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寺島しのぶ、独自の演技感とは「リアルに演じることが私の使命」

 古風な母親役を演じているNHK連続テレビ小説『あさが来た』から一転。映像配信サービスdTVで配信中の『裏切りの街』は、専業主婦と年下男性の関係を描いたリアル不倫ドラマだ。寺島しのぶはここで倦怠を抱えながらも自分を変えられない主婦・智子を“リアルすぎるほどリアル”に熱演。徹底してリアリティを追求したその演技とドラマの世界観はどのように作られたのか。男社会の歌舞伎界に“女性”として生まれた、寺島ならではの“芝居観”と共に語ってもらった。

“ため”の芝居は得意ではない

――『裏切りの街』は、登場人物のリアルなセリフとそのやりとりが印象的でした。特に寺島さん演じる智子と、相手役の池松壮亮さん演じる菅原の“もどかしさ”はリアル過ぎて、観ているほうも恥ずかしいやら、じれったいやらで(笑)。
寺島 やっている私もじれったかったです(笑)、でも毎回、三浦(大輔)さんと私と池松(壮亮)くんでリアリティーを出すためにシーンを組み立てて行く作業をしまして。特に菅原と智子が初めてホテルに行くシーンはこだわったところで、ずっと長回しで撮っているんですが、エキストラを使わずゲリラ的に撮影したんですよ。

――荻窪で?
寺島 そう、荻窪で(笑)。それを見ていた通行人の方々が声を掛けてきて、何度も撮影が中断してしまったんですね。しかも夕方になると“へべれけ”のオジさんとかも入ってきちゃったから、日も暮れてしまって、結局日を替えて2日間かけてワンシーンを撮り直しました。でも、それぐらい監督も私たちも納得するまで撮りたかったシーンだし、これだけ長回しの空気感を楽しむのは舞台出身の監督らしいというか。切り取りだけでこのシーンいいですねっていうんじゃなくて、その前後の空気感にも嘘がないようこだわるのは、舞台という360度の世界を見ている人ならではの視点だなと。だから私たちもお芝居に関しては監督を絶対的に信頼していたし、監督が何をもってオッケーって言うのかもすごくよくわかったんですよね。

――監督と演者さんとの間に“あ・うん”の呼吸があったと。
寺島 でもそれがものすごく繊細だから、ほんのちょっと崩れただけで「もう1回、いきましょうか」ってなるし、私たちも「あ、そうだよね」って、そのポイントをキャッチできる。そこらへんは私も監督の作品は舞台に続いて2本目だし、池松くんや他の共演者も三浦さんを楽しむ人たちだったので、互いの呼吸がわかるんですよ。だから撮影はものすごく濃密だし、ものすごく時間がかかるし、スタッフさんも大変だと思います。出来上がった作品を観たとき、空気がまったく途切れずに一気に引き込まれてしまった。(監督を)信じて良かったなと思いました。

――寺島さんの“演技じゃないように見える演技”も、観る者を引きこんでいく理由のひとつだと思いました。
寺島 演技に関しては池松くんや夫役の平田(満)さん、相手役の方と会話することで自分も変わってくるから、私だけの問題ではないんですよ。いかにも“芝居やっています”って人と絡んでいないから、必然的に私もそちらに引っ張られていく。そこについていけばいいっていう感覚でした。それに元々、智子は攻撃的な女性ではないし、最後の最後まで自分から仕掛けていくことはないので、そこらへんは相手の出方を見て、私は合わせるだけっていう感じでした。

――いわゆる受け身の芝居ということだと思いますが、寺島さんの“ためらい”の芝居は絶妙でした。数秒の“ため”の表情の中に、あらゆる複雑な感情が詰まっているなと。
寺島  でも、決して“ため”の芝居は得意ではないですよ。すぐにリアクションするほうが簡単だし、私も自分の性格上、ためずにパッと言っちゃうほうですからね。なのに智子は何を言われても噛み砕いて噛み砕いて、さらに返事の「はい」が3秒後ぐらいに出るってタイプ。実際にそんな女性がそばにいたら「おい!」って、思いっきり突っ込んじゃいます(笑)。

