理性の仮面をつけた狂気
フルモデルチェンジで2代目となった「R8スパイダー」に試乗。自然吸気のV10エンジンを搭載するアウディの最上級オープンはどんな走りを見せるのか。先代との比較を交えつつ、その印象を報告する。
様変わりしたスパイダー
夜、東京・恵比寿某所にあるwebCG編集部の入ったビルの地下駐車場でR8スパイダーを借り出す。扉が開いて、ベガスイエローのテスト車が姿を現す。ヴァフォンッ! と狭い駐車場内に5.2リッターV10の咆哮(ほうこう)がとどろき、その数秒後、野獣が息をひそめて獲物を待つように静かにアイドルしはじめる。
自動車でいう「スパイダー」は、主にイタリアで使われた用語で、屋根を開けた状態を基本形とする2座スポーツカーを指す。ほろは簡素な最低限の代物で、ウインドスクリーンは小さく、サイドウィンドウはなしで、はめ込み式だったりする。イギリスで「ロードスター」と呼ばれるスタイルがこれだ。スパイダーを名乗るクルマで、ほろを開けるにためらってどうする。
まして、現代のスパイダーはスパイダーといえども、全自動開閉式のソフトトップを常識的に装備する。R8スパイダーもまたしかり。センターコンソールのスイッチを20秒間押し続けるだけでクローズドからオープンに変身し、50km/h以下であれば、走行中でも開閉できる。ためらうにしかず。好きな時に屋根を開け、嫌になったら閉じればよい。
そんなの当たり前じゃん、と思われる読者諸兄もいらっしゃるでしょう。でも、そうではないのです。いまからほんの30年ほど前、そのエポックは1989年に登場した「メルセデス・ベンツSL」(R129)だったと筆者は思うけれど、初めて完璧な全自動開閉式のほろを備えたこの4代目SL以前、ほろをつけたり、はずしたり、というのは一大決心を必要とする面倒事だったのぢゃ。...