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ORICON NEWS
『R-1ぐらんぷり』に見る、ピン芸人成功の難しさ
ピン芸人の話題は“異色”に偏る傾向に
フリーの芸人兼OLのカニササレは、準決勝で「雅楽の演奏家」という設定で、楽器の笙(しょう)を演奏しながらネタを披露。ネタ同様に会社員としての仕事内容も“和風”かと思いきや、人型ロボット「Pepper(ペッパー)」の脳内を操るロボットエンジニアという最新のテクノロジーを使った職業だという。一方、濱田は左目は全く見えず、右目も明るさがわかる程度であるという盲目の漫談家。昨年10月に行われた『平成29年度 NHK新人お笑い大賞』の決勝にも駒を進めるなど、メキメキと頭角を現し自身の経験に基づくネタをテンポよくしゃべり倒してファイナリストの座を勝ち取った。
また、今回のR-1グランプリの予選段階では、ホリエモンこと堀江貴文がエントリーすることも話題に。ホリエモンは『ドラえもん』の、のび太をイメージしたという衣装で登場し、将来の夢についての作文を読み上げるというネタを行い健闘するも、2回戦で敗退。ホリエモンのニュースも各社が報じ、ひとつの盛り上がりを見せたのだ。こうした異色の経歴や、破天荒な芸について注目が集まる背景には何があるのだろうか。
コンビよりも極端に“武器”が少ない! 実は高度な実力が求められるピン芸
コンビ芸ならば、正統派漫才のほか、コントならばさまざまな設定で多彩なシチュエーションを作り出すことが可能だ。さらにボケ、ツッコミ、最近ではWボケやツッコミ合戦、ボケとツッコミのスイッチというような新しいスタイルも見受けられる。一方、ピン芸人は、構成・ボケ・ツッコミといった“役割”を自分1人ですべてこなさなければならず、そのうえで分かりやすく笑えるものに仕上げなくてはならない。非常に高度な構成力が求められるのが“ピン芸”なのだ。
『R-1ぐらんぷり』は開催当初、サブタイトルに「The Freestyle "WAGEI" Bout」を冠していた。参加者のお笑いへの手法はまさに“フリー”で、芸人たちが“ピン”でできることならなんでもアリの大会だ。異色の経歴や、他者ができないオンリーワンの特技を武器にするのは自然な流れであり、その結果「異色」とも評されるのはある意味仕方ない。ピン芸人の悲しい宿命ともいえるだろう。
“異色”はオンリーワンを貫いた結果、しかし諸刃の剣でもある
ネットではYouTubeや多くのメディア、時にはTV番組でもでアキラ100%のネタをスロー再生し、本当に見えていないのかを検証するといったことも数多く見受けられるが、いまだ「見えた」という事実はない。何をもって“お笑い”とするかは難しいところだが、アキラ100%の裸芸は、は少なくとも“技術”としては芸といえるだろう。事実、多くのR-1王者がその後も継続的に活躍する例が少ない中、優勝から1年経った今も芸能イベントで引っ張りだこであることからも需要はあるようだ。
さまざまなピン芸の形があるが、古典的な「漫談」「モノマネ」「1人コント」フリップなどを用いた「小道具芸」…やりつくされた中で自分だけのお笑いスタイルを突き抜けた結果、“異色”と称されることもあるのだ。
体を張ったピン芸は決して“異色”ではない! 如何に“独自フォーマット”を構築するかで明暗
ケンド―コバヤシは、博識を武器に『アメトーーク!』(テレビ朝日系)などトーク番組で存在感を発揮。知らない人にもニッチなジャンルを面白おかしく紹介する“プレゼン企画”では外せない芸人となった。バカリズムは『IPPONグランプリ』(フジテレビ系)で過去最多優勝タイ(ネプチューン堀内健と並ぶ3回)を果たしており、画力を生かしたフリップ芸や大喜利の実力者として知られている。陣内智則はBGMと音楽を駆使した“1人コント”を武器にネタ番組には欠かせない存在になり、今回の『R-1ぐらんぷり2018』の審査員も務める。劇団ひとりは芸名にも表れている通り、様々なキャラクターを演じ分ける一人芝居風の“憑依型”の笑いを披露し、その演技力は芝居のフィールドでも引っ張りだこだ。
また、ベテラン芸人を例にとっても、出川哲朗や江頭2:50の強烈なリアクション芸は、現在のバラエティになくてはならない貴重な芸であることは周知の事実。つまり、体を張ったリアクション芸は決して異色でも色ものでもなく、ピン芸人にとっては、ある意味“正統派な芸”なのだ。そこにどのような自己流のスパイスを加え、視聴者に飽きられること無く、よりソリッドに芸を構築していくかで明暗が分かれる。
先述のアキラ100%や彼ら売れっ子ピン芸人のように、自分だけの“お笑いフォーマット”を見つけられる稀有な才能でないと継続的な活躍は難しいのかもしれない。今年の『R-1ぐらんぷり』でも、傑出した力を携えたピン芸人による、新たなお笑いフォーマットの提示に期待したい。