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「『家を買ったら大丈夫』は今となっては違う」 限界ニュータウン 大手デベロッパー社員が現地の“住民”になることで実感した現実

 高度経済成長期に、大幅に造成されたニュータウン。しかし子ども世代が離れ、元いた住民が高齢化したことから、「限界ニュータウン」とも呼ばれるほどの過疎化が深刻化している。そんな中、大手住宅総合メーカーの大和ハウス工業では、郊外型住宅団地の「ネオポリス」を再耕(大和ハウス工業による造語)するべく取り組みを2014年より開始。実際に社員が現地に駐在し、住民と共存しながら再耕していく取り組みを行っている。現在、兵庫県三木市の緑が丘ネオポリス(緑が丘地区・青山地区)を担当している大曲一輔さん、吉村航一郎さんに、“住民”となったからこそ見えてきた郊外型住宅団地の課題と可能性を伺った。

高齢化が進む郊外型住宅団地 最重要課題は「住み継ぎ」のしくみを作ること

  • 1971年造成当時の緑が丘ネオポリス(画像提供:大和ハウス工業)

    1971年造成当時の緑が丘ネオポリス(画像提供:大和ハウス工業)

  • 現在の緑が丘ネオポリス(画像提供:大和ハウス工業)

    現在の緑が丘ネオポリス(画像提供:大和ハウス工業)

 大和ハウス工業の「ネオポリス」とは、郊外型の戸建住宅団地のこと。1969年から2005年の間に開発され、全国で61ヵ所ある。それらの規模は大小さまざまあるが、1971年にスタートした緑が丘ネオポリス(緑が丘地区・青山地区)は、当時5450区画と大規模なものだった。

 高度経済成長とベビーブームで人口が増え、働き先を求めて都市部へ人が集まり、それらに対応する形で誕生した緑が丘ネオポリス(緑が丘地区・青山地区)は、当時30〜40代の子育て世代を中心としたファミリー層を中心に、多くの人々が入居した。それから40年以上の歳月を経て、開発当初入居した住民たちは高齢化し、その子ども世代は独立。うまく代替わりができずにいます。それを再び耕し、機能するニュータウンに戻す目的で、「リブネスタウンプロジェクト」の取り組みがスタートした。

緑が丘ネオポリス地鎮祭の様子(画像提供:大和ハウス工業)

緑が丘ネオポリス地鎮祭の様子(画像提供:大和ハウス工業)

 まずは高齢者がコミュニティ内で住み続けることができる住宅を新たに提供し、それまで保有していた住宅を若い世代に住んでもらう。そうした「住み継ぎ」のしくみを創ることが一番の課題だと、大曲さんは主張する。

「お子さんがいなくなった高齢者のご夫婦は、2階の部屋を使わず1階だけで生活している方が多いです。つまり高齢者にとってのミスマッチが起こっているわけで、ちょうど良い大きさの家に住み変えてもらうことが大切。ただ40年そこに住まわれているので、全然知らない場所に行くのは抵抗があります。やはりご自分の知っている地域で、それまでのコミュニティを失わずに、新しい家に移り住むことが必要だと考えています」

 現在入居している“親世代”と“子ども世代”がうまく代替わりできなかったのには当時浸透していた“住宅すごろく”という考え方と時代の変化が大きく影響しているという。

「昔は、結婚してアパートに住んで一軒家を買ったらゴール。最後まで住み続けられるという“住宅すごろく”というような考え方があり、家で家族が看取ってくれるのが当たり前という時代背景があったので、『家されあれば大丈夫』という考えでした。しかし、今は、核家族化が進んでいます。独立した子どもたちが帰ってこなくなり、高齢者だけが残るという今の状態になることを当時は想定されていなかったです。

 当時の郊外型戸建住宅団地は、仕事が終わり寝に帰る場所としてベッドタウンとも言われていましたが、現在では共働きが主流となりライフスタイルも大きく変化しています。また、ネットスーパーや近郊の大型商業施設によって、団地内での店舗経営が難しくなり、個人商店が次々と撤退していきました。その結果、利便性が失われ、地域内で働く場所が少ないため、現在の子育て世代が(住宅団地に)戻らないことも課題観としてあります」

緑が丘ネオポリス造成当時のパンフレット(画像提供:大和ハウス工業)

緑が丘ネオポリス造成当時のパンフレット(画像提供:大和ハウス工業)

住民たちでクラウドソーシングチームを立ち上げ一般社団法人化 働く機会づくりもアシスト

緑が丘ネオポリスのコミュニティ施設「たかはしさんち」(画像提供:大和ハウス工業)

緑が丘ネオポリスのコミュニティ施設「たかはしさんち」(画像提供:大和ハウス工業)

 このような課題を踏まえて、2015年、ネオポリスの住民代表をはじめ、三木市、大学、企業などの20数団体が協力して「郊外型住宅団地ライフスタイル研究会」が設立された。「そこで将来の過疎化に直面しているネオポリスを再耕のアイデアを議論しながら、『リブネスタウンプロジェクト』として粛々と進めています」(大曲さん)という。ここで、現在行われている「リブネスタウンプロジェクト」の取り組みをいくつか紹介したい。

