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韓国の連続猟奇殺人事件を映画化したナ・ホンジン監督インタビュー



 昨年2月に韓国で公開され、大掛かりな宣伝活動をしなかったにも関わらず、500万人超の観客動員数を記録した映画『チェイサー』。連続猟奇殺人事件をモチーフに、犯人に囚われた女を救うため、猛然と走り続ける一人の男の追走劇。精巧に作り込まれた脚本、息もつかせぬほどのハイスピード&緊迫感あふれるダイナミックな展開、そして人間の愚かさや真の闇を、交錯する人間模様の中に見事描き出したのは、本作が長編初監督となる新鋭ナ・ホンジン監督だ。本作でのハードな映像表現が意外に思えるほど、柔和な語り口で撮影裏話などを話してくれた。


◆人は組織に入ると、その組織と一体化してしまう


――韓国で実際に起きた連続猟奇殺人事件を映画にしようと思った経緯は?

ホンジン監督:そもそも動機は、2003年に起こった2つの出来事、イラクにおける韓国人殺害事件と、国内で起こった連続殺人事件。2つの共通点は人が拉致され殺害されたというと。拉致された人たちは、その間どんなに助かりたいと切望していたか・・・、その一方で、周囲からはほとんど気付かれず、忘れ去られていたのではないか・・・、その落差に心が痛みました。

 そして、2004年の夏だったと思います。連続殺人事件の犯人が検挙されたその日の晩、たまたま刑事をしている友人と一緒に酒を飲んでいて、「実はこんなことがあったんだよ」という話を聞いたんです。この映画の中で描いたような出来事が、警察が犯人を捕まえられるチャンスを逃していたことがあったと。そんなことが起きていたのか・・・、それがシナリオを書くきっかけになりました。


――警察組織の問題について言及していますが、勇気のいることだったのでは?

ホンジン監督:例えば市長に汚物が投げつけられるシーンは、シナリオを書いている段階で「こういう場面もあってもいいな」と書き加えたフィクションなんですが、人は組織に入ると、その組織と一体化してしまうということを観客にみせたかったので、意図的に描きました。


――主人公のジュンホはデリヘルを経営する元刑事ということ以外、そのキャラクターについては劇中でほとんど説明されません。殺人鬼ヨンミンの殺人の動機も語られません。それも意図的ですか?

ホンジン監督:はい。誰もがきっとそうするであろう普遍的な理由、過去に何か傷を追っているとか、子供時代のトラウマとか、彼らがあんな人間になった理由となるような要素はあえて、排除しました。実際の社会もまた、善悪だけは割り切れないし、因果関係も明確でないことがほとんどだと思うからです。観客が自分なりに解釈ができるように余白を残しておこうと思いました。

 それに、犯人がどうして殺人を繰り返したのか、きっと誰にもわからないのではないかと。私が思うに、本人ですらはっきりとした理由を聞かれてもわからないんじゃないかなと思います。殺人鬼と言われる人たちがどうしてそんなことをするのか、私自身も理解できないし、理解したいとも思いません。


◆36時間ぶっ通しで撮影したこともありました


写真手前の連続殺人鬼を演じたハ・ジョンウは、日韓合作映画『ノーボーイズ、ノークライ』(09年公開予定)で妻夫木聡と共演するなど、今もっとも韓国で注目集めるスターに成長

――今回の映画製作でもっとも苦労したことは?

ホンジン監督:夜のシーンが多かったのに、夏に撮影したので寄るが短くて、本当に苦労しました。昼のうちにセッティングを整えて、暗くなったらすぐに撮影に入れるようにしたので、昼夜を問わず働く状態が続きました。36時間ぶっ通しで撮影したこともありました。

 出来上がったシナリオに対して、十分な予算組みがなされるべきだと思いますが、現実はなかなかうまくは進まないわけで・・・。予算が足りないからといって後からシナリオを書き換えることも難しい。解決策としては、人が歩いているところを自分たちは走るとか、人が寝ているときに寝ないで働くとか、短期間で撮影を行って経費を削減するしかない。自分たちでカバーできることは、いくらでも苦労を惜しまない姿勢を貫きましたが、スタッフや俳優陣に苦労を強いてしまって大変申し訳ないという気持ちと、やり遂げてくれたことをありがたく思っています。


――映画の評判が口コミで広がり、韓国内の数ある映画賞を総なめにしたばかりか、その勢いはカンヌ国際映画祭から世界へと飛び火。リメイク権をめぐっては熾烈な争奪戦となり、米俳優のレオナルド・ディカプリオ&ワーナー・ブラザーズが獲得したそうですね。

ホンジン監督:ええ、非常に多くの人が、この作品に対して良い反応を見せてくれました。韓国映画界全体が厳しいなか、このような成功を収めることができたのはとても奇特なことだと思っています。今後、私が映画を作っていく上で大きなプラスになるのは間違いありません。

 日本映画では『おくりびと』が米アカデミー賞外国語作品賞を受賞して、心からお祝いを申し上げたいですし、何よりうらやましいです。私もいつかそうなれるように努力します。






PROFILE
ナ・ホンジン(監督・脚本)


1974年生まれ。漢陽大学でインダストリアル・アートを専攻し、その後、韓国芸術総合大学を卒業。2005年、完璧な料理を作れない料理人を描いた短編『A PEREFECT RED SNAPPER DISH』を監督し、韓国のみならず世界中の映画祭で多くの賞を受賞する。その後、資本主義に異論を唱える人々の汗をスローモーションでとらえた白黒の短編『SWEAT』も大きな注目を集めた。本作が長編デビュー作。


(c)2008 BIG HOUSE / VANTAGE HOLDINGS. All Rights Reserved.
『チェイサー』

 デリヘル嬢たちがある若い男と接近した直後、忽然と姿を消してしまうという不可解な事件が発生。女たちの雇い主で元刑事のジュンホは天性の勘の良さから事件の鍵を握る男に辿り着く。「女たちをどこに売った!」激しく詰め寄るジュンホに男が放ったのは、ジュンホと警察全体を揺るがす衝撃的な告白だった・・・

2008年/韓国映画 配給:クロックワークス=アスミック・エース

5月1日(金)よりシネマスクエアとうきゅう他にて全国公開

『チェイサー』公式サイト>>


 

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