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教師が抱える“孤独”「授業について語り合う場面がなかった」、150年続く旧態依然とした教育現場の異常

教育実習の現場で、実態を知って絶望したという教育実習生の声も

教育実習の現場で、実態を知って絶望したという教育実習生の声も

 昨今、「教師」という職業について、その労働環境が取り上げられることが多い。「部活動の顧問として土日も対応、休みがない」「遅くまで授業準備に追われる」「子ども・保護者への対応が大変」など…。これにより「教師」の担い手が不足、社会問題化もしている。果たして教育現場では何が起こっているのか。またこれを改善するにはどうすれば良いのか。500名の教師が集うオンラインサロン『授業てらす』の運営者であり、実際に教師経験もある星野達郎さんに教育現場の現在地を聞いた。

評価の基準は「合わせること」…同調圧力の強い日本で教育現場は同質化がより深刻

 昨今、やる気に満ちた教育実習生が実習期間を経て絶望する。以前のような意気込みがなくなり夢を諦めてしまう…というニュースが取り沙汰された。星野さんは「その気持ちは痛いほどわかる」と自身の経験を語る。

「教育実習に行ったとき、学生は先生が担う仕事量の多さに直面するんです。学生だった頃とはイメージが違う職員室の空気感…どんよりしていて、話しかけられないほど追い込まれている先生もいる。教師という職業自体、自己実現や自己決定の度合いが他の職種に比べて非常に低いことから、働いていてもその人が“こうなりたい”という姿を掴みにくいんです」(星野さん/以下同)

 例えば女性教師がママになったとする。子育てしながら教員の仕事も頑張りたいと思っても、午前8時15分から朝の会が始まる。しかし東京都などでは8時前に開いている幼稚園がない。企業であればフレックスなどもあるし、教育現場でも制度はあるのだが、それを使うと職場内での評価が下がり、陰口を叩かれるから誰も使えない。教員はその「同質性」が異常に高いことが問題だという。

 子育て世代が働きづらい職場の上に、この「同質性」はまた別の問題を生む。管理職やほかの先生と合わせることで評価されやすい文化なので、授業を良くしようと学んだことや新たなこと、改善策を実践すると「そのクラス、指導計画から外れたことをして何やってるの?」と非難される。年配や周囲に合わせるだけなので、自分がなぜ教師をやっているのか、その「意味」もやる気も見失ってしまう。合わせた人が評価される構造が、自己肯定感や満足・幸福度を低くしてしまう。

「また企業であれば、様々な業務を経験し、ステップアップもやろうと思えばできます。ですが教員は、教員になると教員しかできない、転職しづらい。キャリアを積み重ねていく、スキルを上げていくと努力しても結局一生、教員なのです。それも“合わせる”が評価の。普通の企業であれば、この目的を達成するためにチームで話したり意見をぶつけたりしますよね。

 教育の現場でも、もちろん月に一回ぐらい校内研修という形で研修があるのですが、それも形式的なもので、その市の教育委員会から“こういう授業をしてください”というマニュアルが出されるだけ。普通の企業のように業績を上げたかどうか、ではなく、そのマニュアル通りにやったかやってないかということで評価されることが多い。学習指導案、生徒の興味をひくフックを探し、補助プリントの作成、板書計画など業務量の多さもありますが、これでは働きがいを感じづらいのは当然です」

旧態然とした職場環境「多様性がないことは相当に異常だと感じます」

 そもそも教育現場の構造自体が異常だと星野さんは訴える。「他の企業は様々な働き方の形態があり、多様性がある。ですが学校というものは基本、始まる時間も、授業の時間割数も、全国の小中学校3万校すべて同じなんです。なぜ9時に登校する学校はないのか。なぜ5,6時間目をオンラインにする学校がないのか。なぜフレックスを導入する学校がないのだろうか。全国一律、同じことをしている。この時代にここまで多様性がないことは相当に異常だと感じます」

 これらは明治時代からほぼ変わっておらず約150年近く同じ状況が続いている。この取り残された旧態然とした職場環境から生まれたのが、教師の抱える「孤独」だ。

 「私も教師として現場に入って驚いたのですが、先生たちで“授業について語り合う”という場面がなかったのです。これは全国的にその傾向が強いようです。私は授業に限らず、どんな仕事も人生も、夫婦関係も、対話をしなければ物事は前に進んでいかないと考えています。その対話の場として私は、オンラインサロンというかたちで、先生同士がお互いの悩みや本音を話せる場所を作りました」

