアップを進め、独自の高音質化技術「K2 テクノロジー」を採用するポータブルヘッドホンアンプ「SUAX7」は、5月下旬の発売前からすでにネット上で話題を集めている。
■一般的な音楽ファンにもリーチし得る新しい段階に
日本オーディオ協会が毎年行っているユーザー調査では、いわゆるオーディオファンの間でも、現在もっとも興味を持たれているカテゴリーはハイレゾであり、同時に、いわゆる「モバイルオーディオ」への関心も安定的に伸びつつある傾向が浮かび上がっている。ソニー、JVC ケンウッドのハイレゾ関連ラインアップの中でも、ヘッドホン、ヘッドホンアンプを含むモバイルオーディオ関連は特に好調で、しかもその購入者には、明らかに従来のオーディオファンとは異なる層も含まれるという。
加えて、この両社に共通するのは、グループ内にmora、VICTOR STUDIO HD-Music. という配信サイトが存在し、ハード、ソフトとを連携させての展開も戦略的に行っている点だ。オーディオ関連の知識がなくとも、比較的手を出しやすいコンポーネントシステムやモバイルオーディオ関連をラインアップし、ハイレゾ配信サイトではJ-POPやアニソンなどの新曲を含む、幅広い展開を実施。これらが意味するのは、マニアやコアなオーディオファンに楽しまれていたハイレゾの世界が、より一般的な広い層へとリーチし得る新しいステージに入ったということだ。
■クリエイターの仕事へのフィードバックも
スマートフォンの領域でも、昨年来、サムスン『GALAXY Note 3』、LG『LG G2』及び『isai』、ソニーモバイルコミュニケーションズ『Xperia Z2』といった、96kHz/24bit以上のハイレゾ音源再生に対応した商品が順次発売されている。特にXperia Z2 については、6/2付オリコンランキング4 位となったマイケル・ジャクソン『エスケイプ』に収録される「スレイブ・トゥ・ザ・リズム」をCMソングに採用。同アルバムとソニーモバイルコミュニケーションズのXperia Z2 等、ソニーのハイレゾ関連オーディオ機器という3者を連動させたキャンペーンも展開中だ。
サウンド・クリエイター、松本靖雄氏は「こういった動きによって、より広い層がハイレゾ音源を楽しむようになっていけば、それはクリエイターの仕事にもフィードバックされ、彼らの意識をも変えていくだろう」とコメントしている。くるりの岸田やアジカンの後藤をはじめ、日本の音楽の最前線に立っているアーティストたちも、自らの音楽を、スタジオで制作している音と
比べて遜色のない状態でファンに届けることに意識的になり始めている。
ハードウェアのラインアップ、配信プラットフォームの整備といった状況に、それらアーティスト、クリエイターの意識の変化も加わり、ハイレゾ関連の市場は今後、意外なスピードで拡大していくかもしれない。
(ORIGINAL CONFIDENCE 14年6月9日号掲載)
■アーティスト発信による新しい流れも
今年4月、くるりの岸田繁がハイレゾに対する思いを記したツイートが話題となった。くるりの作品をリリースするビクターエンタテインメントでは、同社ビクタースタジオが運営主体となるハイレゾ専門配信サイト「VICTOR STUDIO HD-Music.」を2月に発足しているが、岸田が同スタジオでくるり音源をMP3、CD用マスター音源、ハイレゾ配信音源のかたちで比較試聴体験した上での
感想を、自らを取り巻く環境についても考察した上で、27ツイートにわたって述べたものだ。
アーティストとして素直で真摯な意見に対し、共感を寄せる多くの書き込みが行われた。
そのくるりは4月19日に、「ロックンロール・ハネムーン」と「同tofubeats remix」で初めてのハイレゾ音源配信をVICTOR STUDIO HD-Music.で開始している。CD用マスターなどの下位フォーマットでも、192kHz/24bit、96kHz/24bit 等のハイレゾフォーマットに拡大・伸長させられるビクタースタジオの独自技術「K2HDプロセッシング」を採用した音源(WAV:96kHz/24bit及びFLAC:96kHz/24bit)で、5月末現在も同サイトのDLランキング首位をキープしている。
