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“結婚に夢が見られない”令和の恋愛マンガ、原作者明かすリアルとのバランス「今はソワソワ感より安心感が求められる」

 結婚に対する意識が過去とは大きく変わるなか、「婚活」というワードもすっかり定着した。とはいえ、これによって、より恋愛と結婚の間のミゾが明確化したようにも見える。女性向けの恋愛マンガにもそれは影響しており、昨今では結婚の描かれ方も様々。結婚に夢を見ない女性が主人公のマンガ原作を務める「さやわか」さんは、これまで多くのカルチャーを考察し、執筆活動を行ってきた物語評論家。さやわかさんに、現在の結婚をめぐる物語や、描かれ方の変化について聞いた。
永守くんが一途すぎて困る/原作:さやわか 漫画:ふみふみこ(外部サイト)
◇『LINEマンガ』にて毎週月曜更新で連載中

過去のトラウマから、恋愛に対して後ろ向きな主人公・三崎優花(25)。 ”恋愛で幸せになろうと思っていない”という彼女の前に、トラウマを植え付けた本人・永守一途が現れて…。

■漫画はコチラから(外部サイト)

打算的で確実性を求める“婚活”、マンガで「幸せな夢を作っていくしかない」

 さやわかさんが原作を務めるマンガ『永守くんが一途すぎて困る。』(LINEマンガ)は、過去のトラウマから恋愛に対して後ろ向きな女性が主人公。「恋愛で幸せになろうと思っていない」と発言し、結婚についても期待を抱いていない。そんな彼女のもとにトラウマを植え付けた男性が現れるが、彼は今を時めくスター俳優となっている――という内容だ。現代を象徴するような、恋愛や結婚に夢を見ない女性を主人公に据えながら、スターとの恋愛というファンタジー要素が軸となる。原作者である物語評論家は、ここに何を込めたのか。

――主人公・三崎優花は、「運命の相手とか求めてない」「結婚ってどれだけ相手に妥協できるか」と発言しています。そのように、恋愛・結婚に夢を見ない女性を主人公にしたのは?

 「たとえば“婚活”は、今やブームというのでもなく、ごく一般的に知られる言葉になりましたよね。その“活動”という言葉には(語源になった“就活”がそうだったわけですが)、幸せな将来にぐいぐい進んでいけるー!みたいな夢みたいな気持ちだけでなく、打算的だったり、確実さを求めたりしながら、しっかりやっていきましょうね、みたいなニュアンスがあると思います。つまり今の時代は結婚に昔ほど夢は見られない。それを強く実感しているような、ある意味“現実的”な主人公が、夢みたいな恋愛に巻き込まれたらどうなるか?というのを描こうと思いました」

――そういった女性の考えや世間の風潮に、なにか思うところはありますか? また、だからこそマンガで伝えられることは?

 「もし現実の女性たちがそういう考え方になるとしたら、僕なら単純に『夢を見せてくれない現実が、社会が悪い』と感じると思います。しかし、社会はそんな簡単に変わってくれません。マンガの中に、そういう感じ方をするような登場人物にも、ポジティブな変化が起こるという幸せな夢を作っていくしかないなと思います。けど、それを読んだ皆さんの考え方も少し変化して、その結果、身の回りの現実もちょっとだけ変わるかもしれません。作者からは手の届かない出来事ですが、そうなったらいいですね」

ファンタジーに見出すリアル、現代の恋愛マンガに求められるのは「ソワソワより安心感」

――一方で、スターと一般女性との恋愛というと、やはりファンタジーのように思えます。リアリティをもって届ける工夫は?

 「ドラマ『愛の不時着』などに出てくるゴージャスな恋愛って、やっぱり夢がありますよね。マンガだと神尾葉子さんの『花より男子』(集英社)みたいな作品も、ありえないような富豪が出てくるからこそ面白い、というところはあると思います。そういう作品って、まずは“お金持ちと庶民”のギャップが生まれるから面白いんですよね。『永守くんが一途すぎて困る。』の場合は、平凡な女子が超高級車に乗せてもらう、みたいな“いかにも”というギャップも盛り込みつつ、お金持ち男子が主人公の高校時代のジャージをパジャマ代わりに着せてもらうように、『本当に二人が付き合ったらこういうことが起きそうだな』という、生活感のあるギャップ描写を入れて、そこでリアルさをちょっと出そうとしています」

――なるほど、この設定だからこそ描けるリアリティもあるのですね。

 「あと、そのギャップが二人の価値観のすれ違いみたいなものに結びつくので、この現代に恋愛と結婚がなかなかうまくいかないという、リアルなテーマにも向かっていけると思っています」

――さやわかさんは、物語評論家としてこれまで様々なカルチャーを取り上げています。広い視点から見ると、最近の恋愛マンガの傾向はどう思えますか?

 「基本、“主役二人はラブラブ”というタイプの作品が、もう長いこと定着している気がします。そのほうが読者としては安心感があるんだと思います。なんとなく気持ちはわかるのですが、昔に比べて今の読者は、二人がくっつくのかどうか、宙ぶらりんな気持ちでソワソワしながら読みたくないんですよね。だから二人がイチャイチャしたりラブラブだったりするのは前提でありつつ、読み応えを作るためにそれぞれの作品がいろんな工夫をするようになりましたね」

恋愛のトラウマ抱えた女性とスターが秘めた葛藤、欠落を補い合うキャラに

――では、主人公・三崎優花のキャラクター設定について教えてください。中学時代の恋愛のトラウマを引きずる、25歳の女性です。

 「優花は、ひねたところのないまっすぐな性格で、しっかりした正義感や優しさがある人です。だからこそ、中学時代に永守くんに『結婚を前提に付き合ってください』と言ってしまって、周りの人からイタい奴扱いされて恋愛がトラウマになってしまったんですね。その影響で、彼女は恋愛における人との距離感がいまだによくわかっていないんだと思います。だから過去の恋愛遍歴を見ると、彼女のほがらかさからすると信じられないようなダメ男ばかりと付き合っていたりする」

――なるほど。

 「けれど、根がまじめで勇気のある女性なので、きっと永守くんと困難を乗り越えて幸せになれると思っています。僕もひとりで創作をしていたらなかなか書かないタイプの主人公なのですが、彼女が恋愛マンガの主人公らしく、生き生きとしてがんばり屋さんな人物像になったことはうれしく思っています」

――トラウマを植え付けた張本人である永守くんは、お金持ちで完璧なスターなのに、どこかズレています。

 「一対となる主役なので、優花と永守くんは、お互いの欠落したところを補い合えるキャラクターとして考えました。そうだからこそ、二人は互いを求め合うことになるわけですし。永守くんは恋愛に限らず、そもそも人の心にうまくピンと来れないところがあるんですね。いい人ではあるんですが。そうなってしまったことにも原因があって、それは作中でおいおい語られていきます」

――浮世離れしたキャラに思えましたが、彼の中にも多くの人に通じる葛藤があるのですね。

 「高スペック男子なせいもあって、そんな彼の性格のおかしさが、誰からも放置されてきてしまった感があります。彼自身はそれに半ば気づいていて、当たり前の感情、当たり前の愛情、普通の幸せみたいなものを得たいと思っている。だからこそ、中学時代に自分のことをまっすぐに好きだと言ってくれた優花のことが忘れられなかったわけです」

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