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芥川賞候補・鈴木涼美、異色の経歴や愛煙家へのレッテルと現実「世界は自分の快感だけで構成されていない」

鈴木涼美

『芥川賞候補』の意外な反響、AV・夜職の経験者から熱いメッセージ

  • 鈴木涼美

 「世界は自分が快感だと思うものだけで構成されているわけではない」という思いは、冒頭で触れた、鈴木さんの経歴に対する偏見・レッテルへの考えにも通じている。

 「私自身も新聞記者でしたから、取材記者が時に人の書かれたくないこと、不快に思うことを書かねばならないのはよくわかりますし、人生は自分のコントロールがきかない予想外のことによって流れていくものなのだとも思います。私の執筆テーマと大きく関わる経歴なので、単純に後悔しているとか誇りに思っているとか言うのは難しく、程よく恥じ、程よく払拭しようとしているといったところでしょうか」

 自身の見られ方についても客観的に眺めているが、ゴシップ紙などの取り上げ方には疑問も生まれている。

 「何もしなければ取り上げられることはないし、人が関連付けやすい場所に留まっていればわざわざ過去の経歴をことさら強調されることはあまりないでしょうが、ほかの分野で何か目立ったことをすれば逆にクローズアップされるのが経歴というものの特徴です。払拭するというのは実際はとても難しいですね。フリーになった直後は本をまず知ってもらうために執筆以外のオファーもなるべく受けなければと思っていましたが、信頼できる友人に頼まれない限りはテレビなどのメディアに出ないと決めてからはゴシップ紙などの記事もあまり気にならなくなりました。もともとコメンテーターのような仕事には興味も適正も全くないので」

 そんな鈴木さんは、今回の芥川賞候補の反響は「あまり感じていない」というが、新たな気づきもあったようだ。

 「これまで候補になった作家はたくさんいます。それぞれにいろいろな過去や経験があるものだと思います。ただ、以前から読者でいてくださる方だけでなく、私のことを初めて知ったAVや夜職の経験者や現役の子からはとても熱のこもったメッセージをいただきました。似たような肩書や経歴を持っている女性の中には嫌な思いをした子もいるだろうし、一生逃れられないんじゃないかという恐怖心がある人もいるのだと思います。かつて私は何かの代表のように扱われたり、過剰な『意味』を背負わされることを忌避していたところがあるのですが、私が幸福そうにしていることでその子たちが『生きていれば尊重される未来もあるかもしれない』と希望を持ってくれるのだとしたら、意外と『芥川賞候補』にも重みがあるのかなと感じています。もちろん嫌がらせや心無い記事もありますが、『世界は自分が快感だと思うものだけで構成されているわけではない』ということを1人1人が受け入れないと、みんな生きづらくなるんじゃないですかね」

 生きていれば、誰もがスネに1つや2つの傷を持つ。その傷を舐め合うことで生まれる連帯に、鈴木さんは希望を見出している。

 「いろんなつながりが希薄になっている世の中で、マイノリティー同士だからこそ仲が深まることはあるし、悪いことばかりじゃない。批判されがちな“女性喫煙者”としても、それは感じますね」

 元セクシー女優を強調する一部のメディアや喫煙者であること、それに伴うレッテル貼りも、「人生は自分の思い通りにいかないこともある」「世の中には自分が不快だと感じるものも存在する」という現実として受け止めている鈴木さん。

 「それに対して怒りをぶつけるよりは、イヤなものからは程よく距離を取ったり、あるいはイヤなものが降りかかってきた状態から人生を歩み出すほうが、自分には向いてるなと思いますね」

 自分にとって不快なものを歓迎するのは難しい。それでも、少なくとも存在することだけでも受け入れる。それが真の多様性が認められる社会の一歩なのかもしれない。

(写真:逢坂 聡 文:児玉澄子)

■鈴木涼美
『ギフテッド』
文藝春秋 刊
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