ワーナー映画・高橋雅美社長が語る「邦画、洋画ともに漫画原作が並ぶ2017年の狙い」
マーケットニーズに対応、今後も邦画を制作していく
高橋雅美氏春興行に関しては、業界全体でいい数字が出ましたが、その流れに乗って弊社も結果を残せました。その理由として、昨年の『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』が年を明けても好調だったことがひとつ。それから『キングコング』が好調だったことも大きい。怪獣映画というコンセプトを明快に打ち出して、映画好きな方はもちろん、女性やお子さんなど、幅広い層が来場してくださり、興収20億円を超える勢いで動いています。
――御社は洋画メジャーでありながら、邦画制作にも積極的に取り組むなど、独特な立ち位置にありますね。
高橋雅美氏ワーナーは映画が大好きで、とにかくおもしろい映画を作りたいというDNAがしっかりと根付いています。ですから、日本の映画マーケットで邦画の勢いが強くなったときに、洋画メジャーであるワーナーはそこにどうやって合わせていくのか、という問いに対して、われわれの回答はシンプルでした。邦画も作って、そのマーケットに対応していこうと考えたわけです。
洋画メジャーのなかでこれだけ邦画を作っているのはワーナーだけだと思うのですが、一方で洋画をたくさん観ていただきたい、という気持ちは大きい。ですから邦画も洋画も、編成としては半々ずつこれからも出していけたらと思っています。昨年は『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』のヒットが出ましたし、邦画もいいラインナップだったので、いい年で終わりました。今年は洋邦ともにさらにいい作品がそろっていますので、昨年以上の数字をあげられると思っています。
邦画においては新参者、挑戦しなければ意味がない
高橋雅美氏正直、すべての邦画が成功したわけではありません。初めて邦画を制作したときから考えると、実は約20年くらい前からチャレンジをし続けていて、失敗を繰り返した時期もありました。普通なら1〜2回やってみて、そこで予算を失ってしまえば打ち止めになるところですが、われわれにはネバーギブアップの精神があった。諦めずにトライし続けたことが現在の結果につながっていると思います。
日本のローカルコンテンツに関しては、アメリカ本社の理解もあり、チャレンジングな企画の作品を多く手がけたということもあります。それこそがワーナーのDNAなんです。われわれは邦画市場においては新参者なわけですから、日本の映画会社さんの二番煎じだけでは、なかなかうまくいかない。そうすると必然的にチャレンジングなやり方になりますし、そうでなければワーナーが日本で映画を作る意味がない。弊社には小岩井宏悦、濱名一哉、関口大輔といった経験を積んできたプロデューサーもおりますし、本社のサポート体制もしっかりしている。宣伝のノウハウも蓄積している。そういう意味で、洋画だけでなく、邦画もできるのがワーナーの強みになっていると言えます。
――今年の邦画のラインアップでは、『無限の住人』『銀魂』『鋼の錬金術師』『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』など、映像化困難とされてきた人気漫画を実写化するビッグプロジェクトが多いように感じます。そこの編成方針はどのように考えているのでしょうか?
