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希代のメロディーメーカー・オーイシマサヨシの音楽DNA解析 「人生で最も聴いたアルバム3選」1位は“たま”

この記事は、LINE初の総合エンタメメディア「Fanthology!」とオリコンNewSの共同企画です。
⇒この記事をオリジナルページで読む(8月24日掲載)

オーイシマサヨシ

いまやアニソンシーンには欠かせないヒットクリエイター&シンガーソングライターのオーイシマサヨシさん。変幻自在のメロディーを生み出し、複数のアカウントを駆使して楽曲を紡ぎ上げるオーイシさんの“音楽DNA”は、どのようなルーツから構成されているのでしょうか。オーイシさんの音楽世界を支える“核”を探るべく、これまでに刺激を受けたアーティスト&アルバムや音楽人生に迫ると共に、8年目にして待望の1stアルバム『エンターテイナー』についても語っていただきました。

撮影:平野敬久 取材・文:遠藤政樹

たま『ひるね』は人生における“チューニング”用アルバム

――さまざまな楽曲を生み出されているオーイシさんですが、自身の音楽観に影響を与えるほどヘビロテした、「人生で最も聴きこんだアルバム」トップ3を教えてください。
まずは、たまさんの『ひるね』(1991年/メジャー2ndアルバム)です。このアルバムに初めて出会ったのは小学校5年生か6年生の時で、CD ではなくカセットテープでずっと聴いていました。アルバム全体を通してダークな“ジャパニーズ・リリック”というか、子供に聞かせたら変な解釈しそうな感じがあるし、大人が聞いても不思議で、ちょっと猟奇的な部分があったりする。それがたまさんの良さでもあると思いますが、そういう歌詞が子供心にわからないなりにも好きで、よく聴いていたのを覚えていますね。
たま……1990年に『さよなら人類』でデビューし、ロングヒットを記録したフォークロックバンド。オリジナリティ溢れるサウンドが話題をさらった。
――歌詞が刺さったという要素も大きかったのですね。
飛んでくる言葉が好きでしたし、今もそうですね。日本の歌を聴くときは歌詞や「何が言いたいのか」に注目して聴く癖があります。自分が作っている時もそうですね。

――アルバムの一番の聴きどころはどこでしょうか。
ネオジャパニーズ・オルタナティブというか、ダイナミクスも豊かで、今こそ聴くべきアルバム。それも解像度の高いスピーカーで聴くべきアルバムだと思っています。ちょっと耳をリセットしたいとき、気分もリセットしたいときに聴くようにしていて、僕の人生における“チューニング”用のアルバムになっています。

入っている音も多様で、それこそ石川(浩司、ボーカル/パーカッション担当)さんは例えば桶とか鐘とかを使ったりして、物をパーカッションで奏でるというスタイルでしたが、あれは後にも先にもあの方しかいなかったのでは。上もの(ボーカルやメロディーなど)を司るお三方は音楽IQがめちゃくちゃ高い方々ばかりで、あとシンプルに歌が上手い。

さらに「これは一発録りなのでは? じゃないと録れないよな」というテイストも、現代のようにオートチューン(=ピッチ補正などを行うソフトウェア)を使っていない、当時のスリリングな音像感とタイム感がスタジオライブを聴いている印象を受けます。それが、そこに“たま”がいるという生命力につながっていると感じます。現代は(テンポの)グリッドや音階を合わせたり、それはそれで一つの音楽としてトレンドがあって素敵だと思いますが、当時のライブ感というのは当時にしかなかったと思いますし、僕はそれを指針にしていたりもしますね。

