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出版業界は本当に斜陽? 本を“読む”ではなく“聴く”が若年層のスタイルに「このままいけば、電子書籍を猛追する可能性もある」
「ラジオやポッドキャストを聴くような感覚で」Z世代に人気に
通常、読書は、能動的行為であり、読み始めると、活字の世界だけに集中する必要がある。だがオーディオブックであれば、家事や育児をしながらの「ながら聞き」ができる上に、ジム、ジョギングなど他の趣味と並行して読書を楽しめる。通勤時の電車の中で本を開かずとも耳で本を聴くことができる。こういったことが現代人のライフスタイルにフィットした可能性がある。
また昨今は配信サービスの広がりにより、寝落ち配信のような「人の声を聴きながらリラックスする」という文化が若い世代を中心に根付いている。特に女性は広い世代で「人の声があると安心する」という声もあるようで、そういった層にも音声コンテンツは向いている。最近のラジオの盛り上がりもまた、オーディオブックの普及を加速させる一因にもなっている。
「特にZ世代はポッドキャストを聴くような感覚でオーディオブックを利用しているという実感があります。オーディオブックによって今までと違う読者にリーチできるのは良かった点です。紙の本が苦手という人こそ、利用してもらいたい」(同氏)
「4〜5年で出版界を支えるコンテンツにまで成長する」可能性も
「会話の多い小説で、さまざまなキャラクターを青木さんが演じ分けているのですが、レビューでは、『聴き終えてからナレーターが一人だと知った』という声もありました。オーディオブックはナレーターの技能により出来が大きく左右され、ある種独立した作品として楽しめます。そこが紙や電子の書籍との大きな違いですね」(同氏)
現在、同社では約200タイトルを配信。新刊からアガサ・クリスティなどの古典作品、ノンフィクションなど、ジャンルは多岐に渡る。
「当初は図の入ったノンフィクションは難しいと考えていましたが、アプリ上で図やグラフを閲覧できることもあり、結構聴いてる人がいることが分かりました。また、『三体』という全5冊からなる中国SFの超大作は聴いて理解するのは難しいかもと思いましたが、現在700件以上のレビューがつき星平均4.5と好評です。音声読書だからと、あまり制限しなくても大体のジャンルはオーディオブックにできるんじゃないかという実感があります」(同氏)
このように読書の楽しみ方が多様化してきているものの、「出版=不況、斜陽産業」という言葉が今も踊る。これに対し、山口氏は「不況という前提で、出版界を語られることが多い」と嘆く。
では実際のところはどうか。前出の出版科学研究所の調査によれば、出版業界の売り上げはピークとなった1996年までは上り坂一辺倒。だが消費税が3%から5%に増税した1997年は個人消費の低迷から初の前年割れとなり、以降、下降の一途をたどった。しかし、2014年に電子書籍の売上が伸び始める。コロナ禍が訪れた2020年には、電子出版を含めた推定販売金額は好転。電子書籍だけでも2020年には3931億円、2021年には4662億円となり、出版全体では1兆6742億円とV字回復している。
紙書籍についてもピーク時の1996年、1兆931億円にはとどかないものの2021年は6804億円と、2010年あたりまでのゆるやかな下降から一転、ほぼ横ばいだ。この背景には人口減少や紙代の急騰があるが、電子書籍やオーディオブックなどのデジタルが盛り上がってきていることが大きい。オーディオブックから紙の書籍を買うという流れも新たに生まれているため、書籍に関していえば、出版業界の未来は想像以上に明るいということが言える。
「“若者の読書離れ”とはよく言われますが、こうした風潮に楔を打つジャンルとなるかもしれません。オーディオブックの売上も4半期ごとに伸びています。古典推理小説、古典SFなど、過去の文豪の作品もそうですが、『紙では読みきれないけど音声なら聴けた』という声もいただいていますし、聴いていただければ文化的にとても豊かなこと。4〜5年で出版界を支えるコンテンツにまで成長するかもしれません。また、先だって芥川賞を受賞した『ハンチバック』の著者・市川沙央さんが提唱する読書のバリアフリー化にも寄与するはずです」(同氏)
出版業界の未来は明るそうだ。
(取材・文/衣輪晋一)