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田所あずさ、初のセルフプロデュースで新境地 “ゆらぎ”をテーマにアルバムはすべて新曲で構成
そのときの心境を音楽でかたちに、“コンセプト重視”に込められた想い
また、2014年リリースの1stアルバム『Beyond Myself!』でアーティストとして始動。その後2ndアルバム『It’s my CUE.』(2016年)、3rdアルバム『So What?」(2017年)を発表し、田淵智也、堀江晶太、黒須克彦、畑亜貴などのクリエイターとともに音楽的な幅を広げてきた。昨年11月にリリースしたシングル「ヤサシイセカイ」は、TVアニメ『神達に拾われた男』OPテーマで、彼女自身が主人公・リョウマ役で出演し、実力派声優アーティストとしての存在感を改めて示した。
アリーナクラスでのワンマンライブも実現させ、デビュー以来、順調な活動を継続してきた田所あずさ。ニューアルバム『Waver』はアーティストとしてのターニングポイントであり、新たな飛躍を遂げた作品だ。
これまでの音楽活動を支えてきたプロデューサーがレーベルを離れたことで、彼女自身が制作の中心を担うことになった本作。アルバムのコンセプトを大事にしたいという思いから、10曲全てを新曲で構成するという決断に至った。
田所自身が共同制作者に選んだのは、ライブのバンドメンバーの要である神田ジョン(G/PENGUIN RESERCH)と、アニソンシンガーであり作詞家としても評価されている大木貢祐。2人がタッグを組んだ「スペクトラム ブルー」(作詞:大木貢祐、作曲:神田ジョン/2019年シングル「RIVALS」収録)を彼女自身が気に入っていたこと、そして、大木、神田が田所の音楽性や性格を理解していることが決め手になったという。
アルバム『Waver』のコンセプトは、タイトル通り“ゆらぐ/ゆらぎ”。声優、アーティストと順風満帆のように見える活動を続けてきた田所だが、その過程では何度も迷い、考え続けながら、自らの表現を積み上げてきた。その真摯な姿勢こそが彼女の魅力であり、クリエイティブの源泉であるだろうが、田所自身は自らを上手く肯定できず、自信のなさを抱えていたという。
しかし、神田、大木とのコミュニケーションのなかで、迷いながら活動してきたことは間違いじゃなかったという気づきがあり、そのときどきで感じたこと、疑問に感じたことを音楽にしていきたい、という意思がそのままアルバムのコンセプトにつながった、というわけだ。
“声優アーティスト”のイメージを超えた音楽
アルバム『Waver』は、シンガーとしての田所の魅力が存分に引き出された作品でもある。1曲目の「レイドバック・ガール」(作詞:大木貢祐/作曲・編曲:神田ジョン)は、ジャズ、ロック、R&Bなどのテイストが絶妙なバランスで絡み合うミディアムチューン。豊かな響きをたたえた低音、美しく透き通った高音まで、幅広い音域を活かしながら、大人の表情を見事に表現している。これまではアッパーチューンの印象が強い彼女だが、「レイドバック・ガール」を聴けば、そのイメージは良い方向に裏切られるはずだ。
そのほか、クラシカルなピアノと鋭利なトラックが共存する「ちっちゃな怪獣」、軽やかさと切なさを同時に感じさせるボーカルが心に残る「ソールに花びら」などバラエティに溢れた収録。一方で、ロック系アーティストとは、MOSHIMOの岩淵紗貴、一瀬貴之が手がけた「死神とロマンス」「徒然恋愛サバイバー」、忘れらんねえよの柴田隆浩が作詞した「ころあるこ。」などのコラボ曲を収録。思い切りハジけた歌声を響かせている。
田所自身が作曲した「いつか暮れた街の空に」も本作の聴きどころ。決して大仰にならず、切なさ、美しさ、かげがえのなさを感じさせる旋律からは、メロディメイカーとしての資質が伝わってくる。大切な人に対する感謝が込められた歌詞、生楽器の響きを活かしたアレンジも、彼女の歌の良さを引き立てていて秀逸だ。
揺れるようなブルーを基調にしたアルバムのアートワーク、表題曲「Waver」のミュージックビデオを含め、彼女自身のセンスとこだわりが詰まった本作。音楽を表現するというクリエイターとしての才能がより強く反映されたこのアルバムによって、田所あずさは“声優アーティスト”という枠を超え、さらに多くの音楽ファンに認知されることになりそうだ。
(文/森朋之)