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心が「動く」ユーモア術 〜Lesson1 笑いは“能力”ではなく“技術”〜
レッスン1は日本人に誤解されがちな「ユーモア」とは何か、基本的な考えを解説。
レッスン2ではユーモアセンスを身に着けるための基礎トレーニング方法を紹介する。
大島希巳江さん
神奈川大学 外国語学部 国際文化交流学科教授。国際ユーモア学会会員。専門分野は異文化コミュニケーション・社会言語学・ユーモア学。コミュニケーション全般、および英語教育における”笑いとユーモアの効果”を専門研究としている。その一環として1997年から英語落語の海外公演をプロデュースし、自身も古典・新作落語を演じ、自ら司会を務めるなど意欲的に活動中。アメリカ、フィリピン、インド、ブルネイ、パキスタンなど海外公演は世界約20カ国、200回を超える。また、企業の営業成績とユーモアとの関連性、英語習得に効果のあるユーモアやジョークについてなど、幅広い講演活動を行っている。
「ユーモア学」とは?
国際化が進む日本はユーモアが必要
その理由に、日本の文化があるようだ。
「昔は基本的に日本人だけで暮らしていたから、無理に笑わせる必要がなかった。お互い信用できるし、この人怪しいなと思う必要もない。常識も価値観も一緒の人たちで成り立っている国だから、昔は衝突が少なかったんです。一方、ジョークを飛ばす、陽気で明るいイメージのあるアメリカ、オーストラリアのような国は移民が多く価値観・文化の違いから人が衝突しやすい傾向にあります。ちょっとしたことで人種差別になってしまいます。悪気なく言ったことで人を傷つけてしまうことを避けるために、たくさんジョークを言うんです」
日本には長年ユーモアの需要がなかった。でも最近は日本社会にも「グローバル化」「ダイバーシティ」「多様性」といった考え方がたくさん入ってきている。個性が増えることで衝突の可能性が増えている今、笑いが必要になってきていると大島先生は語る。
「私は、日本人に海外のユーモアを伝えようと思って研究しています。日本には笑いが必要なんです、と言われるようになったのはこの10年くらい。実際、ユーモアをテーマに講演の依頼や企業の研修をする機会がすごく増えています。「社員にユーモアが無い」「職場が暗いのでなんとかしてほしい」という依頼ですね。外資系のグローバル企業でスタッフの衝突をユーモアでケアするというコンサルティングも行っています。日本でも間違いなくユーモアの需要は増えています。異文化同士のコミュニケーションにユーモアは必要不可欠なのです」
世界で披露する落語が理論の裏付けになっている
ユーモアは”能力”ではなく「技術」
「実は日本語にはユーモアに値する言葉がないのです。文化というものは、こだわりがあるものは単語をたくさん用意するものです。海外ではComedy、laughter、humourなどお笑いを表す言葉がたくさんあります。日本語ではすべて「お笑い」。現象の「笑う」に「お」を付けただけです。わははという“身体的な笑い”も、“ユーモア”も「笑い」という一単語で網羅しようとしている。関心がないことの裏付けですね。
「現象としての“笑い”と“ユーモア”は別物です。人は、ユーモアの結果として笑います。アハハって笑わないユーモアもあるんです。心がくすぐられるものがユーモア。職場で使えるユーモアはそっちいでいいのです。職場でがははと笑うわけにはいかないですからね。くふふって心が笑うのがユーモアです。
「人を笑わせるのはコメディアンしかできないけれど、ユーモアを使うのは誰でもできる」と、アメリカでは言われています。心を笑わせることは技術や考え方でできるんです。ユーモアは“先天的な能力”ではなくて、“技術”。日本では面白い人のことを「一部の特殊な才能を持って生まれた人」と思っている人が多いのですが、それは間違いで、実はコミュニケーションの技術なんです。アメリカ人が全員面白いわけではなく、技術として身に着けている人が多いのです。ユーモアは学べば身に着けることができるものなんですね。
