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「ゲイがうつる」「嫁に行きそびれる」偏見で凝り固まった“おっさん”は変われるか? BL漫画家がセクシュアリティに切り込む理由

 「女性に入れてもらった方が美味しい」と部下の女性にお茶出しを指示し、拒否されたことに納得がいかない48歳男性の会社員・沖田。凝り固まった自分の“常識”から抜け出せない彼は、引きこもりの息子、メンズブラを愛用する部下など“最近の若者”を理解できないでいる。しかし、ゲイの青年・大地との出会いをきっかけに、古い価値観が徐々に“アップデート”され――。そんな“おっさん”の成長を描いた漫画『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』が、LINEマンガで話題を集めている。BL漫画家である作者の練馬ジムさんは、今作でなぜ、ジェンダーやセクシュアリティに切り込んだのか。作品に込めた想いとともに話を聞いた。

現実では“偏見で凝り固まったオジサン”を変えられない、セクシュアリティ描くジレンマ

 青年・大地に駅の階段で助けられた沖田。彼の素性を知る前は好印象を抱いていたが、ある日、大地が引きこもりの沖田の息子・翔にマニキュアを施している場面に遭遇。大地がゲイだと判明したとたんに「(息子に)ゲイがうつると困る」「君のような若者がゲイなんて残念だ」などと発言し拒否してしまう。しかし、大地との会話をきっかけに理解しようという気持ちが芽生える。

――3月の連載開始から7ヵ月が経ちました。毎話、大きな反響を呼んでいます。

練馬ジムさん多くの反応がいただけて嬉しいです。たくさんの人が読んでくれているんだなとびっくりもしています。母がview数を報告してくれるのですが、「おおっ!」と毎回なっています。「主人公(48歳の沖田)が美形だ」というコメントが少し意外で、印象に残っていますね。

――練馬ジムさんはこれまでにもBL漫画を描かれていますが、“アップデートできていないおっさん”を今作の題材にしようと決めた理由を教えてください。

練馬ジムさんせっかくなので、BLでは描くタイミングが少ない「ギャグができるコミカルなオジサン」がいいなと思ったんです。あと、身近に偏見で凝り固まったオジサンがいたのですが、やっぱりその人を変えることは自分にはできないので、せめてフィクションの世界の中だけでも変われるオジサンがいてほしいなと思ったからです。

――タイトルやパンツを見せた男性2人というバナーイラストからポップな印象でしたが、実際に読むと、ジェンダーやセクシュアリティに正面から切り込む内容で驚きました。

練馬ジムさんバナーイラストはすごく悩みました。タイトルがすごく気に入っていたので、イラストもパンツにちなんだものがいいなと思っていたのですが、パンツ姿の成人男性のイラストはダメだろうなって…。ところが、LINEマンガさんがむしろパンツ姿を薦めてくださったので、このイラストになりました。いやらしさを避けた結果、ポップな路線になり、とても気に入っています。

――セクシュアリティというセンシティブな題材を扱う上で、難しいと感じる部分はありますか。

練馬ジムさんセクシュアリティは人それぞれで、日によっても気分によっても変わるものだと思っています。なので、「決めつけたくない」という気持ちと、「説教じみたことをしたくない」という思いが常にあるのですが、読み物としての展開上、どうしてもビシッと決めなきゃいけない部分もあるので、そこのバランスがいつも難しいです…。

価値観をアップデートできない世代、今までの常識が非常識になる

――主人公に対して、「親や周りに同じような人がいる」という読者の感想も多く寄せられています。実際にモデルになった人物はいますか。

練馬ジムさん自分たち(ネーム担当・作画担当)が今までに会ってきた、「どうしてこんなことを言うんだろう?」っていう人たちを凝縮させたキャラです。

――主人公は当初、「ゲイがうつったら困る」「なよなよした男性のどこがいいのか」「女性がお茶を注ぐ方が美味しい」などさまざまな偏見を持っています。こうした価値観をアップデートできなかったのはなぜでしょうか。

練馬ジムさん世代的にそういう社会だったからかなと。社会全体を優先させる時代から、個人を尊重し守るべきといった時代になってきていると、私的には思っています。このことに主人公の世代の人が気づくのは、何かきっかけがないと難しいとも感じます。今まで「それでいい」と思っていた常識が、いつの間にか「非常識」なことになっていたなんて、自分ではなかなか気づけないものだと思います。

――キレイになりたい引きこもりの息子・翔、そして翔や主人公の心を開いていくゲイの青年・大地、それぞれを描くことで伝えたい想いは?

練馬ジムさん引きこもりの息子・翔くんで伝えたいのは、気が合うわけではなくても付き合っていかなきゃいけないのが“家族”という存在ということです。だから、ちょうどいい距離感を保ちながら、自分のやりたいことを見つけてほしいなと思っています。

――密接な空間で過ごす家族だからこそ、理解できないことがお互いに負担になることもありますよね。

練馬ジムさん大人になると親のことを理解できる部分も増えてくるので、まずは近づきすぎて壊す前に、お互いにラクな距離を見つけていってほしいですね。大地くんは、こんな子が身近にいたら誰でも変われるんじゃないかなという願いを込めて作ったキャラです。

「他人の下着が自分に関係ないように、セクシュアリティもそうあってほしい」

――主人公の沖田も、彼なりに家族を大事に思っているからこそ、「息子に毎晩ドア越しに話しかける」など“空回り”を連発してしまいます。読者からも「お父さんかわいそうだけど、自分でも嫌だ」という声も寄せられていますが、空回りの要因はどこにあると思いますか。

練馬ジムさん結局のところ、“相手の気持ち”よりも“自分のしたいこと”を優先させているからだと思いますね。

――ちなみに、特にこだわって描いた印象的なシーンを教えてください。

練馬ジムさんサンバのシーンがちょこっとあるのですが、作画担当から「サンバだけは二度とやめてくれ(作画のコストが高いから)」と言われたのが印象的でした。

――この作品に込めたメッセージは?

練馬ジムさんタイトルにも込めたのですが、「他人のセクシュアリティは、自分には何も関係がないことをわかってほしい」と思っています。友人や家族、上司、部下、同僚の人がどんな下着をはいてようが、自分には1ミリも関係がありません。セクシュアリティもそうあってほしいなと思っています。

――最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。

練馬ジムさんいつも読んでくださってありがとうございます。好きなように描かせてもらっている作品で、このようにみなさんからの共感を得られたり、さまざまな意見をいただけたりすることにとても驚いております。これからも主人公のおっさんと一緒に自分もアップデートしていきたいなと思っていますので、また読んでいただけたら嬉しいです。
『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』/練馬ジム(外部サイト)
『LINEマンガ』にて配信中

沖田誠48歳。世間の常識・偏見で凝り固まった彼には“最近の若者”が理解できない。 上司にお茶を注がない女性、メンズブラ愛用の部下、そして引きこもりの息子…。 そんなある日、ゲイの青年・大地に出会う。 初めてのセクシュアリティに思わず拒絶してしまうが、次第に彼の魅力に気付き、友だちになることに。 そして知る、「その人の趣味や指向を他人が干渉するのはナンセンスだ」と。 そう正に、おっさんのパンツがなんだっていいように!“人として”の成長を誓うおっさんは、無事に“自分の中の常識”をアップデートできるのか!?

■漫画の続きはコチラから 『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(外部サイト)
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