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(更新: ORICON NEWS

宮崎からドバイへ、世界20ヵ国で日本の高級椎茸が爆売れ「英語話せなくても売れる」理由とは

 宮崎県高千穂町の椎茸問屋「杉本商店」が販売する『干し椎茸』と『椎茸粉』(Shiitake Powder)が、米Amazonで世界的にヒットしている。同社は、日本の人口が減る一方で、将来的には世界の食糧が不足していくことに着目し、7年前に販路拡大を海外へとシフト。自らECに注力したところ、商品のストーリー性と栄養価を重視する海外の富裕層に大受けしているという。老舗の地方問屋が世界に挑戦する気概と可能性を杉本社長に聞いた。

ビジネスの根幹は“売ること”ではなく“買い続けること”「値下げは本末転倒」→海外へ

 1954年の創業以来、干し椎茸専門問屋として稼働している杉本商店。高千穂郷のクヌギの原木で自然栽培された椎茸を、生産者約600軒から「全部その場で、現金で買い取る」という方針を貫き、世に流通させている。

「そもそも僕たちのビジネスは、椎茸を“売る”ことじゃなくて椎茸を“買い続ける”こと。生産者さんが『あそこに持っていけば現金化できる』というシステムを最も重視しています。日本経済が縮小していく中で生き残るのは、誰かの役に立っている会社。『あそこがなくなったらまずい』と思われる強い存在であれば、簡単には潰れないだろうと考えています」
 そう語るのは、同社の代表取締役・杉本和英さん。杉本さんは大学卒業後、関東でサーフアパレルの営業やレディース靴の輸入販売などの仕事に従事していたが、2011年に帰郷し、家業の杉本商店を引き継いでいる。

 椎茸の国内需要は、1960年代の「しいたけ健康法」ブーム時にピークを迎えたが、その後は需要が減り続け、ダウントレンドの食品となっている。そんな国内市場の衰退を受け、2016年、杉本商店は海外市場を視野に入れ始めた。

「国内で他社より多く売ろうとすると、価格を下げるしかない。そうすると間違いなく生産者の意欲を削ぐことになり、本末転倒になります。我々は椎茸をより高く買ってくれる相手を探さないといけない。そこで海外に目を向けました。世界の人口は増え続けていて、将来必ず食べ物が足りなくなります。今後いかに自分たちの食料を安全に調達できるかというのは、国家戦略にもなっています。1960年代に日本で起こった『しいたけ健康法』ブームのようなことが他国でも起こり、椎茸の世界的な需要が出てくるだろうと考えました」

「日本の椎茸輸出は不可能」覆したのは“ストーリー”、唯一無二の『原木栽培』の価値

 かくして海外進出に乗り出した杉本商店だったが、そもそも日本産椎茸の輸出には前例がなかった。2016年当時、JETRO(日本貿易振興機構)のレポートにも「食文化の基盤が異なる欧米向けで、足掛かりが無く、圧倒的シェアを持つ低価格の中国産に対抗して、民間企業が個別に自生的に輸出マーケットを形成していくことは不可能といえる」と書かれていた。しかし杉本さんは、これを逆に“ビジネスチャンス”と捉えた。

「高千穂郷の椎茸は原木栽培で、うま味成分であるグアニル酸が多く含まれています。中国産の菌床栽培の椎茸とは、味も栄養価も全然違います。今、世界の人たちが品質の低い中国の椎茸を食べているのなら、その人たちにうちの椎茸を紹介できれば売りやすいと考えました」
 2017年、ある輸出向けの国内展示会に出展した杉本商店。そこで面白いことが起こった。

「関係者や地方行政の人たちが僕らのブースに足を止めて言うんです。『干し椎茸を輸出するんですか?もっと便利なものじゃないとダメじゃないですか?』って。でも、レトルトやインスタント食品ならどこでも作れるわけで、それだと価格の安さでしか戦えません。成長に15年要するクヌギの原木でしか作れない高千穂の椎茸なら、競争しなくても売れるはずだと思いました。いざ蓋を開けたら、3日間食事もできないくらいの大盛況になりました」
 その後、ドイツ・ベルリンでのBtoCイベントに参加。そこで、さらに高千穂産椎茸の可能性を確信した。ヴィーガンやベジタリアンの人々が次々に、値段を問わず購入を求めてきたのだ。椎茸は、彼らが食べられる食材の中でも数少ない、うま味と食感を同時に兼ね備えた食材だった。健康や地球環境に関心の高い彼らは、そのうま味だけではなく、生産背景にも強い興味を示した。

「『以前食べた乾燥椎茸と全然違うが、なぜ?』と聞かれて中国産との違いを説明すると、僕らの椎茸の商品価値がぐっと上がるんです。それまで僕らは海外向けのパッケージを考えて作っていましたが、結果的には入れ物なんてどうでもよかった。それよりも『この商品は、どんな人たちが、どうやって作っているのか』というストーリーの方が重要なんです。世界を目指す上で、これはすごく大事なことだとわかりました」

