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「有害指定図書」の是非 教育者とクリエイターの“70年戦争”

  • 3月23日、滋賀県が有害指定した『全国版あの日のエロ本自販機探訪記』(双葉社)

    3月23日、滋賀県が有害指定した『全国版あの日のエロ本自販機探訪記』(双葉社)

 3月30日、北海道が『エロマンガ表現史』(太田出版)を有害図書指定し話題となった。こうした、性的表現の歴史などを考察した書籍が自治体の有害図書指定を受けたことに対し、ネットでは「研究書まで有害指定するのはやり過ぎだ」との声も多く見られた。そこで、北海道庁の担当者に有害指定の経緯とその理由を聞くと共に、有害指定された書籍や漫画の系譜、教育者とクリエイターとの70年に及ぶ“攻防”の歴史を辿る。

地方自体ごとに異なる“有害指定”のあいまいな基準

 3月23日に滋賀県が『全国版あの日のエロ本自販機探訪記』(双葉社)を有害指定。さらに、3月30日には北海道が『エロマンガ表現史』を有害指定した。同書は、美少女コミック研究家の稀見理都氏の著書で、エロマンガ特有の表現の成立を漫画家などのインタビューから紐解く内容。

 その中身は文章による分析や考察が大半であるため、ネットでは「真摯に漫画史を研究された名著を有害指定とは」、「有害指定はやりすぎ」と有害指定への批判が多め。また、日本雑誌協会は「新たな分野の研究書であり、フィールドワークの労作だ」と、有害指定に疑問符を投げかけている。

 では、数ある“エロ系”書籍の中からなぜ本書を選んだのか? 北海道庁の担当者に聞くと、「ランダムなチェックによるものです。特別、毎月一定数の書籍をチェックするルールなどもありません」との回答だった。一部ニュースでは、タイトルに「エロ」の文字があったからだとする報道もあったが、担当者によれは「本書の場合、性行為などの露骨な描写が多数掲載されていることが要因」とのことだった。

 こうした点からも分かる通り、各地方自治体それぞれに有害図書の指定基準があるが、その見解は千差万別。言うなれば、基準は“あいまい”な状態なのだ。そのため、クリエイターの萎縮や自主規制に繋がることを懸念する声も多い。

『鉄腕アトム』を焚書する暴挙も!? 有害図書指定“70年”の歴史

 そもそも有害図書指定の大本となる「青少年保護育成条例」は、1948年に茨城県真壁郡下館町(現:筑西市)が条例で「18歳未満による夜の外出は親との同伴が必要」と定めたのが最初と言われている。その後、50年に岡山県が図書による青少年の保護育成に関する条例を制定したのをきっかけに、全国の都道府県や市町村で制定されていったようだ。
 
 そうした世相もあり、50年に露骨な性的描写で『チャタレイ夫人の恋人』(小山書店)が警視庁に摘発され発禁処分となったり、55年頃には“悪書追放運動”が盛んとなり、故・手塚治虫さんの『鉄腕アトム』を含む漫画を校庭に集めて“焚書”するという暴挙も発生。

 68年に週刊少年ジャンプ(集英社)で『ハレンチ学園」(作/永井豪)の連載がスタートすると、全国の小学校でスカートめくりが大流行。70年に三重県四日市市の中学校長会が問題視し、四日市市少年センターが三重県議会に有害図書指定を働きかけるが、実現には至らなかった事例もある。

 そのほか、漫画では『いけない!ルナ先生』(作/上村純子)、『激烈バカ』(作/斉藤富士夫)、『ふたりエッチ』(作/克・亜樹)、『殺し屋1』(作/山本英夫)、『多重人格探偵サイコ』(作/大塚英志)などが各自治体で有害図書指定された。

 他方、97年に『完全自殺マニュアル』(著者・鶴見済)が自殺を誘発するとして群馬県などで有害図書指定。00年には、爆弾事件で犯人が爆発物を製造の参考にした『危ない28号』が全国18都道府県で有害図書指定されるなど、社会的な事件の影響を受けて指定されるケースもあった。

熾烈を極めた『ハレンチ学園』への批判 永井豪は“表現”で対抗

 こうした取り締まりに対して、日本のクリエイターたちは“教育者”や“PTA”と戦い続けてきた。前出の『ハレンチ学園』に至っては、PTAやメディアからのバッシングは熾烈を極め、作者である永井氏への人格攻撃にまで発展したようだ。それに対し永井氏は漫画表現で対抗。具体的には、ハレンチ学園と「大日本教育センター」の教育関係者たちが戦争を行い、敵も味方もなくただ倒れていくという激しいストーリーを描き、教育制度への痛烈な皮肉を描いたのだ。

 今年、1月5日に放送された『アナザースカイ』(日本テレビ系)で永井氏は、教育団体に叩かれても“破廉恥漫画”を書き続けた理由を次のように明かした。「子供の頃から少年たちも異性に対する興味がある。それを健全な形で漫画で発散せていく方がかえって、性犯罪を呼び寄せることにならないはずだ」。

 事実、教育者から叩かれ続ける永井氏には、子ども達から手紙や電話で賛同や応援の声が大量に届いた。永井氏はそれを見て「自分が叩かれても(番組などに)出ていこう」と決意したようだ。

 一方で、こうした騒動を力に変えるのも“クリエイター”ならでは。永井はこのバッシング以後、権力との戦いを風刺した作品や、暴力性や善悪入り混じる“人間性”の描写で人気を博し、トップ漫画家としての名声を盤石のものとした。

クリエイターの表現を制限する“自主規制”の壁

 とは言え、“自主規制”に対してはクリエイターが単独で抗しえない面もある。89年ごろ、特定の漫画に対して「猥褻・有害」であるとして、一部の漫画を排除しようという「有害コミック騒動」が起こる。それらの影響で『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』(作/萩原一至)の9巻は表紙を修正。遊人の『ANGEL』に至っては週刊ヤングサンデーの一時休載を余儀なくされ、単行本も書店から回収され絶版となった。

 こうした自主規制の動きに対し、17年12月18日放送の『AbemaPrime』(AbemaTV)で漫画家の江川達也氏は、「僕も昔、エロ表現で訂正させられた経験がある」と告白。「勝手にやられたことではなかったが揉めた。週刊少年ジャンプの『まじかる☆タルるートくん』で、全部ボツにされ、締め切りがあと1日しかない中、全く違う、エロくも何ともない漫画を描いた」という。

 その背景について、「マイナーな漫画誌に警察が入って捕まったという事件があった時で、出版界全体が自主規制に入った」と振り返った。同番組では、元都知事で作家の猪瀬直樹氏が「子どもの手が届かないところに置くという“ゾーン規制“」のあり方も含め、業界内でのルール作りを訴えていた。

 確かに、目を覆いたくなる過激な「エロ」「グロ」の漫画表現もあるが、“表現の自由”は尊重されるべきであり、安易に“読めなくする”考えには反対する声も多い。そのため、有害指定の図書を決めるとしても、現状のような各地自体ごとの“あいまい”な基準による指定では、今後もこのような騒動は続くだろう。今回の件を受け、いま一度“表現”と“規制”について考えるタイミングなのかもしれない。

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