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好調な新シリーズ、NHKでの再放送…未だ衰えぬ『セーラームーン』人気の理由

 現在、ニコニコ動画などで配信中の新作アニメ『美少女戦士セーラームーンCrystal』の地上波での放送開始が決定した。同作品は「美少女戦士セーラームーン20周年記念プロジェクト」の一環として制作され、昨年より全世界同時配信が開始され、話題となった。1992年にテレビアニメ『美少女戦士セーラームーン』(テレビ朝日系)が放送開始され、今年で23周年を迎えるが、生まれた子供が大学を卒業するほどの長い年月が過ぎた現在でも、何らかの形で『セーラームーン』に関するニュースを目にする。なぜ『セーラームーン』の人気は衰えないのか? その秘密を探るために、時間を23年前に巻き戻し、改めてその人気の秘密を探ってみた。

『セーラームーン』以降、“少女漫画原作”の戦うヒロイン(魔法少女)が定番化

 1992年3月7日、アニメ『美少女戦士セーラームーン』が放送開始。時間帯は毎週土曜夜7時というゴールデンタイム。今となってはゴールデンにオンエアされるアニメはごく少数だが、当時はまだそこまで珍しくはなかった。むしろ深夜アニメがほとんどなかった時代、子供たちから一般の学生や社会人、あるいはいわゆるアニメオタク層まで、大勢の視聴者がこぞって同じアニメを観ていても何の不思議もなかった。また、前週まで放送されていた『きんぎょ注意報!』も当時の人気作品だったため、その流れで『セーラームーン』の第1話を視聴した人も少なくなかったはず。スタート時点から注目を集める環境は整っていたといえる『セーラームーン』だが、実際に放送されたその内容は、視聴者の期待を大きく超えた革新的なものだった。一夜にしてテレビアニメの歴史が塗り替わったといっても過言ではないだろう。

 どこにでもいる普通の女子中学生、月野うさぎ。泣き虫でドジな彼女はある日、人間の言葉をしゃべる不思議な黒猫と出会い、美少女戦士セーラームーンに変身する力を与えられる。その使命は、月のプリンセスを探し出して守護すること――。こうしてあらすじを書き出してしまうと、どこにでもある何の変哲もない物語と思われるかもしれない。しかし、今となっては「どこにでもある」ものでも、この時点ではまだ“どこにも”なかったのだ。まず、少女漫画を原作としたアニメで、ヒロインが変身して戦うというコンセプトそのものが斬新だった。それ以前の“戦うヒロイン”の代表格といえば『キューティーハニー』がすぐに思い浮かぶが、こちらは少年漫画が原作。コスチュームなどセクシーさを前面に押し出した作りで、女の子の憧れと呼ぶには少しかけ離れたものとなっていた。(余談だが、『セーラームーン』シリーズの後番組として1997年にスタートしたリメイク作『キューティーハニーF』は少女漫画テイストの強い作風となっている。これもまた『セーラームーン』が強い影響力を及ぼしたひとつの事例といえるだろう)

 また、「普通の女の子が偶然に手に入れた不思議な力で変身する」という点で、『セーラームーン』は魔法少女アニメの系譜に位置するといえるが、それ以前の魔法少女アニメで変身するものといえば、様々な職業のプロフェッショナルやアイドル歌手など、現実の延長線上にあるものが主流だった。描かれる内容も、身の周りの問題を魔法で解決したり、主人公自身の成長を描いたりと日常に寄り添ったものがほとんどで、悪者との対決なども皆無ではなかっただろうが、メインの見せ場となることはなかった。魔法少女なのに、戦う。この大胆な作風が女児を中心とした幅広い層に受け入れられたことで、以降の魔法少女アニメの多くがバトル要素を取り入れることとなる。2014年に10周年を迎えた『プリキュア』シリーズや、深夜アニメの『魔法少女まどか☆マギカ』など、例を挙げればキリがないほどだ。

◆“女の子は憧れ”“男性ファンは熱狂”性別越え虜にした『セーラームーン』

 革新的なコンセプトを掲げて始動した『セーラームーン』とはいえ、ただ尖っているだけでは視聴者の支持を得られることはない。最も重要なのは、女の子が憧れるであろう要素がしっかり丁寧に描かれていたこと。ドジで泣き虫なヒロインは優等生タイプの主人公よりも子供たちの共感を得やすいし、あくまで自分が主役として戦いながらも、時にはタキシード仮面のようなイケメンに助けてもらえるストーリーは、女の子にとって理想的なシチュエーションであろう。変身の掛け声も「変身!」ではなく「メイクアップ!」。自分と全く違う存在に生まれ変わるのではなく、自分自身が美しい戦士へと変わるのだから、ちょうどお化粧に興味が出てくる年頃の女の子たちの心をつかんだに違いない。

 一方で『セーラームーン』は、男性ファンが熱狂するような要素も少なからず含んでいた。『セーラームーン』の仲間として登場するセーラー戦士たちは個性豊かなキャラクターばかりで、アイドルグループのメンバーから推しを決めるように、お目当ての戦士の活躍を見るだけでも十分すぎるほど楽しめていたはず。色分けされた複数の戦士によるバトルシーンは『スーパー戦隊シリーズ』などを彷彿とさせて、男性ファンでも作品世界に入りやすかったはず。セーラー服をモチーフとしたコスチュームは直接的なセクシーさはないものの、それがかえって健康的なお色気となって世の男性たちをドキドキさせていた。

「セーラームーンになりたい」願望が様々なコラボ商品に投影

 本来のターゲットである女の子には憧れの存在として、男性ファンにはアイドル的存在として、人気キャラクターとしての確固たる地位を築き上げた『セーラームーン』。5シーズンにわたるテレビアニメが終了した後も、再放送やミュージカルの上演、実写ドラマの制作など『セーラームーン』の灯が消えることはなかった。その人気は海外にまで波及し、外国人による『セーラームーン』コスプレも定番となっている。やがて時が流れて、シリーズが20周年を迎えると、かつて『セーラームーン』に憧れた女の子たちは大人の女性になり、本当に“メイクアップ”できるようになっていた。PEACH JOHNから発売されたコラボ商品の下着が完売したのは、それだけ多くの女性が「本物のセーラームーンになりたい!」という願望を実現させようとしたからともいえる。下着だけでなく、近年発売される『セーラームーン』のグッズはどれも売れ行きが好調で、人気の健在ぶりをうかがわせた。あるいは20周年を機に「セーラームーンになりたかった、あの頃」を思い出した人も多数いるだろう。こうして『セーラームーン』復活の機運が高まってきたなか、満を持して世に放たれたのが『美少女戦士セーラームーンCrystal』である。

 これまでネット配信のみということで、どうしても視聴者層が限られるという点が否めなかった『〜Crystal』ではあるが、地上波での放送開始となればより視聴者層・ファン層の拡大が期待できる。放送局や放送開始時期の発表は今後となる予定で、気になるのはどの時間帯、どの放送枠になるかというところ。今の子供たちにも視聴可能な時間帯ならばこの先10年、20年、30年……と『セーラームーン』と普遍的なコンテンツになる可能性は十分にあるはずだ。

(文:仲上佳克)

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