サイモン&ガーファンクルが、思春期を支えた

――では続いてのアルバムをお願いします。
中学校の時にサイモン&ガーファンクルに出会ったのですが、そのベストアルバム『サイモンとガーファンクル全集』(1990年)は多分、『ひるね』に次いで人生で一番聴いたアルバムのうちの1枚ですね。中学校1年生の時に聴き始めたのですが、英語の先生が教材として『明日に架ける橋』を授業でかけたのがきっかけです。
サイモン&ガーファンクル……ポール・サイモンとアート・ガーファンクルによるアメリカのフォークデュオ。1964年にデビューし、『サウンド・オブ・サイレンス』『明日に架ける橋』などが大ヒット。世界の音楽シーンに大きな影響を与えた。
――学校の授業で聴いたのがきっかけというのは面白いですね。どんなところに惹かれたのでしょうか。
そのころの自分はあまり洋楽に触れていなかったので、「なんだこの世界は!」「こんな素晴らしい旋律があるのか!」とめちゃくちゃ感動したのを覚えています。それに当時から歌詞に注目するタイプだった僕は、例えば『明日に架ける橋』だと「Like a bridge over troubled water」のように、登場する単語も中1で習うようなものが多くそれほど難しくもなかったのですが、たとえすべての言葉がわからなくても「こんなに心がふるえるんだ」っていう感動を覚えて。それで親にせがんでベスト盤を買ってもらい、アコースティックギターでコピーもしていました。かなり影響を受けましたし、いまだに聴いているアルバムですね。
――サイモン&ガーファンクルの曲をギターで弾くことが、当時いじめられっ子だったオーイシさんを支えていたと、以前Twitterでつづっていらっしゃいましたね。
中1のころゴリゴリのいじめられっ子だったので、学校でいじめられて家に帰り、いじめっ子の見てないところでギターを練習するというのがモチベーションになっていた少年でした。「いつか見返してやる」じゃないですけど負けず嫌いではあったので、「この世界にはいられない」というか「逃げ出すぐらいなら、何か一つみんなが知らないところで上手くなってやる」「何か技術を身につけてやろう」みたいな気持ちになって練習し始めたのが、アコースティックギター。だから懐かしさもあるし、曲を聴くと当時の「燃えていたな」という気持ちをいまだに思い出し、サイモン&ガーファンクルのフォーキーな滑らかな旋律の中に、僕は闘志を燃やしてしまいますね。

サイモン&ガーファンクル『明日に架ける橋』ライブ・イン・セントラル・パーク

――別の手段で見返してやろうと思えるのはすごいですね。中学生にしてそうした発想に思い至ることは、普通はなかなかできないと思います。
自分にとって学校は“ダメ”だなと思ったんです。登校拒否するほどの勇気はなかったので、とりあえず我慢して登校して、学校はモノクロに過ごす場所で、帰ってからアコースティックギターを弾くことで色彩を取り戻す。本当は学校を“主語”にしたかったけど、家に帰ってからの小さな限られたギターを練習する時間が“主語”になっていて、中学生の“主語”が本来とは逆になっていた感じはありました。それが中心になっていたというか、本当に居場所がなかったから、自分を保つためにそうせざるを得なかったのでしょうね。

映画『シカゴ』サウンドトラックがターニングポイントに

――貴重なお話をありがとうございます。では3枚目のアルバムは?
大人になってから聴き始めたのですけど、ミュージカル『シカゴ』の映画版サントラ『「シカゴ」 オリジナルサウンドトラック』(2003年)は、僕の音楽性をまたガラリと変えた作品でもあります。
『「シカゴ」 オリジナルサウンドトラック』……1975年にブロードウェイで初演されて以降、ロングランを記録しているミュージカル『シカゴ』。2002年にはミュージカル映画となり、レニー・ゼルウィガー、リチャード・ギア、キャサリン・ゼタ・ジョーンズが出演しヒット。音楽はジョン・カンダーとダニー・エルフマンが担当。
――かなり気になる切り出し方ですが、どういうことでしょうか。
エンタメってなんぞやと考えた時、ステージの上で生で繰り広げられるミュージカルって、個人的にエンタメの最高峰だと思っています。それを気づかせてくれたのが『シカゴ』という作品。音楽もダンスももちろんプロのアンサンブルで華やかだけど、それをひけらかさず作品の一部になろうと徹する感じが、まさにエンタメだなと感じます。技術があって上手かったら踊りも歌も演奏も我が出ちゃうというか、「私は上手いのよ」「俺はすごいんだぜ」という風になってしまいかねないのですが、そのエゴがまったくない。みんながみんな一つのショーを作り上げるために自分のスキルをふんだんに使っている、その姿勢がまさにエンタメだと思って感動しました。
――『シカゴ』は1975年にブロードウェイ初演のミュージカルで、1997 年に6部門でトニー賞を受賞、2002年の映画版も第60回ゴールデングローブ賞で3部門、第75回アカデミー賞で6部門を受賞しており、たしかにエンタメの最高峰と称賛される作品ですね。
この映画を観たころ、僕はシンガーソングライターをやっていたのですが、自分のために曲を書いていて。自分がこうありたいとかこうあるべきみたいな自分の半生を歌にしたり、自分の周りで起こったドキュメントを歌にしてみんなに紹介したりといった感じでした。ところが、この映画とこの音楽に触れた時、「こういう風に世界って自分で作れるものなのか」「自分も作ってみよう」と思ったのがきっかけで、僕の音楽人生がガラッと180度転換しました。そういった大きなきっかけになった作品の一つですね。実際このミュージカルを見るためだけにブロードウェイに行きましたし。めちゃくちゃ感動したのを覚えています。

