変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、6月29日発売)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)で、IGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏だ。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていく時代。これからは、組織に依存するのではなく、一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルにならざるを得ない。本連載では、そのために必要なマインド・スキル・働き方について、同書の中から抜粋してお届けする。
多様性なくして、新しい価値は生み出せない
世の中では多様性という言葉が大変もてはやされています。女性や外国人の役員を起用する企業が増え、多様性に関する書籍が売れ、多様化していない組織はダメな組織のように扱われてしまいます。
しかし、多様化した組織にはメリットだけでなくデメリットもあります。従って、例えば、形式的に社員の女性比率30%を目指すことや、外国人を毎年10人採用するといったように、トレンドだからと多様性を実現しようと付け焼刃の施策を打つことには違和感を覚えざるを得ません。
多様化した組織を構築すること自体は、多様化した社会に対応するための一般解の一つではありますが、自社に固有の課題を解決するうえでそれが本当に有効かは、きちんと検証する必要があります。
ただ、結論から話すと、チームとしてアジャイル仕事術を実現して成果を出すためには、多様性は必要不可欠です。年齢、性別、国籍、価値観などの多様性がないチームは変化に弱く、新しい価値を生み出すことを苦手とします。
平時に強い均質的なチーム、有事に強い多様性のあるチーム
20世紀には日本企業がモノづくりで世界一になりましたが、その成功を一番大きく支えた要素は多様化していない均質な組織だったと言えます。均一で品質の良いものを早く低コストでつくるには、バラつきは邪魔になります。
下図に均質的なチームと多様化したチームの特徴を整理していますが、均質的なチームは計画的にものごとを進めるのに適しています。できるだけトラブルの発生を排除して、全員で同じように行動することで誰よりも早くゴールにたどり着けます。
一方で、有事の際には多様性のあるチームが圧倒的に優位です。有事とは計画していなかったことが起きた場合ですが、均質的なチームは、このような事態に対処することには適していません。
例えば、皆さんの組織では2019年末に発生した新型コロナウィルス感染症に、どのように対処しましたか。
均質的なチームでは、リモートワークでいかにして職場での勤務を再現するかを考えたのではないでしょうか。これは極端な例ですが、会議室での会議を忠実に再現して上長が威厳を保てるように、ウェブ会議で表示される参加者の画像のサイズや表示順を職位に合わせた企業もあるそうです。
多様性のあるチームであれば、そもそも発言で威厳を保てない上長は会議に呼ばないという案や、生産性の低い会議自体をやめるという案が出るのではないでしょうか。
二強対立モデルを設計することで多様性のあるチームをつくる
では、どのようにして多様性のあるチームをつくるべきでしょうか。
多くの日本企業では、組織の多様化に向けて女性や外国人比率を増やしていますが、必ずしもうまくいっていません。外国人を増やしたらコミュニケーションが取りづらくなった、ミスが多発するようになった、といった意見を聞くことは多々あります。
解決するために社内の標準語を英語にしたら、会議で一部の人しか発言をしなくなったという声も聞きます。
一つの属性がマジョリティ(多数派)を占める組織において、多様性を高めようと別の属性を増やしたところで、マイノリティ(少数派)がマジョリティに吸収される結果になったりと、思うようには機能しません。
二者が対立する構図があって初めて、その他少数も多様化に貢献できるようになります。組織の多様性を高めるには、その二強対立モデルを意識的につくる必要があります。
分かりやすさのために敢えて国籍で表現すると、日本人とタイ人が二大勢力として存在しているような状態です。そうすることで、それ以外の国籍の人も強者に飲み込まれることなく、発言をして多様性に貢献することができるようになります。
二強対立モデルがつくれているかどうかは、会議で何かの提案をした際に建設的な反対意見が出るかどうかで判断することができます。
もし一切建設的な反対意見が出ないようであれば、二強対立モデルがつくれていないことになります。