大手時計メーカーの腕時計用金属ブレスレットのほとんどのシェアを誇り、好調な業績をあげ続けている「日本精密」。それを導いてきた岡林社長の人柄は、一言で言うと「陽気」。ダジャレを言っては部下を笑わせ、悩んでいても笑顔だけは忘れないという。しかしながら、ここまで来る道のりには、数々の苦労があった。

　岡林社長が最初に就職したのは、日本精密の前身企業。27歳のときに、その会社のマレーシア工場の立ち上げメンバーとして、異国へと赴任。そこへ襲った会社の非常事態にトップとして難局を乗り切ることに。

　「当時、まだ現地の社員の採用活動を始めて間もないような状態のなか、上司がいないという状況で工場運営をやるのは大変でした」。しかし、人の上に立つ者として、悩みや苦悩は決して他人に見せなかったという。“常に笑顔”が岡林社長のモットーだ。

　岡林社長の趣味は、将棋と囲碁。それが仕事の理論にも繋がっている。「将棋は局地戦、囲碁は将来のことを見据えて布石を打っていく力が養える」と言う。

　だが、それ以上に判断力、大胆さ、先を見通す力を学んだのは、やはり海外赴任だそう。次々に襲い掛かる“想定外”の出来事が鍛えてくれる。

　「マレーシアの次に香港に赴任しました。その辞令を受けたのがなんと前日。しかも夕方4時ぐらいに『明日行け』ですよ。冗談かと思うじゃないですか。無理だから明後日にしてくださいって言いました（笑）」。と言いながらも、会社のただならぬ状況を判断してすぐに動いたという。

　2000年代前半、日本精密は経営不振に陥った。赤字になれば銀行は融資を渋るようになり、取引先も発注が少なくなる。筆頭株主でもあった当時の社長は、経営に行き詰った末に自らが持つ株式を第三者に譲渡し、会社を去った。

　日本精密は、これを機に会社の支配権を巡る泥沼の戦いに突入。赤字に加えトラブルも抱えたため、さらに銀行や取引先からそっぽを向かれるという悪循環に陥った。まさにテレビドラマ「下町ロケット」で主人公が陥った苦境と同様の状況。この事態を乗り越えて、今の「日本精密」がある。

　日本精密が危機に瀕した際に、社長に就任したのが岡林社長。その理念は明確だった。「私が思う企業価値は、社員にいくらサラリーを払えるか。これに尽きます」。そして、「海外進出するうえで忘れてはいけないのが、その国とその人たちに貢献するという考え方。お金を搾取するといった考えを捨てなければ、相手に見破られて失敗する」。

　この2つの理念を明確に掲げたことで社員のモチベーションがあがり、業績回復への原動力となった。驚くことに、2010年からずっと、社員の給料は上がり続けている。

「上司とうまく付き合うには、毛嫌いせず観察すること」
　ストレスも伴う、会社の上司との関係。その上司も利用するという。「上司ということは、自分よりも上にいる人。必ず何かいいところがあるから出世したはず。10人いたら、10人それぞれのいい点だけをいただいて、悪い点は忘れればいい。嫌いだからといって学ばないことがいちばんもったいないです」

「考えごとをするときはお酒を飲む」
　逆効果な気もするが、岡林社長なりの理由がある。「お酒を飲むと、いつもとは違って大胆になるでしょう。発想も大胆になるんです。だから、考えごとをするときには、お酒を飲むといいんですよ」

「チャーミングであれ」
　チャーミングとは、欠点をある程度持っていることだという。「欠点を表に出すと、周りの人はとっつきやすくなります。完璧な人はだめですね。そもそも完璧な人はいないですし、そういう人は装っているだけです。そういうのが、いちばんダメですね。人に受け入れられにくいですから」

　これらはすべて、岡林社長が実践してきたこと。この考え方が社員を引きつけ、社員のモチベーションを高め、岡林社長への信頼感に繋がっている。

　とても穏やかで陽気な人柄にばかり目がいく岡林社長。しかし、それだけでは会社は立ち行かない。波に乗っている会社には、必ず独創的な考えを持ち、求心力のあるキーパーソンがいる。

【インフォメーション】
日本精密株式会社
住所：埼玉県川口市本町4-1-8 川口センタ−ビル8階
設立：昭和53年8月