吉本興業が掲げた“国産プラットフォーム”構想の意義
沖縄10年間の取り組みから次のステップへと踏み出す
09年にスタートした沖縄国際映画祭は、さまざまな映像コンペティションやワークショップの実施や、離島を含めた沖縄全域において通年でライブやイベントを行うことで、日本だけでなく、距離的に近いアジア各国からも多くのコンテンツが集まり、この10年で沖縄を日本とアジアのコンテンツが集まるハブへと育ててきた。その一方で、沖縄発のエンタテインメント創出のための人材育成に特化した「沖縄ラフ&ピース専門学校」を今年4月に開校。そこから世界に通用する沖縄の人材を育成する。
そのコンセプトは、まずテーマとして、教育・観光・地域課題・健康・スポーツをメインとし、それらを映像、漫画・アニメ、AR・VR、ゲーム、SNS、ライブといった表現方法でコンテンツ化。プラットフォームから発信することで、定額課金、個別課金、投げ銭、広告、ファンディングなどによるマネタイズを図るビジネスモデルになる。これらのコンテンツは、吉本興業が芸人をはじめ専門学校で育成中のクリエイターやパフォーマーも含めた人材を供給し、自社で制作しながらプラットフォームを運営していく。
コンテンツホルダーのための「データの取得」「適正配分へ」
プラットフォームの役割には、ユーザーに向けたコンテンツの発信だけでなく、世界のあらゆる場所での視聴数、視聴者層といった詳細データの取得がある。それが次のコンテンツ制作への貴重な資料になる。ところが、国産のプラットフォームでないとそれがままならないことも多い。また、世界中での売上からのコンテンツホルダーへの適正な収益配分の面でも同様だ。ブラックボックス化されたなかで、分配された収益を得られればいいのか。それとも、そこをしっかりと握ることで、未来のエンタテインメント産業の振興、発展に繋げるのか。まさにそこが、吉本興業の次の100年へのビジョンのなかで、いま踏み出すべき一歩だったのだろう。
これまでにも、映画やテレビ番組などの映像コンテンツを国内向けに配信する日本のサービスはあるが、上述のようなエンタテインメントに限らず幅広いテーマをコンテンツ化し、世界に向けて発信するプラットフォームとしてのメディアは初めてのものになる。それは、既存のテレビや動画配信サービスなどの放送、通信メディアと競合することなく、むしろ協業する部分もありながら、日本コンテンツの世界発信、さらには発展に寄与していくことだろう。
吉本興業では、そのための新会社を今年6月に設立。プラットフォームは早ければ夏以降にローンチ予定。自社以外のコンテンツホルダーやクリエイターなどとのシーンの活性化に向けた協業も幅広く想定している。日本エンタテインメントシーンにとって意義のある動きになるであろう今後に注目したい。
(文:編集部・武井保之)