米Amazonで爆売れ、逆輸入的に国内需要も拡大 地元生産者のモチベーション向上も

 実際、米Amazonのサイトで『干し椎茸』と『椎茸粉』の販売を開始すると、独りでに“ストーリー”が広まっていった。

「干し椎茸のようなニッチなものを見つけた人はうれしくなって、『こんなに面白いものを見つけた』ってレビューを書いてくれるんですよね。それを見て買ってくれる人もいて、自然と拡散されています。特に『椎茸粉』は、これまでの購買層でなかった人たちにもリーチできたので大きかった。僕らは『椎茸をそのまま食べてほしい』とはこれっぽっちも思ってなくて、姿かたちを変えても、結果的に椎茸を消費してもらえればいいんです」

 現在では毎日注文が入り、右肩上がりで売上を伸ばし続けている。ユーザーの年齢層で言うと、日本国内では70〜80代と高いが、アメリカでは30〜50代と若干低めで幅広い。米Amazonでの実績を元に、輸出国は20ヵ国にまで拡大した。海外での売上は全体の10%にまで増え、今後もその比率は高まっていく見込みだ。それにより、国内需要の喚起も逆輸入的に期待できそうだ。

「今さら日本人に『干し椎茸を食べましょう』とアピールしても響かないでしょうが、『海外でバズってる』と聞くと、日本でも少しは盛り返すと思います。実際、米Amazonでのヒットを受けて、国内のEC注文が急増しています」
 また、海外での反響は、深刻な高齢化が進む高千穂の生産者たちのモチベーション向上にも繋がっている。

「うちに来る生産者さんが『椎茸の(国内)需要が少なくなっているのに、こんなにたくさん買ってどうするんだ?』って聞くんです。『アメリカやヨーロッパに送っています』と答えると、目を輝かせてめちゃくちゃ喜んでくれました。『そうか。俺が作った椎茸が海を渡ったか』と。自分たちが山の中で細々と作ったものが海を渡り、外国の人たちが食べておいしいと言ってくれる…生産者さん達にとって、すごく大きな出来事だったようです」
 最近ではドバイにも販路を広げている杉本さんが、次なる商談先に狙うのはインドだ。年内には、Amazonインディアにて椎茸の販売を予定しているという。

「インドの食材にはうま味が足りていない物が多く、人々は辛い料理をたくさん食べることでお腹を満たしています。インドでは今、急速に糖尿病や高血圧患者が増えていて、こうした課題に、日本の干し椎茸はすごく力を発揮すると思います。すぐには売れないでしょうが、5〜6年ほどかけて取り組んでいきたいと思います」

「何度も心が折れそうに」英語力、海外経験ほぼゼロだった地方問屋社長が明かす成功の秘訣

 現在では年間の3分の1は世界を飛び回っているという杉本さんだが、元々英語が堪能だったのかと尋ねると、「全くダメです」との回答。多忙な中、週2回はオンラインの英会話スクールで勉強中だそうだ。

「商談で聞かれることは『この椎茸はどうやって作るんだ?』『何が違うんだ?』と大体決まっています。なので、その単語だけを把握しておけば、あとは何とかなるんです。『シュークリームって、どうやって作るの?』って聞かれたら全然答えられませんけどね(笑)」
 社員25名の高千穂の椎茸問屋が、アメリカ、ドバイ、インドへ。順風満帆なサクセスストーリーに聞こえるが、杉本さんは、英語力も海外経験もほぼゼロのところから、これまでの道のりは決して平坦ではなかったと振り返る。

「最初の3年間くらいは何にもならなかった。毎年売上は微増していたものの、それに対する費用がもっとかかっていましたから。『どうしよう。このままだと赤字で潰れてしまう』と何度も心が折れそうになりました」 それでも杉本さんが成功を掴んだ理由は、「できない理由を考えなかったから」だという。
「僕らは輸出金額が年間1000万円を超えるまで、日本郵政のEMS(国際スピード郵便)で輸出していました。流通会社や仲介企業に全く相手にされず、ノウハウも何もない中、何か輸出できる方法はないかと模索した結果、この方法に気づきました。でも残念なことに、全体の8割くらいの人は『為替が心配だから』『お金をもらえなかったら困るから』と考えてやめちゃう。そこで『本当に諦めなきゃいけないのか?』と立ち止まって考え、知恵を絞り、情報を集めないと前に進みません。『よくわからないから、やめとこう』ではなく、わからなければ誰かに聞けばいいんです。それさえできれば、絶対前に進みますから」

 できない理由を考えない――。杉本社長の言葉は、説得力を以て胸に響いた。日本経済が窮地を迎える中、会社の規模や知名度などは関係なく、それこそがどの企業にも当てはまる成功の秘訣なのかもしれない。
杉本商店公式HP(外部サイト)
(取材・文=水野幸則)

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