このくるりの事例の他、同時期にはASIAN KUNGFU GENERATIONの後藤正文が4月30日、「Gotch」名義でのソロアルバム『Can’t Be For ever Young』をCDだけでなく、eonkyo music等ハイレゾ配信サイトからもリリース。昨年10月からハイレゾ配信を開始した音楽配信サイト「mora」では、当初から既発作品のハイレゾ化を進めてきたが、加藤ミリヤ『LOVELAND』(2 月)、JUJU『DOOR』(3月)、最近ではaiko『泡のような愛だった』(5月/リードトラック「明日の歌」をハイレゾ配信)等、新譜CDのリリースとハイレゾ配信の開始を同時に行う試みも始めている。
■大手2社がそれぞれ総合的な商品展開を開始
そんななか、昨年9月にソニー、10月にJVC ケンウッドという大手オーディオメーカーがハイレゾ市場への本格的な参入を発表。ソニーはHDDオーディオプレイヤーやUSB DAC内蔵アンプ、ヘッドホン、ヘッドホンアンプなど、8カテゴリー18製品を一挙に揃えての参入で、特にウォークマンの最上位機種でハイレゾに対応する「NW-ZX1」は、数ヶ月にわたって品薄状態が続くほどのヒット商品となった。一方のJVC ケンウッドもコンパクトコンポーネントシステムからヘッドホンに至る総合的な商品ラインアップを進め、独自の高音質化技術「K2 テクノロジー」を採用するポータブルヘッドホンアンプ「SUAX7」は、5月下旬の発売前からすでにネット上で話題を集めている。
■一般的な音楽ファンにもリーチし得る新しい段階に
日本オーディオ協会が毎年行っているユーザー調査では、いわゆるオーディオファンの間でも、現在もっとも興味を持たれているカテゴリーはハイレゾであり、同時に、いわゆる「モバイルオーディオ」への関心も安定的に伸びつつある傾向が浮かび上がっている。ソニー、JVC ケンウッドのハイレゾ関連ラインアップの中でも、ヘッドホン、ヘッドホンアンプを含むモバイルオーディオ関連は特に好調で、しかもその購入者には、明らかに従来のオーディオファンとは異なる層も含まれるという。
加えて、この両社に共通するのは、グループ内にmora、VICTOR STUDIO HD-Music. という配信サイトが存在し、ハード、ソフトとを連携させての展開も戦略的に行っている点だ。オーディオ関連の知識がなくとも、比較的手を出しやすいコンポーネントシステムやモバイルオーディオ関連をラインアップし、ハイレゾ配信サイトではJ-POPやアニソンなどの新曲を含む、幅広い展開を実施。これらが意味するのは、マニアやコアなオーディオファンに楽しまれていたハイレゾの世界が、より一般的な広い層へとリーチし得る新しいステージに入ったということだ。
■クリエイターの仕事へのフィードバックも
スマートフォンの領域でも、昨年来、サムスン『GALAXY Note 3』、LG『LG G2』及び『isai』、ソニーモバイルコミュニケーションズ『Xperia Z2』といった、96kHz/24bit以上のハイレゾ音源再生に対応した商品が順次発売されている。特にXperia Z2 については、6/2付オリコンランキング4 位となったマイケル・ジャクソン『エスケイプ』に収録される「スレイブ・トゥ・ザ・リズム」をCMソングに採用。同アルバムとソニーモバイルコミュニケーションズのXperia Z2 等、ソニーのハイレゾ関連オーディオ機器という3者を連動させたキャンペーンも展開中だ。
サウンド・クリエイター、松本靖雄氏は「こういった動きによって、より広い層がハイレゾ音源を楽しむようになっていけば、それはクリエイターの仕事にもフィードバックされ、彼らの意識をも変えていくだろう」とコメントしている。くるりの岸田やアジカンの後藤をはじめ、日本の音楽の最前線に立っているアーティストたちも、自らの音楽を、スタジオで制作している音と
比べて遜色のない状態でファンに届けることに意識的になり始めている。
ハードウェアのラインアップ、配信プラットフォームの整備といった状況に、それらアーティスト、クリエイターの意識の変化も加わり、ハイレゾ関連の市場は今後、意外なスピードで拡大していくかもしれない。
(ORIGINAL CONFIDENCE 14年6月9日号掲載)
2014/06/08



