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3年半ぶりの新曲に絶賛の声 他を圧倒する宇多田ヒカルの“凄み”
母となり慈しみに満ちた愛情を感じさせる“柔らかな歌声”
2012年の「桜流し」を発表後、「人間活動」中に宇多田は“母”となった。その経験は間違いなく彼女の音楽に大きな変化をもたらしただろう。そのひとつが“慈しみ”に満ちた愛情を感じさせる歌声かもしれない。ネットでも、「お母さんって声に変わってて印象が全然違っててちょっとびっくり」、「天才少女が天才お母さんになったなーって実感」といった声が寄せられていた。初期の彼女の歌声にはキレがあり、それが日本人離れしたグルーブと結びついて多大なインパクトを植え付けていたといえるが、今作では包み込むような懐の大きさとたくましさ、優しさを兼ね備えた“大人の女性”の声が耳に心地いい。
前出の「桜流し」や2004年発表の「誰かの願いが叶うころ」などもピアノの音とともに宇多田のボーカルが聴こえてくる構成だが、それらが憂いを湛えた表情を見せているのに比べて、今回の2曲では“ぬくもり”を感じずにはいられない。これが、「人間活動」のもたらしたものなのかどうかは定かではないが、少なくとも、「世俗」というこれまで(彼女にとっては生まれたときからずっと「音楽」がすぐ隣で呼吸をしていた環境だったと思う)とは全く異なる世界の中で、心身をリセット、リフレッシュさせ、さらに新しい人生を進むことになった「経緯」が連れてきたものといえるだろう。
その歌声は被災者の心にも深く浸透「ヒッキーの歌聴いて、安心するよ」
上述したように、ここには限りない“慈愛”が満ちている。大人の女性へと姿を変えた宇多田ヒカルが“等身大”のままで歌いかけてくる。だから、聴く者は温かいものに包まれ、感動の波に飲まれる。「Automatic」のようなセンセーショナルな曲での再登場を予想した人も少なくないだろう。また、「First Love」のような初期の頃を彷彿とさせる楽曲を望んだ人もいただろう。しかし、彼女は敢えて「人間活動」で学んできた自分を“素”のままで作品にした。「人間活動」とは「人」を知り、「自分」を見つめること――彼女は何も言わないが、この2曲を耳にしていると、そのように感じられてしょうがない。
これまでも、ツイッターを通して自身の声を届けてきた宇多田ヒカル。新曲の告知をした際、16日未明に熊本県で発生したマグニチュード7.3の大地震での被災者に対し、ツイッターでメッセージを送った。その宇多田の呼びかけに、「熊本にパワーを贈って!」「ヒッキーの音楽に元気付けてもらえると思う」といった声や、実際に被災者からも「地震怖かったけど、少し元気出た!!」「怖いよ。でも、ヒッキーの歌聴いて、安心するよ」と宇多田の歌に元気をもらった人も少なくない。
今回、2曲同時に新曲を発表した宇多田に対し、「復活した宇多田ヒカルがやっぱ天才!」といった声が多い。「人」としてのスタンスを構築させた彼女は、人々の感情を自在に操る「武器」を手に、より「人間の深遠」を究めるべく、次なる一歩を踏み出そうとしているのかもしれない。“凄み”すら増した宇多田ヒカル、まさしく孤高の存在である。
(文:田井裕規)