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発達障害をアートに昇華…人の心を動かす“葉っぱ切り絵”「会社員では欠点だった部分が、アーティストとしての強みになった」
会社員を経験するも“失敗ばかりのダメ社員” 発達障害と診断され、「肩の荷が下りた」
リト 一番多く言われたのは「話を聞いていない」です。周りが手伝ってほしくても、自分の作業に没頭しすぎて気づかない。あとは、「段取りが悪い」。今日中にやらなきゃいけないことと、明日でもいいことの区別がつかず、「先にこっちをやって」と、人に言われるまで気づかない。自分なりに真面目に一生懸命にやっているつもりだったのですが。
――その時に言われて強く残っていることはありますか?
リト 会社員を3社経験しているんですが、3社目で「あなたはどうしたら仕事がしやすくなるの? 合わせるから」と言われたことです。その時は、自分でもどうしてこんなに仕事ができないのかまったくわからなくて、答えられませんでした。
――その頃の自分を、リトさん自身はどのように評価していましたか?
リト なんて自分はダメなんだろう、と思いました。「真面目系クズ」という言葉をネットで見かけて、まさに自分のことだと思いました。一生懸命仕事をしているのに、迷惑をかけるばかりで役に立たず、世の中に存在価値がないとまで思いました。
――ADHDと診断された時の、正直な気持ちを教えていただけますでしょうか。
リト 「肩の荷がスーッと下りた」というのが一番正直な気持ちです。がんばってもできないのは、自分のせいじゃなかったとわかって、解決の糸口が見つかったような、解放されたような気持ちでした。
これまでとは別の生き方を模索して8ヵ月目、アーティストとしての糸口を発見
リト 直接的なきっかけではないですね。会社はやめたけれど、就職したらまた同じ問題にぶつかると思って悩んでいました。ハローワークに行ってみたけれど、自分の経歴や通勤できる場所や障害者という条件を入れるとたった3件。自分の人生は3択なのかと、SNSを始めたんです。
――どんなことを発信していたのでしょうか?
リト 最初は発達障害のことを発信していました。でも思ったような反響はなかったですね。食べていける仕事を模索してSNSを始めたので、いろんなことをやってみようと思い、徐々にイラストや粘土の絵付けなどの作品を発表するようになりました。あるとき、そういった作品の一環で葉っぱ切り絵を投稿したところ、今までにない反響があったんです。
――葉っぱ切り絵に手応えを感じたのはいつごろからでしょうか。
リト ほぼ毎日葉っぱ切り絵を投稿し始めて8ヵ月目に投稿した『エルマーの冒険』に、14万いいねが付いた時です。自分がやっていることに対する自信がわきました。
――現在SNSのフォロワーは40万人超、本の出版、作品展など、活躍の場も増えていますね。葉っぱ切り絵が“お仕事”となったのはいつ頃のことでしょうか?
リト 制作を始めたのが2020年1月で、初めての個展が、2021年1月開催に博多阪急さんにて行われました。このときにおそるおそる5万円から7万円の値段を付けた作品が17点も売れたんです。「これで食べていける」と思いました。
――出版された作品集『いつでも君のそばにいる』は10万部を突破したとのことですね。出版にあたって作品集にこめたこだわりを教えてください。
リト 普段のSNSの投稿では、作品にはタイトルしかつけていないのですが、作品集にまとめるにあたって一つ一つの作品にショートストーリーを書き下ろしたんです。とてもこだわって作ったので、手に取っていただけたら嬉しいです。
――自身の特性が、お仕事になっていく喜びをどのように感じていますか?
リト これまで人にほめられる、認められる、という経験がなかったので、人生で初めて世の中の役に立っていると実感できて嬉しいです。「毎日必ず作品を見てから寝ています」、「自分の子どもがADHDなのですが、リトさんを見ていて希望が湧いてきました」といったメッセージをいただくようになって、自分の活動がプラスに働いている実感を得られるようになり、毎日充実しています。
自分の特性を理解することで、欠点すらも強みになる
リト イベントに来ていただくことも多いので、直接お話しするようにしています。それと、福祉施設・公共施設に作品を1点だけお貸し出しさせていただくミニミニ展示企画を行っているんです。可能なときはできるだけ直接訪ねて、施設にいらっしゃる方とお話しする機会を作るようにしています。
――有言実行されているんですね。強みだけではなく、弱みも理解することでリトさんが躍進されたと思うのですが、弱みについては目をつぶってしまうという方も一定数いると思います。それを認めるコツというか、アドバイスなどありましたら教えてください。
リト 「得意なことはなんですか?」と聞かれても答えるのは難しいですよね。でもコンプレックスについての質問には答えられる方が多いんです。僕も会社員でいる間、「ひとつのことに集中しすぎて周りが見えなくなってしまう」が、ずっと欠点でした。活動する場所を変えたことで強みになった。弱みを理解し、認めることは、悪いことばかりじゃないと知っていただきたいですね。
――同じ障害で悩んでいる人や、そういうお子さんを持つ親に向けてメッセージがあればお願いします。
リト 「子どもの将来が不安」を思う方が多いけれど、将来よりもまずは今。人と比べてダメなところばかり見ずに、どんなことに興味を持っているか、子どもが楽しむ経験をできているかを見てあげることこそ大事だと思います。実際に僕も、子どもの頃、遊園地に連れて行ってもらった記憶や友達と遊んだ記憶が今の創作の源泉になっています。
――発想の転換ですね。
リト はい。「私なんて才能ない」ってみんな言うけれど、僕だってずっとそう思っていました。もともと美術が得意だったわけでもないし、アートの教育を受けたわけでもありません。他の人や状況、環境を責めても仕方がない。「変えるのは自分しかない」と思って行動した時に、自分の人生を動かせたんです。これからもその姿を見せ続けていきたいと思っています。
information
「いつでも君のそばにいる
小さなちいさな優しい世界」
著:リト@葉っぱ切り絵
落ち込んいるとき。心がモヤモヤするとき。さみしいとき。
1枚1枚が絵本作品のような葉っぱ切り絵作品集は、ページをめくるたびに、そこに自分だけの物語を見つけられるはず。
89作品収録。SNS投稿時はタイトルだけだった作品にもすべて、ストーリーを書き下ろし。
リト流・葉っぱ切り絵のメソッドも収録している。
詳細はこちら(外部サイト)
アーティスト:リト@葉っぱ切り絵
Instagram:@lito_leafart(外部サイト)
twitter:@lito_leafart(外部サイト)