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ORICON NEWS
宮崎からドバイへ、世界20ヵ国で日本の高級椎茸が爆売れ「英語話せなくても売れる」理由とは
ビジネスの根幹は“売ること”ではなく“買い続けること”「値下げは本末転倒」→海外へ
「そもそも僕たちのビジネスは、椎茸を“売る”ことじゃなくて椎茸を“買い続ける”こと。生産者さんが『あそこに持っていけば現金化できる』というシステムを最も重視しています。日本経済が縮小していく中で生き残るのは、誰かの役に立っている会社。『あそこがなくなったらまずい』と思われる強い存在であれば、簡単には潰れないだろうと考えています」
椎茸の国内需要は、1960年代の「しいたけ健康法」ブーム時にピークを迎えたが、その後は需要が減り続け、ダウントレンドの食品となっている。そんな国内市場の衰退を受け、2016年、杉本商店は海外市場を視野に入れ始めた。
「国内で他社より多く売ろうとすると、価格を下げるしかない。そうすると間違いなく生産者の意欲を削ぐことになり、本末転倒になります。我々は椎茸をより高く買ってくれる相手を探さないといけない。そこで海外に目を向けました。世界の人口は増え続けていて、将来必ず食べ物が足りなくなります。今後いかに自分たちの食料を安全に調達できるかというのは、国家戦略にもなっています。1960年代に日本で起こった『しいたけ健康法』ブームのようなことが他国でも起こり、椎茸の世界的な需要が出てくるだろうと考えました」
「日本の椎茸輸出は不可能」覆したのは“ストーリー”、唯一無二の『原木栽培』の価値
「高千穂郷の椎茸は原木栽培で、うま味成分であるグアニル酸が多く含まれています。中国産の菌床栽培の椎茸とは、味も栄養価も全然違います。今、世界の人たちが品質の低い中国の椎茸を食べているのなら、その人たちにうちの椎茸を紹介できれば売りやすいと考えました」
「関係者や地方行政の人たちが僕らのブースに足を止めて言うんです。『干し椎茸を輸出するんですか?もっと便利なものじゃないとダメじゃないですか?』って。でも、レトルトやインスタント食品ならどこでも作れるわけで、それだと価格の安さでしか戦えません。成長に15年要するクヌギの原木でしか作れない高千穂の椎茸なら、競争しなくても売れるはずだと思いました。いざ蓋を開けたら、3日間食事もできないくらいの大盛況になりました」
「『以前食べた乾燥椎茸と全然違うが、なぜ?』と聞かれて中国産との違いを説明すると、僕らの椎茸の商品価値がぐっと上がるんです。それまで僕らは海外向けのパッケージを考えて作っていましたが、結果的には入れ物なんてどうでもよかった。それよりも『この商品は、どんな人たちが、どうやって作っているのか』というストーリーの方が重要なんです。世界を目指す上で、これはすごく大事なことだとわかりました」
米Amazonで爆売れ、逆輸入的に国内需要も拡大 地元生産者のモチベーション向上も
「干し椎茸のようなニッチなものを見つけた人はうれしくなって、『こんなに面白いものを見つけた』ってレビューを書いてくれるんですよね。それを見て買ってくれる人もいて、自然と拡散されています。特に『椎茸粉』は、これまでの購買層でなかった人たちにもリーチできたので大きかった。僕らは『椎茸をそのまま食べてほしい』とはこれっぽっちも思ってなくて、姿かたちを変えても、結果的に椎茸を消費してもらえればいいんです」
現在では毎日注文が入り、右肩上がりで売上を伸ばし続けている。ユーザーの年齢層で言うと、日本国内では70〜80代と高いが、アメリカでは30〜50代と若干低めで幅広い。米Amazonでの実績を元に、輸出国は20ヵ国にまで拡大した。海外での売上は全体の10%にまで増え、今後もその比率は高まっていく見込みだ。それにより、国内需要の喚起も逆輸入的に期待できそうだ。
「今さら日本人に『干し椎茸を食べましょう』とアピールしても響かないでしょうが、『海外でバズってる』と聞くと、日本でも少しは盛り返すと思います。実際、米Amazonでのヒットを受けて、国内のEC注文が急増しています」
「うちに来る生産者さんが『椎茸の(国内)需要が少なくなっているのに、こんなにたくさん買ってどうするんだ?』って聞くんです。『アメリカやヨーロッパに送っています』と答えると、目を輝かせてめちゃくちゃ喜んでくれました。『そうか。俺が作った椎茸が海を渡ったか』と。自分たちが山の中で細々と作ったものが海を渡り、外国の人たちが食べておいしいと言ってくれる…生産者さん達にとって、すごく大きな出来事だったようです」
「インドの食材にはうま味が足りていない物が多く、人々は辛い料理をたくさん食べることでお腹を満たしています。インドでは今、急速に糖尿病や高血圧患者が増えていて、こうした課題に、日本の干し椎茸はすごく力を発揮すると思います。すぐには売れないでしょうが、5〜6年ほどかけて取り組んでいきたいと思います」
「何度も心が折れそうに」英語力、海外経験ほぼゼロだった地方問屋社長が明かす成功の秘訣
「商談で聞かれることは『この椎茸はどうやって作るんだ?』『何が違うんだ?』と大体決まっています。なので、その単語だけを把握しておけば、あとは何とかなるんです。『シュークリームって、どうやって作るの?』って聞かれたら全然答えられませんけどね(笑)」
「最初の3年間くらいは何にもならなかった。毎年売上は微増していたものの、それに対する費用がもっとかかっていましたから。『どうしよう。このままだと赤字で潰れてしまう』と何度も心が折れそうになりました」 それでも杉本さんが成功を掴んだ理由は、「できない理由を考えなかったから」だという。
できない理由を考えない――。杉本社長の言葉は、説得力を以て胸に響いた。日本経済が窮地を迎える中、会社の規模や知名度などは関係なく、それこそがどの企業にも当てはまる成功の秘訣なのかもしれない。
杉本商店公式HP(外部サイト)