ユーモアの定義は「常識からの逸脱」
「僕は寿司でいうとガリなんです」
(高級ネタではなく、下のほうのものに例えるのも上手ですね)
「僕はガリですが、最高級のトロ(商品)を売っています。でも、トロばかり食べているとそのありがたみが分からなくなります」(脂っぽくて食べ飽きてしまうかもしれません)
「トロの良さをよく理解するために、間にガリを食べないといけません。ぼくがガリとして説明を加えることによって商品の本当の価値が出る。だから僕からトロ(商品)を買うといいですよ」。
「大笑いどころか、クスッともしないですが…これもユーモアです。この人うまいこと言うな、頭いいな、分かりやすいな、と思いますよね? 「美味いこと」言うもんだなと思います(笑)。それが、心が動いた証です。
国際ユーモア学会でも認められているユーモアの定義があります。それを一言で言うと「常識からの逸脱」です。笑いを極めた人は「普通からのズレ」とか同じようなことを言いますね。普通じゃないことがユーモア。普通に考えたり、普通だとユーモラスになれない。普通じゃない別の切り口で見ることがユーモアとして大切なんです」
ユーモアとは 深刻な空気を和ませるもの
「今年、私の父が亡くなりました。大往生で、理想的な亡くなり方だったので、私としては吹っ切れていました。でも、そんな事情は周りの人は全く知らないわけです。当然大学でもお休みをいただきましたし、復帰後はみんな「この度はご愁傷様です…」と腫物に触るような感じになってしまって。大学の会議でも神妙な空気になって、なんとかその緊張感を壊してあげたいなと思いました。
お香典返しを配ると、すごい暗い雰囲気になると思ったので、海苔やお茶漬けといった定番品じゃなくて、おいしいパティスリーの焼き菓子を選んだんです。「つまらないものですけれど…と言いがちなところですが、これは本当においしいんですよ(笑)。ぜひ食べてくださいね」と伝えたら、少し明るい雰囲気になり、会議の場でクッキーを食べて和みました。そういうようなアイスブレイクでもいいと思います」
(このエピソードのユーモア=「日常からの逸脱」したポイント)
・意外性のある香典返し
・お決まりの挨拶文句を利用したプチユーモア
・クッキーを食べながら会議
「ユーモアは思いやりです。例えばスピーチや人前で話す時には多少ジョークを入れないと、いい話だったとしても退屈じゃないですか。退屈な時間を強制するのは申し訳ないと思う。ユーモアを使わないのはある意味、意地悪なことかもしれません。やらなくたっていいことですけれど、ところどころ笑えるほうが「親切」です。みんな大爆笑をしたいワケじゃない。リラックスしたり、安心できたり、心が緩んだり…それが今必要だと思います」
(Lesson1のまとめ)
・ユーモアは学問として存在する
・笑うことはさまざまなメリットがある
・日本人は海外では笑わない人と思われている
・日本社会にも多様性が進み、ユーモアが求められている
・ユーモアは固有の能力ではなく、身に着けられる技術である
・ユーモアとは「常識からの逸脱」である
・大笑いさせなくてもいい。少し心が動くだけでいい
・ユーモアは衝突を避け、心を和ませるための「思いやり」
・ユーモアは学問として存在する
・笑うことはさまざまなメリットがある
・日本人は海外では笑わない人と思われている
・日本社会にも多様性が進み、ユーモアが求められている
・ユーモアは固有の能力ではなく、身に着けられる技術である
・ユーモアとは「常識からの逸脱」である
・大笑いさせなくてもいい。少し心が動くだけでいい
・ユーモアは衝突を避け、心を和ませるための「思いやり」
Lesson2 ユーモア力が付くトレーニング
・比喩トレーニング
・テクニック ミラーリング
・テクニック 道具を使う
・テクニック 真面目に答えない
・活用法 問題解決をユーモア的に考える
・男女の性質の差を知る
(取材・文 / 加藤由盛)