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『はじめてのおつかい』も変化が必要? 多様化する育児環境のなか、“1人でのおつかい”を啓発すべきか否かが争点に
元になった絵本版『はじめてのおつかい』は出版から45年前、多くの癒しと感動を提供
そしてこれが大ヒット。生まれて初めて一人で「おつかい」に挑戦する子どもたちの奮闘ぶりを、ドキュメンタリータッチで描く番組で、視聴者はけなげな子どもの姿に手に汗を握る。今でも「癒される」「毎回泣ける番組」「小さい子どもが頑張っているところを見るとほっこりする」といった意見が多く挙がっており、毎年のように新作が放送される人気長寿番組となった。
自立していく子どもを見つめる親の感情、近隣住民の優しさなど、人の温かみを伝えるコンテンツとして機能している面は大きく、ゆえに30年以上続いてきた番組になったといえる。ただ現状では、“温かさ”よりも“不安”の方が勝ってしまっている視聴者が多くなっていることも否めない。
「多様化する育児環境で“子どもが涙を流しながら頑張る”ことが美化されないことも多く、たまに見られる子どもに言い聞かせるように話すさまは、過度な表現ではなかったとしても“虐待”のようにとらえられる可能性もある」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「さらにはSNSの発達によって、それらが原因で、親だけでなく、子どもに批判が及ぶことも想定できるというのが昨今の大きな問題です」(同氏)
子どもの自立心向上を促す一方、人の温かさよりも“不安”の方が勝ってしまう切ない現状
「昭和の時代、“子どもは怪我をするもの”という考え方は、SNSを見渡す限り今はほぼ絶滅しています。“物騒な世の中”という言葉もよく見られるキーワード。ですが実際、警察白書に目をやると、13歳未満の犯罪などによる総被害者件数は横ばい。わいせつ、またはわいせつ目的の略取・誘拐については平成15年から一気に下がっています。また警察庁によると、統計が残っている昭和31年以降は8万〜11万件を推移していたが、平成18年以降は8万件、直近の令和2年は約7万7000件と最小に。だが、単に治安が良くなったから大丈夫というわけではなく、全国の行方不明者は年間8万人で、うち9歳以下の子どもが1000人を超えている現状、また交通事故などのことも併せて鑑みれば、親御さんの心配は無理もないかもしれません」(衣輪氏)
100%安全と言えない状況や、それを真似したいという子どもを心配するがあまりに、SNSでこれを批評、問題提議する流れもある。しかも誹謗中傷などの炎上が社会問題となっている今、その矛先が出演者に向かうこともある。長く愛され、非常によくできたフォーマットであるがゆえに「その特性が今の時代では一長一短」(同氏)なのだと言う。
子どもメインのバラエティが減少傾向に…貴重な番組だからこそ“おつかい”だけに拘らないアプローチも?
『所さんのただものではない!』の間下このみやカケフくん、『あっぱれさんま大先生』の山崎裕太や内山信二など、懐かしく思い出す人もいるだろう。こうした番組が今作りづらい理由として、働き方改革が話題になったことが挙げられる。労働基準法には、満18歳に満たない者を午後10時から午前5時までの間に使用してはならないこと、満13歳以上は午後8時〜午前5時まで禁止とある。働く時間に伴い、子どもへのバラエティ的演出についても「やりすぎではないか」「可哀想」など否定的な意見が視聴者から出てくるようになった。どれだけスタッフが気をつけていても、そんな、“どんな意見が出るか分からない”状況では、幼い子どものバラエティ起用は難しくなっている。
だが、こうした状況でも『はじめてのおつかい』は今も変わらず残り続けており、貴重な番組でもある。前述したように、子どもならではのあたたかみのあるコンテンツとして、そして自立心を芽生えさせるという点で価値を見出しているため、より視聴者に不安を抱かせない挑戦を軸にする考え方もあってもいいかもしれない。「はじめての○○」など、“おつかい”にこだわらなくても、同じ価値のコンテンツを生むことは可能なのではないか。また、今となっては“テレビ”にこだわらず、ネットメディアへ進出する手段も選択肢としてはある。
改めて『はじめてのおつかい』がもたらした“価値”は歴史的に大きい。しかしインターネットを含むデジタルの急速な発達で、様々なことが目まぐるしく変化している今、大切なコンテンツだからこそ、“令和”に合わせた変化が求められているかもしれない。そんな番組が、他にもいくつかあるのではないかと、つい考えを巡らせてしまう。
(文/西島亨)