――確かに、智子は打っても響かない女性ですね(笑)。
寺島 そうそう。だから最初はうわって思いました。でも、とにかく監督がブレない人なので、私が「今日の撮影はちょっと早く帰りたいから、“はい”の間を短くしよう」とかちょっと思ってたりすると「あ、早いっすね」って、すぐバレるっていう(笑)。三浦組に入ったら、早く帰れないっていうのがよくわかりました。でもそのおかげで久しぶりに“撮り切られた”っていう実感があるんですよ。『ヴァイブレータ』以来かな、すみからすみまで撮り切られたっていう感覚は。

池松くんのような人が、映画界を盛り上げていくんだろうなって感じました

――逆に“撮り切られていない”っていうのはどんな感じなんですか。余白が残っている感じ?
寺島 それもあるし、出来上がったときに自分が思っていた表現方法とはちょっと違うなとか、そんな感じですかね。映像っていうのは監督さんが決めるものなので、どっちが良いとか悪いとかってことではないんです。でも三浦さんとは演技の好みが合う気がします。ご一緒するのはまだ2回目ですけど、監督はこれが好きなんじゃないかなっていうのがなんとなくわかったので、これはまた新しい出会いなのかなって思いながらやっていました。

――相手役の池松壮亮さんは共演されてみていかかでしたか?
寺島 池松くんは本当に信じさせてくれる人ですね。菅原ってこういう人だよねって、まさにそのままで立ってくれているというか。「朝、おはようございます」って入ってくるときも、バイバイするときも、ずっと雰囲気を壊さずにいてくれる。それは素晴らしいと思うし、こういう人が映画界を盛り上げていくんだろうなって感じました。

――でも、池松さんは年上の寺島さんが相手役で緊張されたのでは?
寺島 ないないない、絶対ないと思うし、誰とやっても大丈夫ってところはあるんじゃないですかね。

――『裏切りの街』は2人のベッドシーンも話題のひとつですが、そこも緊張せずに?
寺島 そこもね、三浦さんの現場だから。逃げ場がないし、やるしかないし、で、やったところで誰もうがった目で見ない。本当に三浦イズムをわかっている人たちの集まりだったので、洋服を着て芝居するのと同じくらい、何の抵抗もなくできました。例えば監督や作品によっては「このシーンいるかな?」ってこともあると思うんですよ。でも、こういうシーンが必要なんだって意味がわかっていれば何も怖くない。そこを決して中途半端には撮らない監督の誠実さって部分もわかっていますからね。しかも、相手役の池松くんがまた自然児みたいにずっと全裸でいるような子なので、こっちもすごく安心できる(笑)。かと思うと、カットがかかった瞬間、さっと私を抱いて胸が見えないように隠してくれたりとか、そういうところはもう彼は職人なんです。だから、池松くんじゃなければ智子と菅原のあの雰囲気は出せなかったと思いますよ。

――その一方、智子と夫・浩二の間に流れる、嫌悪が混ざった倦怠感も怖いぐらいリアル。なんで智子はこの人と結婚したんだろう?って、めちゃくちゃ不思議でした。
寺島 きっと智子はすべて“なんとなく”生きてきてしまった女性なんでしょうね。地元の田舎から東京に出たいとか、この人なら生活には困らないなとか、なんとなくの理由でなんとなく結婚しちゃった。でも孤独はつのるばかりで、1日、自分は何やっているんだろうって生活が続き、好きなお笑い番組を観るぐらいでしか心が満たされないんですよね。

――そんな智子さんに共感ポイントはありました?
寺島 みんな、智子みたいな部分は大いにあると思いますよ。あの結末までいってしまうのはどうかと思います。でも40歳ぐらいで人生も半ばになると、この旦那と一生一緒にいるのかなとか、自分は生涯、このままで終わるのかなとか、いろいろとふっと思うじゃないですか。そんなときに「お笑いのセンスわかってますね」って言ってくれたり、ちょっとした間で一緒にくすっとできる笑いのツボが同じ人が現れたら、救世主みたいに見えてしまう。しかもその相手も“なんとなく”生きていて、彼を通して自分を見るんでしょうね。「俺たち、こういう感じだけど、ちゃんとやればできますよね」って励まし合うみたいな、そういう風に生きている人はたくさんいるんじゃないかな。で、そんな2人の空気をリアルにセリフに起こす三浦さんは天才的だと思いますよね。

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