高橋雅美氏2017年の編成は、洋画では『ワンダーウーマン』『ジャスティスリーグ』というDCコミックス原作のヒーロー超大作がひとつの柱になっています。一方、邦画では、おっしゃっていただいた漫画原作の実写映画が柱になります。いい映画を作るためには、いいストーリーとキャラクターが必要です。そういう意味では、ヒット漫画は非常にポテンシャルが高い。
そこに、作品に相応しいキャスト、スタッフに参加していただくことで、すばらしい映画が作れます。とくに漫画にはたくさんのファンがついているので、集客も期待できる。となると、編成においても漫画原作が核になってくるのは必然になります。言ってみれば、うちのDC作品ももともとは漫画原作ですからね。たまたまではありますが、今年は洋邦ともに漫画原作が並んだなという感じがしています。
洋画シェアの奪還よりもいかに若い観客を増やすか
高橋雅美氏『ジョジョ』だけでなく、『銀魂』や『鋼の錬金術師』などに関しても、世間から厳しい目も向けられておりますので、まずはネガティブに言われるところからスタートしなくてはなりません。「まともなものを作れるのか」「ファンの気持ちをないがしろにするようなものを作られたらたまらない」という意見は当然あるでしょうし、われわれもそこは十分配慮しています。
まずは作品が持っているコアなバリューをきちんと伝えていくことが重要になります。少しずつキャラクタービジュアルや映像を露出していき、「案外いけるんじゃないの」と思ってもらわなければなりません。最終的には映画を観ていただくことが目的ですが、そのためには原作ファンの方々とのコミュニケーションを大切にしながら、宣伝をしていくことが重要だと考えています。
例えば『銀魂』では、主人公の銀ちゃんが持つ男気を小栗旬さんがうまく体現していて、高い評価をいただいております。この作品のコメディ要素を福田雄一監督がうまく拾ってくれて、原作の空知英秋先生もサポートしていただいたので、うまく広がったように思います。一方の『鋼の錬金術師』も、最初は不安に思われた部分もあったと思いますが、少しずつ映像や写真を見せることで、ポジティブな声を多くいただけるようになってきました。今では主人公の山田涼介さん抜きでは考えられないくらいにピッタリとハマった作品になっていて、ファンの間でも徐々に評価が高まっているようです。
あとは『ジョジョ』ですが、これはまだ映像ができあがっていない状態なので、今はまだネガティブなコメントが多いのも事実です。この作品は制作がTBSさんで、東宝さんが配給、われわれが宣伝を担当します。こうした枠組みも新しい試みなので、それぞれの強みを生かして、大きなヒットに結びつけられたらと思っています。
――日本のかつてのマーケットシェアは、長きにわたって洋高邦低という傾向が続き、2008年からは邦画が上回っています。洋画メジャーのワーナーとしては、洋画のシェア逆転を念頭に置いているのでしょうか?
高橋雅美氏洋画シェアを奪還するよりも、まずはいかにして映画マーケットを広げるかを考える方が先決だと思います。今は映画の動員が好調なので、こういう時期にいかにアクションを起こすかが大事です。日本では、1人あたり年間で1.3本しか映画を観ないといわれていますが、韓国では年間で4.3本。韓国の映画人口は2億人いるんですよ。でも、日本ではなかなか2億人の動員には到達しない。どうやって映画を観に来る人を増やすのか、それを考えていかないといけない。
そのためにはまず、やはり若い人に映画を好きになってもらって、いい映画をどんどんSNS等で広めてもらいたい。『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』は、高校生や大学生がたくさん観に来てくださった。DCコミックスの作品もそう。そういった映画で、若い観客のシェアを伸ばしていけたらと考えています。
(文:壬生智裕/撮り下ろし写真:西岡義弘)
(コンフィデンス5月8日号掲載)
ワーナー ブラザース ジャパン 合同会社
社長 兼 日本代表
高橋雅美氏
59年生まれ。広告会社、コカ・コーラを経て、00年よりエンタテインメントビジネスに従事。ディズニー時代はスタジオマーケティングのヘッドとして『アナと雪の女王』『ベイマックス』等のディズニーアニメーションビジネスを再構築。『アベンジャーズ』からスタートしてマーベルブランドの開発等をリード。15年にワーナーブラザースジャパンに参加。16年に社長兼日本代表に就任。『ファンタスティック・ビースト』『DC』等のフランチャイズビジネスの構築。邦画、アニメを含むローカルコンテンツ制作の強化に取り組んでいる。
社長 兼 日本代表
高橋雅美氏
59年生まれ。広告会社、コカ・コーラを経て、00年よりエンタテインメントビジネスに従事。ディズニー時代はスタジオマーケティングのヘッドとして『アナと雪の女王』『ベイマックス』等のディズニーアニメーションビジネスを再構築。『アベンジャーズ』からスタートしてマーベルブランドの開発等をリード。15年にワーナーブラザースジャパンに参加。16年に社長兼日本代表に就任。『ファンタスティック・ビースト』『DC』等のフランチャイズビジネスの構築。邦画、アニメを含むローカルコンテンツ制作の強化に取り組んでいる。