(1) 共有のコミュニティスペース
 緑が丘ネオポリス(緑が丘地区・青山地区)内に、元々茶道や生け花の教室として使われていた家屋をフルリノベーションした「たかはしさんち」をオープン。これは住民たちが”いつでも誰かとつながっている安心感”を得られる憩いの場として機能し、各種イベントにも利用されている。

「郊外ニュータウンは、田舎に比べると横のつながりは弱いもの。コロナの影響もあり、ご近所さんの家に上がって話す機会も減りました。そこで皆さんが気軽に立ち寄ることができて、ゆっくり話ができるような共有スペースを用意しました。私はプラットフォームと呼んでいます」(大曲さん)

(2)移動サービス
 ニュータウンの課題の一つに、以前は車で移動していたが、高齢になって免許証を返納したために生活を不安視する声もある。それについて、ネオポリス内の移動サービスも検討している。

「今はネットショッピングもありますが、やはり家から出ない状態になると健康面でも精神面でも良くありません。できるだけ外に出て自ら商品を選んで購入することは大事なこと。その意味でも、移動サービスは必要だと思います。たとえば30人くらいで車一台を共同所有して、ネオポリス内での移動だけでも何とかしようと。そのためには、どれぐらいの頻度で、どういう場所に買い物に行くか、などをヒアリング調査しています。『免許を手放さざるを得ない』のではなく、『免許を手放したくなる』ようなラストワンマイルを目指して取り組んでいます」(大曲さん)

(3)クラウドソーシングのチーム
 ネオポリス内は戸建住宅ばかりなので、「働きたくても、近くに働ける場所がない」のが実情。その課題解決のために、仕事の機会を提供する仕組みも用意している。

「子育てしながらご自宅で働けるようにと、緑が丘ネオポリス(緑が丘地区・青山地区)内でクラウドソーシングのチームを立ち上げて一般社団法人化しました。クラウドソーシングは、チームで組むと大きな仕事もとれます」(大曲さん)

当初は「家を売りに来たんだろう」声も…実際に社員が住民として関わることで築いていった関係性

全国で行われているリブネスタウンプロジェクト(画像提供:大和ハウス工業)

全国で行われているリブネスタウンプロジェクト(画像提供:大和ハウス工業)

 大曲さんは4年前、吉村さんは2年前から緑が丘ネオポリスに駐在し、リブネスタウン事業に従事してきた。いわゆる”まちづくり”のために来ているわけだが、当初は大和ハウス工業の社員ゆえに営利目的だと思われ、『家を売りに来たんだろう』と言われることもあったという。

「住民の方との関係を築くには、かなり時間がかかりました。自治会は1年ごとにメンバーが替わることが多いです。ただ自治会の役が終わってからも我々とつながってくれる方々や、我々が行う実証実験にモニターとして参加してくれたことからつながってくれる方々もいました。そうして少しずつ関係性が築かれていきました。今では、自治会トップの方と意見が衝突した時でも、『それは仕方がないよ』と我々の力になってくださる住民の方もたくさんいらっしゃいます。皆さんには『一緒にまちづくりをやろうとしている大和ハウス工業』と理解していただけるようになり、感謝してもらえることも。良い方向に進んでいると思います」(大曲さん)

 今のような関係を築けた要因としては、「普段から住民としっかりコミュニケーションをとってきたこと」が大きいと吉村さんは言う。

「週4日ほど『たかはしさんち』で皆さんとお話をしています。僕らは現地に住んでいるだけに、共通の話題があるんですよ。『あそこのスーパーは安い』『あのお店の肉は美味しい』とか。そういう雑談から入って、『2階も庭も使ってないから要らない』『こういう家に住み替えたい』などお住まいについて生の声を聞くこともあります。関係を深めていくにつれ、だんだん深い話ができるようになってきました」(吉村さん)

「それが“街の中に入っていく”ということなのかなと思います。たまに現地に来て、少し話をして、また東京や大阪に帰るという立場だと、なかなか今の関係性は築けていなかったかもしれません。実際にその土地に住んでみないと、分からないことも多いですから」(大曲さん)

こうした住民とのコミュニケーションを通して、新たな発見もあったという。

「秘めた特技をお持ちの方は、実はたくさんいらっしゃります。折り紙や書道が得意で、個展を開けるほど上手な方もいます。たとえば『たかはしさんち』のような場所を使って作品を発表すれば、その方の生きがいにもつながります。そうした活動を通して、住民の皆さんが人生を楽しく過ごせるきっかけになればと考えています」(吉村さん)

 今「リブネスタウンプロジェクト」を行っているネオポリスは、全国61ヵ所中8ヵ所。大和ハウス工業では、この8ヵ所に留まらず、さらに他の地域にも展開を予定している。

「その土地によってやり方はきっと違うと思いますが、いろんなところで蓄積されたノウハウを活かして、今後もリブネスタウンプロジェクトを広げていきたい。

 家を作って販売して完結、ということではなく、今後お客様に対して我々がやらなければならないのは、『大和ハウス工業の家に住んでよかった』から『大和ハウス工業が作ったまちに住んで良かった』と思ってもらえること。それが今の我々の目標です」(大曲さん)
(取材・文/水野幸則)

■ネオポリスサミット

2024年1月末に、全国8カ所のネオポリスにお住まいの住民の方が奈良に集まり、意見交換などを行う「ネオポリスサミット」が開催。住民の方同士の交流を通し、様々な発見や今後のまちの再耕に向けたヒントになればと考えています。

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