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知らぬ間に人間関係がどんどん悪化していく、「放っておくとヤバい」バイアス


Photo: Adobe Stock

頭のいい人は、「遅く考える」。遅く考える人は、自身の思考そのものに注意を払い、丁寧に思考を進めている。間違える可能性を減らし、より良いアイデアを生む想像力や、創造性を発揮できるのだ。この、意識的にゆっくり考えることを「遅考」(ちこう)と呼び、それを使いこなす方法を紹介する『遅考術――じっくりトコトン考え抜くための「10のレッスン」』が発刊された。
この本では、52の問題と対話形式で思考力を鍛えなおし、じっくり深く考えるための「考える型」が身につけられる。「深くじっくり考えられない」「いつまでも、同じことばかり考え続けてしまう」という悩みを解決するために生まれた本書。この連載では、その内容の一部や、著者の植原亮氏の書き下ろし記事を紹介します。

共同プロジェクトへの貢献度を考える

人についての判断や評価には、直観によって生ずるバイアスが影響しやすい。今回は、他人への評価や、人間関係に影響を及ぼすバイアスについて解説していく。

早速だが、次の問題を考えてみてほしい。

5人のメンバーからなるチームで、共同プロジェクトに取り組んでいるとしよう。プロジェクトの開始から半年が経過したところで、わずかながら成果が得られるようになってきた。そこで、中間決算の意味も込めて、その半年間で自分が全体に対してどのくらい貢献したかを、各メンバーにパーセンテージで回答してもらうことにした。

――このとき、各メンバーが回答した貢献度の合計は、次のどちらになると見込まれるだろうか? またそれはなぜか?

A:ちょうど100パーセントになる
B:100パーセントを上回る

なお、各メンバーはあえて誇張も謙遜もせず、自分の貢献度を正直に回答したものとする。(※)

「性格」以外の要素が関係している?

素直に考えると、メンバーの貢献度の合計は「ちょうど100パーセント」のAが正しい仮説になりそうである。しかし、自分の働きを実際以上に大きく見積もる人がいたら、Bになる。

他の人は20パーセントと申告しているのに、1人くらいは50パーセントと答える人も確かにいそうである。自信過剰というか自己アピールが激しいというか、押しが強い人が割といるのも事実だ。メンバーが5人いたら、そういう人が1人くらいは含まれていそうだとも思えてくる。

実際の正解もBになるのだが、「誰それさんはああいう性格だから」といった主観が入った説明ではなく、バイアスを考えることでこの問題は解決できる。

利用可能性バイアスの罠

この場合、回答に影響を及ぼすと考えられるのが、利用可能性バイアスである。

これは、記憶から呼び出すのが容易なもの(つまり利用可能性が高いもの)の方が、そうでないものに比べて実際に起こる確率が高く、発生件数が大きいと捉えてしまう、という思考の傾向のことだ。

私たちは、容易に手に入るものしか検討しない傾向にあるし、たとえ他の情報がまだ残っているにしても、すでに手元にあるものに不釣り合いなまでの重きを置きたがるのだ。

だが、次のことに注意しなければならない。すぐに利用可能なものが誤りではなく真理であるという保証はないのだ、と。

「自分を高く、他人を低く」見積もってしまう

自分がやった仕事なら、自分自身で経験したことだからすぐに思い出せるが、他の人の仕事については、たいていそうではない。利用可能性が高いのは、自分がした貢献の方になる。

そこでバイアスが働き、自分の貢献度を実際よりも大きく捉えてしまいがちになるのだ。それがメンバー全員に発生すると貢献度の合計は100パーセントを超えることになる。

自分の貢献度だけでなく、他の人の評価にも関わってくるのが、利用可能性バイアスの恐ろしいところだ。自分以外の人間のことを容易には思い出せないだけで、その人の貢献度まで低く見積もってしまう結果まで招いてしまう。

カップルがいっしょに生活するのも共同プロジェクトと言えるので、利用可能性バイアスがもたらす危機がしばしば生じる。

「自分は買い物や掃除や洗濯をこれだけやっているのに、相手は全然やってくれない!」という具合に不満がたまってくるわけだ。

この問題のような場合、各自の申告の合計が100パーセントを超えることを見せれば、貢献度を過剰に見積もる傾向は改善するとも言われている。

自分や他人を評価する前に、「利用可能性バイアス」について一度思い出すクセをつけてほしい。

(本稿は、植原亮著『遅考術――じっくりトコトン考え抜くための10のレッスン』を再構成したものです)

―――
『遅考術』には、情報を正しく認識し、答えを出すために必要な「ゆっくり考える」技術がつまっています。ぜひチェックしてみてください。

1978年埼玉県に生まれる。2008年東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。博士(学術、2011年)。現在、関西大学総合情報学部教授。専門は科学哲学だが、理論的な考察だけでなく、それを応用した教育実践や著述活動にも積極的に取り組んでいる。
主な著書に『思考力改善ドリル』(勁草書房、2020年)、『自然主義入門』(勁草書房、2017年)、『実在論と知識の自然化』(勁草書房、2013年)、『生命倫理と医療倫理 第3版』(共著、金芳堂、2014年)、『道徳の神経哲学』(共著、新曜社、2012年)、『脳神経科学リテラシー』(共著、勁草書房、2010年)、『脳神経倫理学の展望』(共著、勁草書房、2008年)など。訳書にT・クレイン『心の哲学』(勁草書房、2010年)、P・S・チャーチランド『脳がつくる倫理』(共訳、化学同人、2013年)などがある。

提供元:ダイヤモンド・オンライン

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