『シカゴ』トレイラー

初作曲した『きっと今夜はホーリーナイト』秘話

――ここからはそんなオーイシさんの音楽に対する、さらなる“ルーツ”をお聞きしたいと思います。ご両親が音楽好きの家庭に育ったそうですが、小さいころ最初に心に響いた曲は覚えていますか。
両親は、いわゆる洋楽かぶれやジャズに詳しいというわけではなく、J-POPというか日本の歌謡曲が好きで、よくレコードがかかっていたのを記憶しています。何の曲だったかなと考えてパッと思いついたのは、谷村新司さんの『昴』(1980年)ですね。

幼稚園から小学校低学年くらいまで、当時カラオケボックスがまだ街になくて歌う場所が限られていたので、よくお風呂場で歌っていました。それで一時期、僕が歌うと父親が採点をするのが我が家で流行っていて、子供なので甘めに採点してくれていたのですけど、『昴』を歌った時だけ、すこぶる点が高かった(笑)。親に褒められるのはうれしいからいっぱい練習して、それこそ最後の「さらば昴よ」部分なんて、幼稚園児と思えないぐらいの力強さで熱唱していました。それで『昴』をよく歌っていたなっていうのが、僕の原風景として思い出されます。
――作曲は中1のときに初めてされたそうですが……。
そうなんです。中1の時に彼女がいて、その彼女にクリスマスプレゼントというかクリスマスソングを作ってあげようと思って、初めて曲を書きました。ラジオでも話したことはありますが、タイトルは『きっと今夜はホーリーナイト』で、サイモン&ガーファンクルの影響も受けているのだろうし、山下達郎さん的な感じもあるのかなって。今思い返してみたら、芸人のAMEMIYAさんの『冷やし中華はじめました』と同じメロディーだったことに気づきました(笑)。

――それは驚きですね(笑)。もしかすると時代的にはオーイシさんの方が早いのでは?
そう! 僕が“著作権”を持っている……あはは。冗談です(笑)。『きっと今夜はホーリーナイト』は、C、F、G、Em、Amのファイブコードで作られている、中学1年生の子が作るような感じのフォーキーな歌で、当時の自分が持っているロマンチックを全部つぎ込んだ曲でしたね。

紆余曲折だった「商業音楽」への思い

――となると、『きっと今夜はホーリーナイト』は、現在のオーイシさんの楽曲のキャッチーさ、耳に残る曲調につながる部分はあるような印象も受けるのですが、いかがでしょうか。
一理あるかもしれませんね。あまり言っていないのですが、僕には持論があって、例えば僕が作るアニソンはサビのコード進行というか形、コードのフローがほぼ一緒なのです。“変えない美学”というんでしょうか。求められているからこそ、同じ進行でも別の曲に聴かせるという方が、スキルとしてはすごいと思っています。

誤解や偏見を恐れずに言うと、例えばパンクはスリーコードでも全部違う曲に聴こえますよね。もちろん、そこには内包されているものがあり、メロディーの組み換えだけじゃなくて言葉の選び方やパッション、BPM(=テンポ)など、いろんな形の組み合わせがあるからこそ別の曲に聴こえるわけじゃないですか。そうした、「コード進行は一緒だけど別の曲に聴こえる」ことの喜びを、僕はずっと追求しています。

