「ここさけ」プロデューサーが語る、実写化の裏側
10代へもターゲットを広げ、宣伝展開
齋藤 大作が揃う夏映画の中でも、アニプレックスがこれだけの規模の作品を手がけるのは、初めてのチャレンジとなります。やはり大切なのは成功させることだと思うので、そういう意気込みを持ってやっています。
齋藤 今回はTOHOシネマズさんのシネコン試写やフジテレビさんのネットワーク試写などを組んで、2万5000人規模の試写会を実施しましたが、実際に作品を見て頂いた皆さまから、評価が高いのは心強いなと思いました。アニメの場合は、公開日ギリギリにならないと完成しないということもよくあって、一般試写の実施が難しく、初日に映画を観たファンの方が拡散してくださるという形が多いのですが、今回の実写版はアニメと比べれば宣伝期間を確保できていますし、7月29日にはフジテレビでアニメ版「ここさけ」が放送されたり、公開直前、直後には本作出演者がプロモーションで多数のテレビ番組に出演します。宣伝のピークをしっかり作り、それを興行的な成功に結びつけたいなと思っています。
――目標としてはアニメ版の興収11億円からさらに上乗せしたい、というところではないでしょうか? 目標はどのあたりに設定していますか?
――そのためにどのようなアプローチを考えたのでしょうか?
齋藤 中島健人さんや芳根京子さんなどキャストのお力をお借りするということもそうですし、内容的な部分では、トラウマからの解放ということだけではなく、4人の恋心の行方という要素も予告編で押し出すなど、10代の方にも興味を持っていただけるような宣伝戦略をとっています。
齋藤 そうですね。アニメ版のファン層は20歳前後がピークで、20代、30代くらいのアニメファンが中心でした。原作は超平和バスターズ(長井龍雪、岡田麿里、田中将賀の3人によるアニメーション制作チーム)でしたが、彼らが30代後半ということもあり、作品にはノスタルジーの要素が盛り込まれています。昔、こういうものを食べていたなとか、こういうことがあったな、など。今回は登場人物と同じ10代の学生にも作品に興味をもって頂けるよう、伝えられない気持ちというテーマに「恋心」も含まれていますよということを宣伝で打ち出しています。
アニメの制作陣の間からもキャスティングが話題に
齋藤 やはり中島さんの人気のすごさを改めて感じました。中島さんは、アニメ版の拓実をきちんとリスペクトして役作りをしてくださったので、中島さんの新たな一面が見られたとおっしゃってくださったファンの方もいました。中島さんはこれからもいろんな映画に出演されていくと思いますが、これまでのイメージとは異なる人物像を本作で見せていただいたという意味では、ファンの心にもずっと残っていく作品になるのではないかと思います。そうやってこの作品が皆さんの心に残っていってもらえるなら嬉しいですね。
――芳根京子さんは朝ドラ『べっぴんさん』放送後ということで、注目の高い時期だと思うのですが。
齋藤 順というキャラクターは、前半はなかなかうまくしゃべることができずに、表情や身体の動きが中心の芝居となり、それを演じられた芳根さんの演技も素晴らしかったのですが、クライマックスの感情をむき出しにするシーンでの爆発力は本当にすごいと思いました。アニメ版にも勝るとも劣らない、ものすごく心に訴えかけるシーンとなりました。アニメから関わっている人間としては、非常にいいシーンにしていただき、感動しましたね。
齋藤 寛一郎さんにとっては、今作が初めての映画出演なので、ある意味、4人のキャスティングの中では一番予測がつかない役者さんだったのですが、とても素晴らしかったです。甲子園という夢に破れて、仲間ともうまくいかなくなった野球部の元エースという心情をとてもうまく表現してくれていました。アニメの制作陣の間からも、大樹の話題は本当によく出てきますね。
齋藤 石井さんも、ものすごく清潔感のある方で、菜月というキャラクター性を見事に表現しいてくれました。やはりE-girlsのメンバーということで、チアリーダーの部長という役どころは説得力が違いますよね。みんなに振り付けをするシーンでも、ダンスの切れ味が際立っていました。
齋藤 実際の現場でも、メインキャストの4人はとても仲が良くて、クラスメートをまとめていました。そういう意味でも、出演者からの作品に対する愛情も感じましたし、撮影が進んでいくたびにどんどん説得力が増していきました。これならきっと原作ファンにも届くのではないかと思いましたね。
コミュニケーションの再生というメッセージが伝わる作品に仕上がった
齋藤 秩父市役所観光課の中島学さんというアニメ版の制作時から一緒に汗をかいてくださっていた方が「実写版、待っていました!」とおっしゃってくれました(笑)。実写映画を撮る際に大変なのは、通行人や車の動きを停めたり、映ってはいけないものを映さないようにすることです。いろいろな制約がある中で、いかに良い映像を撮るかが一番大変なところなのですが、今回の撮影に関しては秩父市がかなりの協力体制を敷いてくれました。逆に言えば、そういう協力体制があったからこそ、それがフィルムにも反映されて、いい映像が撮れたのだと思います。
――「あの花」も「ここさけ」も、大勢の方が「聖地巡礼」として舞台となった秩父を訪れました。実写版が公開されたら、また注目を集めるのではないでしょうか?
齋藤 そうですね。原作ファンの方々は「あの花」の時から聖地巡礼をしてくれたと思うのですが、今度は実写版を観てファンになってくれた方が秩父を訪れてくれるのではないかと期待しています。
齋藤 もちろんロケ地を特定しないアニメもありますが、「あの花」や「ここさけ」などは、秩父市の中で完結させている作品だったので、そこがリアリティを与えてくれたのかなと思っています。実写版のスタッフも最初から出来る限り秩父ロケで撮りたいと言っていただきましたし、そういった秩父の空気感というものが、作品のメッセージを伝える意味でも重要な要素になったと思います。
――実写版のスタッフ・キャストも、原作アニメのファンが多かったそうですね。
齋藤 原作であるアニメ版を支持してくださるファンがたくさんいらっしゃって、良い成績を収めることができました。そんな作品を実写化するわけですから、実写版のスタッフやキャストの皆さんは非常なプレッシャーがあったのではないかと思います。でも本当に皆さんが、原作アニメへの愛情やリスペクトを持って作ってくださったので、我々としてもとても幸せな現場でした。だったなと思います。「ここさけ」が大事にしてきた言葉の大切さとか、コミュニケーションの再生といったメッセージがしっかりと伝わる作品に仕上がったので、うれしかったですね。
◆斎藤俊輔(さいとうしゅんすけ)
1983年生まれ。2007年にアニプレックス入社。販売推進部で活躍後、企画制作部に移動。2010年に『黒執事II』でプロデューサーに。その後も数多くのアニメ作品をプロデュースしている。
(文:壬生智裕)
7月22日(土)全国ロードショー
配給:アニプレックス
(C)2017映画「心が叫びたがってるんだ。」製作委員会(C)超平和バスターズ