全国47都道府県から400名以上の小・中学校教員が利用する、オンライン研修プラットフォーム「授業てらす」。DMMオンラインサロンで展開され、教員同士が授業力を高めるための積極的な議論の場となっている

全国47都道府県から400名以上の小・中学校教員が利用する、オンライン研修プラットフォーム「授業てらす」。DMMオンラインサロンで展開され、教員同士が授業力を高めるための積極的な議論の場となっている

DMMオンラインサロン「授業てらす」 オフラインでの集まりの様子

DMMオンラインサロン「授業てらす」 オフラインでの集まりの様子

 「ただ知識を教えるだけならAIだっていい」と星野さんは話す。星野さんの持論では、そもそも「学ぶ」ということは、これまでの人類の叡智を知ることができるのだから楽しいはず。それを「楽しい」と感じさせるのがAIにはない教員の力、すなわち“授業力”である。

 「ところが先述したように、教員間では授業についての対話がない。例えば、プロ野球選手を目指す子どもでイチローさん、大谷翔平さんを見たことがない子ってほぼいないわけじゃないですか。好きなプロの選手を見て、真似、そこから学び成長していく。ですが教員は対話もないし、本当のプロの教師の授業を見ることもない。こうした孤独を埋めるためには、学校や地域のコミュニティ以外での対話の場が必要なんです」

大人や教師が「世の中をよくできる」と考えなければ、子どもにもネガティブなメッセージが伝播する

DMMオンラインサロン「授業てらす」代表 星野達郎氏

DMMオンラインサロン「授業てらす」代表 星野達郎氏

 実際に不登校の子どもが挙げる原因の一位が「先生」なのだという。これも構造的な問題であり、人間関係が小中高ずっと同じという現象がよく起こる。人間関係が固定化されてしまうとそこに合わない生徒は閉塞感を覚え逃げ道を失う。学校教育の現場が旧態然としているなか、教育の選択肢が一つしかない現状にも問題があると話す。

 ゆえにまずは教育現場、その構造を変えること、また対話を促進し授業力を高めることが重要なのだと星野さんは力説する。教育現場に関しては、その業務量や「合わせる」などでの評価、またステップアップの転職、子育て時の融通の利かなさが明るみになり、教師を目指す若者が減少している。また対話のなさの部分では、教育実習生が教師に相談することがためらわれる状況も生んでしまい、そこで挫折を感じる実習生もいるという。またベテラン、熟年の教師は教師で、今の時代、現代の子どもたちにどう接していいか分からず、悩んでしまうこともある。

 そして起こる教員不足、離職率の高さ…だがこれらすべて教師が固有の「孤独」から解き放たれ、「対話」が促進されれば改善の兆しが掴め、新たな担い手も現れてくるはずだ。

 「現在、国や社会を変えられると思うと答える中高生は18.3%しかいなくて、これはOECD最低の数字です。私は大人や教師でもそうだと思っていて、国、教師だったら学校を変えられると思っている教師はほぼいないと思うんです。教師がそう思えなければ絶対に子どもも社会は変えられないと感じてしまうはずで、だから教師自体が考えていなければならない。私はそれを最上目標にしています」

 星野さんにとって授業とは、子ども一人ひとりに「ハッピー」を約束すること。潜在的に持っている子どもの「ありたい姿」「なりたい姿」を約束すること。30人、40人いるそれぞれの子どもたちがそれぞれの「ハッピー」を引き出し、互いに尊重し合える環境にすること。それこそAIにはできない教師という人間の力、「授業力」であると考えている。

 子どもというのは我々が未来に届ける、生きたメッセージともいえる。我々は子どもたちにどんなメッセージを託せるのか。その根幹ともいえる教育現場の変革が鍵を握っている。

取材・文/衣輪晋一
星野達郎

PROFILE 星野達郎

DMMオンラインサロン『授業てらす』代表。不登校オンラインスクール『NIJINアカデミー』校長。元小学校教師の経験から、新しい教師のコミュニティづくり、子どもと先生が希望をもてる学校づくりをめざす。

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