それでいうと『きっと今夜はホーリーナイト』もファイブコードで、ありきたりのコードだけど、自分の気持ちをちゃんと表現することを大事にしていたという意味では、そのころから何かクセみたいなものがあったのかもしれません。

――なるほど。それは自然に身についたのでしょうか。それとも意識して身につけられたのでしょうか?
当時、僕がコピーしていたJ-POPがその傾向が強かった。例えばスピッツさんとかMr. Childrenさん、サザンオールスターズさんらは、複雑な分数コード(※オンコードともいう。C/EやGonB等で表されるコードで、豊かな響きを演出する)を使っていなくても楽曲として素晴らしい、コシのあるメロディーを紡いでいます。そういうものに慣れ親しんでいたし、そういう楽曲ばかり歌ってきていたので、そこも血肉となって染みついているのだと思います。
――そういうことなのですね。いわゆる“商業音楽”に対する考え方は、キャリアを重ねる過程でとらえ方や向き合い方に変化はありましたか?
ありました。バンド時代は「商業音楽くそくらえ」と思っていた時期はあったし、みんな通る道。同年代のアーティストでもそういうスタンスでやっている方もお見受けしますし、それも一つの“正解”だと思います。ただ僕は『シカゴ』という映画に出会ったことで変わっていきました。プロの仕事を見て、「自分が持っている音楽のスキルって、イヤだと言っている商業音楽にすら昇華できない。足りない」と気づかされ、自分が足りない技術や知識を「商業音楽って何かイヤ」という偏見だけで片付けていることが甘えに思えました。

僕は絵本ってすごいと思っていて、子どもの感覚に大人が全力でチューニングを合わせていることは、とてもプロらしいなと思います。自分自身は子どもじゃないから、「こんな風に言ったら子どもにどう響くのか?」と考えて作る手法は、ある意味高度な心理学だと考えていて、それは商業音楽においても同じことだと思っています。

僕の周りのアニソンクリエイターたちは、「こういう旋律を紡いだら」とか「こういうコード進行ならアニソン好きにこんな風に響く」といった分析や研究をし、ロジックを持っている人たちばかりで、とても尊敬しています。言い訳して自分の音楽の裾野を広げない人間にはなりたくないと思い始めたことがきっかけで、商業音楽に対して一目置くようになりました。
――その境地にたどり着くまでは、折り合いをつけることはやはり難しかったのでしょうか。
バンドを解散してソロデビューしてから考え始めたのですが、それまではやっぱり難しかったですし、わからなかったですね。知らないことなので、どれだけ説得されても自分で気づかない限りは納得できないじゃないですか。そういう若かりし日の思い出はあります。それでもその時に紡いでいた音楽は一つの“正解”だと思うし、逆に今の自分が奏でられない音楽だろうし、その時の情動というかエモい部分だったかなとは思います。もちろん否定しないし、自分が今できないという意味では“憧れ”みたいなものはありますね。

アニソンとの出会いは「運命」 “誰かのための音楽”に

――いろいろな“正解”があるというのは音楽、ひいてはエンターテインメントの醍醐味と言えますね。「自分がやりたい音楽」という言葉を耳にする機会がありますが、それは不変的なものなのか、それとも年齢やキャリアと共に変化していくものなのでしょうか?
それでいうと変わったきっかけがあって。デビューした時は事務所にもレーベルにも所属して、普通に生活できるだけのアーティストライフを大人の方々の優しさの中でやっていたのですが、ある日を境に食べられなくなった時がありました。それで「自分の音楽は食べられない=必要とされていない」って思っちゃって。誰からも必要とされていないわけではありませんでしたが、生活できる分の稼ぎがないということは自分の音楽が必要とされていないと考えてしまいました。

どんなジャンルでも少なからずそうだと思いますが、商業音楽は誰かに必要とされることで誰かの心を満たし、その対価をいただいて成り立つものだと思います。それができていなかったということは、お客さんのことをあまり考えられていなかったのかなとか、自分勝手になっていたり意固地になっていたりした部分があったのかなと、その当時は思いました。

