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モー娘。「ザ☆ピ〜ス!」が今なぜ話題? “投票行って外食する”現象に見るエンタメの役割

  • モーニング娘。12枚目のシングル「ザ☆ピ〜ス!」(ZETIMA/2001年)

    モーニング娘。12枚目のシングル「ザ☆ピ〜ス!」(ZETIMA/2001年)

 先日、東京都知事選挙が行なわれ、現職の小池百合子氏の圧勝に終わったが、SNS界隈で盛り上がっていたのがモーニング娘。の楽曲「ザ☆ピ〜ス!」(2001年)だ。選挙の日になると、「選挙の日って ウチじゃなぜか 投票行って 外食するんだ」のフレーズを思い浮かべる人が多いようで、一般ユーザーだけではなくタレントたちもこぞって「投票行って外食する」と投稿していた。「投票に行った報告」を仰々しく表明するのではなく、フレーズを借りることで、政治参加をごく自然な行為としてアナウンスし、結果的に啓蒙にも。12日には豪雨被害が続く鹿児島県の知事選挙もあり、多数のユーザーが同様につぶやいていたが、選挙のたびに思い出されてSNSでも拡散されている。20年近く愛されてきた楽曲が実社会で果たす役割について考えてみたい。
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チョコプラ松尾や、ハリセン春菜、渡辺直美に、ローランドも…“投票行って外食”現象

 6月18日告示、7月5日に実施された東京都知事選挙。コロナ禍の選挙ということもあり、3密を避けるべく期日前投票が呼びかけられ、各投票所でも対策が施されていた。そんな“異常事態”ともいえる投票日、いつもと変わらずSNSを賑わせていたのが「投票行って外食しないとな」「投票行って外食でもするか」といった“投票行って外食する”報告。今回はコロナ感染への警戒もあり、「投票行って外食しないでテイクアウトするんだ」「今は外食は控えてるので投票だけしてきた」といった具合に、「ザ☆ピ〜ス!」の歌詞をもじりながら“外食を控えた”バージョンの投稿も。投票の報告とともに、政治参加だけではなく、何気にコロナへの配慮までが啓蒙されるように機能していたのだ。

 そんな“投票行って外食する”報告は、多くのフォロワーを持つタレントや著名人の間でもSNSに多数投稿された。チョコレートプラネットの松尾駿とハリセンボンの近藤春菜、渡辺直美が「私は投票行ったけど外食できず」、「私は投票行って出前とった」、「私は投票行ってピザ出前したんだがデリバリピザいつも悩むLかMか」といったやり取りを展開。モー娘。ファンで知られる指原莉乃も「投票うぃってお散歩してきた」と投稿。また、人気ホストのローランドは「投票行って外食する」、元モー娘。藤本美貴の夫・庄司智春も「今日は投票に行きましたが、外食はしてません。」と投稿している。ちなみにTwitterで選挙の投票と「ザ☆ピ〜ス!」の歌詞を絡めた最古の投稿を検索してみると、2007年4月22日に行なわれた第16回統一地方選挙当日、「投票行って外食してきた」とジャーナリストの津田大介氏が投稿している。その後、ユーザーの増加とともに定着していったのだろう。

モーニング娘。女性アイドルグループ一強時代に描かれた「ある休日」

 そんな「ザ☆ピ〜ス!」の発売は2001年7月。当時のモーニング娘。は、「LOVEマシーン」(1999年)の大ヒット以降、「ハッピーサマーウェディング」「恋愛レボリューション21」など“お祭り”や“応援歌”のような曲を連発、曲も歌詞もまさに“イケイケ”の状況。しかし、「ザ☆ピ〜ス!」で描かれているのは“ユル〜い日常”であり、プロデューサーのつんく♂も「21世紀の日本の『ある休日』をな〜んとなくイメージして歌詞を書きました」(つんく♂オフィシャルサイトより)と語っている。

 女性アイドルグループ一強状態のモーニング娘。だったが、「ザ☆ピ〜ス!」のサビの「好きな人が優しかった」「うれしい出来事が増えました」「大事な人がわかってくれた」「感動的な出来事となりました」と歌うように、それまでのイケイケではなく、ごく普通の女性たちのささやかな日常の幸せを表現した親近感のある歌詞となっている。当時、中居正広や岡村隆史が番組の企画でキレキレのダンスを披露したことでも話題になったが、2010年から公式YouTubeで公開されているMVは現在860万回再生。コメント欄には「この歌の歌詞の素晴らしさに2020年になって気が付きました」、「今更だけどつんくってすごいわ」などといった共感の声が寄せられている。ミレニアム、21世紀の幕開けと浮足立つ日本に出現したホッと一息つくような歌詞は、時代に左右されることなくジワジワと染みわたっていたようである。

SNS時代、「ザ☆ピ〜ス!」が最もシンプルな投票の啓蒙に?

 そんな日常に寄り添ったユルい歌詞は、SNS全盛の現代にもフィット。最近では、「#検察庁法改正案の強行採決に反対します」のSNS運動や、コロナ禍の政府と各自治体の動向にも刺激され、「しっかり調べる」「選挙に行く」などとSNSで呼びかけるタレントも多数いた。そうやって影響力のある著名人が直球で政治参加を促すことにも大いに意味がある一方、「ザ☆ピ〜ス!」の歌詞にサラッと参加表明を乗せることは、より自然に、わかりやすく、若年層が投票するように背中を押したともいえる。

 「この歌詞を思い出したから」、「Twitterにつぶやきたくて」等々それぞれに理由はあるだろうが、親近感や懐かしさを覚えるフレーズをユーザー同士で共有する連帯意識も作用し、今回、何となく投票会場に足が向かったという若者も多かったのではないだろうか。また、絶妙にユルい歌詞は、仰々しく支持政党の決定を促す方向ではなく、政治に参加することの意義を自然に考えるきっかけとなったようである。

 2001年のリリースから約20年、古さも説教じみたこともなく、一つの楽曲が政治や社会のことを考えるきっかけとなる。この2020年にも巻き起こった「ザ☆ピ〜ス!」現象は、まさにコロナ禍で“不要不急”となりがちでもあるエンターテインメントの神髄を表わしているのかもしれない。

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