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“憑依”を超え役ごとに“転生”、山田孝之が重宝されるワケ
脱“爽やかイケメン”で、クリエイターらの支持を獲得
写真:逢阪 聡
しかし、24歳のときに公開された映画『クローズZERO』では、うっすらヒゲを伸ばして軍団の頭を張るヤンキーを演じ、ワイルドさを見せる。以降は出演作を自分で台本を読んで決めるようになったそうで、ドラマから映画中心にシフトチェンジ。同時に役幅も広げ、深夜枠で4年ぶりに主演したドラマ『闇金ウシジマくん』(TBS系)では、アゴヒゲに丸メガネで冷酷な主人公を演じ、久しぶりにテレビで彼を観た視聴者を驚かせた。
アイドル的イメージを覆した彼に、多くのクリエイターからオファーが相次いだ。『33分探偵』(フジテレビ系)や後の『コドモ警察』などで注目された福田雄一氏の初監督映画『大洗にも星はふるなり』に主演。その後、低予算を逆手に取った手作り感で笑いを誘った深夜ドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズ(テレビ東京系)でもタッグを組んでいる。マネキンを使ったドラマ『オー!マイキー』(テレビ東京系)が人気を博した石橋義正監督のファンタジックな映画『ミロクローゼ』では、金髪おかっぱ頭の外国人など1人3役で主演。自ら望んで出たシュールなコメディ『荒川アンダーザブリッジ』の飯塚健監督とは、携帯配信ドラマ『REPLAY&DESTROY』で主演を務める関係に。この作品は一部で話題を呼びつつDVD化されなかったが、山田が飯塚監督と共に発起人になってスタッフとキャストを巻き込み、テレビ局にドラマ化を提案。この4月からTBS系での放送にこぎつけた。
規模や放送枠に拘らず内容重視の姿勢に共感
そんな山田はどんな役にもなり切る“カメレオン俳優”と呼ばれるひとりだが、他の俳優と違うのは、自身の出自さえ消してしまっているところ。アイドルや舞台、芸人出身など俳優にはそれぞれルーツがあり、年齢を重ねて演技者のオーラをまとっても、どこか“お里”の匂いが出るものだが、今の山田孝之からはアイドル俳優の痕跡を不思議なほど感じない。これはヒゲのある・なしの違いだけではないだろう。知識として彼の過去を知らなければ、何者なのか想像しにくい。
カメレオン俳優というと役に“憑依”するイメージだが、彼は1つひとつの役ごとに“転生”までしている印象がある。インタビューで「撮影に入ったら自分をすべて否定します。役の人生を全うしなければ気が済まない」と語っていたこともあった。その積み重ねから演技上では自らの過去がゼロに清算されたのだろうか。
それだけにシリアスからコメディまでどんな役にも対応できるし、作品ごとに違う扉が開く。先鋭的なクリエイターは往々にして「有名でも手垢のついた俳優より、まっさらな新人を使いたい」という意向を持つが、山田孝之は有名で演技力もあるうえ、作品ごとに過去の自分をリセットして臨む点では、ある意味新人のようにまっさら。キャスティングしたくなるのも当然か。しかも、自身が作品の規模や放送枠にこだわらず出演を決めていて、『北区赤羽』のような深夜の実験作も面白がってくれる。結果、視聴者も山田孝之に飽きることがない。彼のファンでなくても、出演した作品が心に残っていることは多いのではないだろうか。
(文:斉藤貴志)