そこから音楽性がガラッと変わって、ベクトルが「自分の中にある自分のための音楽」から「誰かのために歌う誰かのための音楽」へと大きく変わりました。それが30代最初のころで、ちょうどピザ屋さんでバイトし始めた時。「自分はもしかして違うかもしれない」と思ったのをきっかけに、自分の音楽のあり方、作り方、歌い方、あとお客さんに対する姿勢といったものを見直しました。
――オーイシさんほどのキャリアがある方でも、そんな経験が。具体的にはどのように変えていったのでしょうか?
そのとき、商業音楽というものをもう一度見直してみたら、それまでは「ヒットチャートに載っている奴らなんて」と思っていたのですが、そこに名前が並ぶ先人やクリエイターたちはなんてすごいことをやっているのだろうかと痛感させられました。自分は遠く被害が及ばないところで石を投げていたことに気づき、匿名で掲示板に文句を書いているヤツよりカッコ悪いなって。しっかり“向こう側”になってからモノを言おうとその時に思い、それがきっかけで自分の音楽がガラッと変わりました。

――そういった紆余曲折を経て、いよいよアニソンの世界に足を踏み入れることになったわけですね。当時はどのような心境だったのでしょうか。
これがまた運命だと思います。それか、そういう姿勢になったからこそ引き入れることができたのかはわかりませんが、アニソンの世界ってまさに日本における商業音楽の一つの最先端だと思っています。アニメ作品があり、それに合わせて曲を作るスタンスは、いわゆる一つのサービス業。そこにはプロの“御業(みわざ)”や匠の技があって成立しています。

そういった心構えがアニソン業界に入る前にできていたからでしょうね。抵抗なく、きれいに着地できました。もしも20代のころにアニソンを勧められても、やっていなかったと思います。30歳を越え一度音楽で食べられない経験をし、誰かのためにする音楽に目覚め始めた時にアニソンに出会えたからこそ、「これはいい勉強になる」と思えてスッと入れました。

「誰かとつながるための魔法」を体現した1stアルバム

――そこからの怒濤の活躍ぶりを考えると、今回リリースされる『エンターテイナー』が初アルバムというのはかなり意外でした。このタイミングでの発表になった経緯を教えてください。
ですよね。僕も意外でした(笑)。実はオーイシマサヨシを立ち上げて、ないしは大石昌良で『ダイヤのA』というアニメのOP主題歌(2013年)を歌い始めてから、わりと最近まで特定のレーベルに所属したことがありませんでした。僕の理想的な構図ではあるのですが、「求められるから作る」「求められるから歌う」というのを毎期、数珠つなぎにしてきたのがここまでの年数なのです。

もう一つの要素としては、いろんな「アカウント」があったからというのもあるかもしれません。ほかのアカウントでは、OxT(オクト)というユニットでも、シンガーソングライター・大石昌良としても、Sound Scheduleでもアルバムを出していました。さらに、自分が提供した曲のカバーアルバムも出していたので、カタカナのオーイシマサヨシ名義でも(アルバムを)出した気になっていて。僕も最近気付きびっくりしました(笑)。後ろを振り返れないくらいがむしゃらに毎日走ってきたんだなっていうのが、逆に証明された瞬間でしたね。

1stAlbum『エンターテイナー』(初回盤)

1stAlbum『エンターテイナー』(初回盤)

――そういう事情があったのですね。満を持した1stアルバムのコンセプトを聞かせてください。
収録曲は、全部ジャンルが違う曲になっています。昭和歌謡もあればジャズもあるし、J-POPもあればファンクもあり、いろんな楽曲を散りばめていますが、それも含めて8年間、自分が携わったエンターテインメントの軌跡ですし、オーイシマサヨシのヒストリーでもあります。ある種、フォトアルバムをめくるような感じで楽しめると思います。僕的には「1st アルバムにしてベストアルバム」と言っていますが、まさに自分が今までやってきたエンタメワークスをすべて入れたアルバムに仕上がっています。

