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(更新: ORICON NEWS

哀愁ただよう“おじさん”の日常、19歳の大学生が描く理由 「喜怒哀楽、どこにも属さない表情の深み」

 19歳の東京藝大生・RYO OGATAさんによる創作絵日記『おじさん日記』には、東京・田町のオフィス街で暮らす架空の人物、経理課課長「竹田まさる(57歳)」の日々のできごとが1年にわたって記録されている。「通勤電車の窓に映った自分の顔は父親と同じだった」「おじい、おばあばかりのプールはさながら三途の川」「毎朝まっ黒のごみ袋を大量に出す隣家の青年」など、平凡なおじさん会社員のシュールなエピソードが、リアルな筆致とインパクトのある絵で日記として描かれている。19歳の男子学生は「おじさん」という存在をどうとらえて作品に昇華させたのか。

表現したかったのは、「おじさんの表情ににじみ出る、心の機微」

――なぜおじさんを描こうと思ったんですか?

RYO OGATAさん東京・田町が地元なんですけど、オフィス街で人がごった返すこの街でいちばん多い人種がサラリーマンのおじさんなんですよね。それで、高校3年の夏に地元の居酒屋で展示会をすることになったとき、身近な存在でずっと観察してきたこともあって、おじさんを描いてみたいと思ったんです。それも絵ではなく、自分がおじさんになりきって毎日、絵日記をつけていったら作品としておもしろいかなと考えました。19歳の自分が、おじさんと呼ばれる人たちを見て発見する趣への関心みたいなものもありましたね。

――表情だけで心の機微も伝わりそうなインパクトがあります。制作でこだわったポイントは?

RYO OGATAさん日常のなかで、日記のネタになることを見つけるとメモをして、まさるだったらこの場面でこうするだろうと考えます。また、シンプルに街で見かけたおもしろい人を書き留めて、それを参考に絵日記に落とし込むこともあります。それに加えて、まっさらな状態でまさるに成り切った自分が絵日記に向かい合ったときに出てくる物語を大事にして作っていきました。

――「おじさん」が社会の象徴として描かれているようにも感じます。

RYO OGATAさん世の中の厳しさ、社会の理不尽さ、人生の儚さなどが、おじさんの喜怒哀楽のどこにも分類できないような表情や心情に映っていると思います。制作しているときは、そのテーマの根幹にけっこう触れられているような気がしていました。

――世間では、「イケてる」「かっこいい」「かわいい」おじさんブームもありましたね。

RYO OGATAさんおじさんブームに乗ってこの作品を作ったと思われるかなという危惧もあったんですけど、本作は生体を観察して図鑑にしているような“おじさんあるある”を描いたものではありません。日常生活を送るうえで、言語化するまでもなく、気にも留めないけど、誰もがどこかで思っていることを作品にしたんです。どう思いながら手にとっていただいてもいい。読んだ方が、何をどう感じていただけるかが楽しみです。

ネットの賛否、「意識しすぎたら違う方向にいってしまう」

――SNSで話題を集めた作品ですが、反響の中には賛否の声もあったとか。

RYO OGATAさん“19歳の大学生が疲れたおじさんを描くのがおもしろい”というニュアンスの切り口と、疲れたおじさんの表情の作品が並んだことで、あまり深く内容を読まずそこだけにリアクションした人がたくさんいたようです。あと、作者である僕が19歳の大学生ということで、僕の人物像を想像して断定してくる人もたくさんいました。こう考える、こう受け取る人もいるというのは勉強になりましたが、こういうことはどんな作品にも起こりうることだと思うし、そこを意識しすぎたら自分が違う方向に行ってしまう。制作において、あまり意識しないようにしています。

――ネットユーザーのそういう視点やリアクションを肌で感じて、その後の作品への影響は?

RYO OGATAさんありません。もし自分に後ろめたいことがあれば変わってくるかもしれませんが、僕は自分の作品に対して全責任を持って発表しています。だから、自分が作りたいものを作ることに変わりはありません。ただ、いろいろな人の意見をいただける機会はありがたく感じていますし、それが作品を発表していくことのやりがいのひとつでもあるんだろうと思いました。

他者に感じることを「ないがしろにしない」、制作のポリシー

――OGATAさんの作品づくりにおけるポリシーは?

RYO OGATAさん展示場所があって作品を作るときは、その場所と自分が関わってきた制作活動が交差するものをテーマにしたいと思っています。制作については、人を描く作品が多いのですが、作品を作っているときだけ人に意識を向けるのではなく、毎日の生活の中で他者と関わるときに気を張る…というか、自分がその人に感じていることをないがしろにしないように過ごしていきたいと思っています。

――この先、やりたいことや目指していることを教えてください。

RYO OGATAさんもともと日本画的な絵を描いていますが、昔から音楽がすごく好きで、いろいろなアーティストのスクエア状のアルバムジャケットのアートワークから影響を受けています。いつかそれを手がけてみたい。音楽関係の方々と関わりながら、新しい制作ができたらいいなと思っています。

――絵日記の「おじさん」のその後の人生が気になります。

RYO OGATAさん街にはいろいろな人がいますよね。僕は一人ひとりの一瞬の仕草とか動向から、その人の人生を想像したくなるタイプなんですけど、そういう考え方を持って街に出て人を見てみるのはおもしろいかもしれません。いつかまさるの続編を描いてみたいですし、絵日記に出てくるほかの人物に焦点を当てた何かが作れたらおもしろいと思います。
【インフォメーション】
■おじさん日記
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■RYO OGATA
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2001年4月生まれ、東京都港区在住。2020年4月、東京藝術大学美術学部入学。高校生の頃からテレビドラマのオープニング映像用の原画制作、東京都港区・正伝寺や居酒屋・鳥駒での個展開催、映画『IT/イット THE END』のキャンペーンアート制作など、活躍の場を広げている。

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