20歳の新人・辰巳ゆうと、“演歌ストリートライブ”で磨いた腕と度胸
はじめは不安と緊張でいっぱいだった、演歌ストリートライブ
辰巳 はい。デビュー前の約1年間、ご年配の方が多い東京の下町を中心に、週2回ペースでストリートライブをやっていたんですが、1番の歌詞の一節が、ストリートライブをやり始めた頃の自分に言われているような気がして、最初に歌詞を読んだ時、すごく心に響きました。
――演歌のストリートライブって珍しいですよね。
辰巳 そうですね。ですので、最初はどうやったらいいのかわからないし、人の目は気になるし、恥ずかしいし、とにかく不安と緊張でいっぱいで。自分の力を100%出し切ることができない日が続きました。
――どうやって克服したんですか?
辰巳 回を重ねていくごとに、わざわざ足を止めて聞いてくださったり、温かい言葉をかけてくださる方が現れて。そのうち何度も足を運んでくださる方々も増えて、なかには寒い日に温かいお茶を持ってきてくださる方もいたんです。そういう人の温かさを肌で感じるうちに、歌っていて良かったって思うようになって、そこからは不安や緊張ではなく、もっと大勢の方に聴いてもらいたいという思いが強くなって、それまでとは逆に、開き直って「みなさん、聴いてください!」っていう気持ちで歌うようになりました。
――ストリートライブではどんな曲を歌っていたんですか?
辰巳 カラオケを流しながら、マイクなしで、春日八郎さんの「赤いランプの終列車」や三橋美智也さんの「哀愁列車」といった歌謡曲っぽい演歌から、村田英雄さんの「無法松の一生」のような男らしい演歌まで、幅広く昭和の名曲を歌わせていただいていました。1日10曲くらい歌っていたんですが、レパートリーは40曲くらいありました。
――そもそも、演歌を好きになったきっかけはなんだったのですか?
辰巳 生まれて数ヶ月の頃から祖父が家族に内緒で僕をカラオケ喫茶に連れて行っていたようで(笑)、記憶のない頃から演歌を聴いて育ったんです。物心がついた時には、自分もカラオケ喫茶でマイクを持って演歌を歌っていて、保育園の七夕飾りの短冊や、学校の卒業文集に「演歌歌手になりたい」って書いていました。祖父について行って観た演歌の方のキャンペーンやコンサートで、「観客を笑顔にできる素晴らしい職業だ!」と思ったことも演歌歌手に憧れるきっかけでした。
――プロになった今、ストリートライブの経験は自分に活きていると感じますか?
辰巳 ストリートライブをやって一番変わったのは、人に聴いていただくことのありがたさがわかったことです。わざわざお忙しいなか、足を運んで来てくださることがどんなにありがたいことか。お客様がいるということは普通のことじゃないということを、身をもって実感できたことは、とても役に立っていると思います。あと、ストリートでは自分でラジカセをセットして歌っていたので、今、スタッフの方々の支えがあってこそ、ステージで僕は歌わせていただけているんだなと、そのありがたさも実感しています。
演歌・歌謡以外では、ゆずやONE OK ROCKをよく聴く
辰巳 昔から英語が好きだったので、大学で英語の勉強もしたいと思ったんです。どちらかを諦めるのではなく、どっちも一生懸命、両立して頑張りたいと考えました。
辰巳ゆうと「下町純情」
辰巳 デビュー曲の「下町純情」は、先生方のアドバイスもあり、20歳にしか歌えないような元気さ、明るさを意識してレコーディングさせていただいたんですが、今の年齢ならではの若さや元気は大学に行くとたくさん感じられるので、自分の歌に役立っている気がします。今はまだ英語が話せると胸を張って言えないんですが(笑)、あと2年間、一生懸命勉強して、いずれ英語バージョンの演歌を歌うとか、英語を活用できるようになれたらいいですね。
――演歌以外、英語の曲も好きだったりするんですか?
辰巳 いろいろな音楽を聴きます。僕は楽器が弾けないので、楽器を扱うバンドの方々に憧れがあって、今は、ONE OK ROCKさんとか、ゆずさんとか、J-POPの男性の曲を聴くことが多いですね。いろいろなジャンルの音楽を聴くことも、演歌歌手としての自分の成長に繋がると思うんです。音楽だけでなく、常に何かないかなって好奇心を持って、いろいろなところから幅広く吸収して、成長したいと思っています。
――最後に、将来、目指す歌手像を教えてください。
辰巳 事務所の先輩の氷川きよしさんが小さい頃から好きでずっと憧れてきたので、ゆくゆくは氷川先輩のような、人を笑顔にし、感動させられる歌を歌える歌い手になるのが目標です。あと、氷川先輩はいつもいつも、お客様にとても温かい言葉をかけていらっしゃるのですが、僕もお客様とのふれ合いを大事にする歌い手になりたいので、そういった人柄の面も学びながら、今後は1人の人間としても成長できるよう、勉強を重ねていきたいと思っています。
文/河上いつ子