オーイシマサヨシ『エンターテイナー』(トレイラー)

――1曲目には新曲『エンターテイナー』が収録されていますが、現代やオーイシさん自身の心境を歌っているような味わい深いナンバーです。制作時に意識したポイントは何でしょうか。
多くの皆さんに聴いていただいたり、知っていただいたりするきっかけになったのはアニメソングがあったからだと思っています。自分のために音楽を奏でるシンガーソングライターから、誰かのために音を奏でショーをくり広げていくエンターテイナーにジョブチェンジしたからこそできた、この8年間だったのかなと感じています。そういうエンターテイナーとしての自分の考え、自分の中にいる小さなエンターテイナーという“小っこいおっさん”みたいな存在を歌にしてみようと思い、ちょっとメタっぽい感じの歌にしたい、自分自身を歌っているような風にもとれるドキュメンタリーチックな歌にしたいと考えました。

特にコロナ禍で無観客の配信ライブが続き、有観客でも声を出しちゃダメで、歓声の渦にまた飲まれてみたいとか「一生この時間が続けばいいのに」という時間をもう一度体験したいなという想いがあって。日常を過ごしている中で何か欠けているものがあることを僕も気づいていると伝えたくて、『エンターテイナー』という曲ができました。
――ありがとうございます。最後に、オーイシさんにとって「音楽とは」を一言で表すと?
難しいな(笑)。以前はちょっと斜に構えて「サービス業です」と言っていましたが、今は考え方が変わりました。コロナ禍になってから、世間的にもそうだと思いますけど僕も改めて音楽はどういうものなのかを考えさせられ、サービス業ではくくれないぐらい、やっぱり僕の心の深いところまで根が張っているなと実感しました。音楽を発信する場所が制限された中、「誰かとつながりたくて音楽をやっている」「部屋で一人で歌っていてもつまらない」と思ったことがきっかけです。だからこそ、「誰かとつながるための素晴らしい魔法である」と答えさせてもらいます。
プロフィール

オーイシマサヨシ

オーイシマサヨシ

オーイシマサヨシ

2001年、Sound Scheduleのボーカル&ギターとしてメジャーデビュー、2008年に「大石昌良」としてのソロデビューを経て、2014年にアニメ・ゲームコンテンツ向けに「オーイシマサヨシ」名義で活動開始。アーティストとして『ダイヤのA』、『月刊少女野崎くん』、『多田くんは恋をしない』といった人気アニメや、特撮ドラマ『ウルトラマンR/B(ルーブ)』の主題歌を担当。また、デジタル・ロック・ユニット「OxT」としても活動中で、TVアニメ『SSSS.GRIDMAN』の主題歌『UNION』はiTunesを含めた数々の音楽配信サイトで1位を記録。

作家としては2017年に作詞作編曲を担当したTVアニメ『けものフレンズ』のオープニング主題歌『ようこそジャパリパークへ』が大ヒット。他アーティストへの楽曲提供などの依頼も多数来ており、現在のアニソンシーンで最も勢いのあるアーティストの1人。
作品情報

1stAlbum『エンターテイナー』通常盤

1stAlbum『エンターテイナー』通常盤

1stAlbum『エンターテイナー』(2021年8月25日発売)

【収録曲】
M1.エンターテイナー
M2.インパーフェクト
M3.世界が君を必要とする時が来たんだ
M4.Hands
M5.Hero
M6.パワフルバディ
M7.キンカンのうた2020
M8.神或アルゴリズム(feat.りりあ。)
M9.楽園都市
M10.沼
M11.ロールプレイング
M12.英雄の歌
M13.ドラゴンエネルギー(オーイシマサヨシ×加藤純一)※ボーナス・トラック(CDのみ収録)
この記事について
この記事は、LINE初の総合エンタメメディア「Fanthology!」とオリコンNewSの共同企画です。
俳優・歌手・芸人・タレントらの趣味嗜好を深堀りしつつ、ファンの「好き」を応援。今後、さらに気になる人の「これまで」と「これから」をお届けしていきます。
⇒この記事をオリジナルページで読む(8月24日掲載)

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