| 「売場からベストセラー生み出したい」という思いからはじまった「本屋大賞」 「売場からベストセラーを作ろう」と全国の書店員が有志で立ち上げた本屋大賞。書店員の投票によって決定される文学賞である。第1回大賞受賞作のベストセラー化に、本屋大賞の店頭フェアが一役買ったことで業界内での注目を集めた。メディアにも多数取り上げられ一般的な知名度を増す中で、この度、本屋大賞2007の発表会が開かれた。このムーブメントには音楽業界にとっても活性化のヒントがあるはずという思いから、以下にリポートを記したい。 売場からベストセラーを 全国書店員のお祭り「本屋大賞」 「全国書店員が選んだ いちばん!売りたい本 2007年本屋大賞」(以下、本屋大賞)の発表会が4月5日(木)に明治記念館にて開催された。本屋大賞とは全国の書店員が「いちばん!売りたい本」を投票で選ぶ文学賞である。第4回を迎えた今回の大賞を受賞した作品は『一瞬の風になれ』(佐藤多佳子著/講談社)。高校の陸上部を舞台にした全3巻からなる青春小説である。今年一番書店員の支持を得た文芸書と言ってもいい作品である。 | 佐藤多佳子 佐藤多佳子。1962年東京生まれ。1989年に『サマータイム』で月刊MOE童話大賞を受賞してデビュー。主な著書に『イグアナくんのおじゃまな毎日』『しゃべれども しゃべれども』『神様がくれた指』『黄色い目の魚』『一瞬の風になれ』など。2007年に『一瞬の風になれ』で吉川英治文学新人賞と本屋大賞を受賞。高校陸上部のリレー・チームをモチーフにしたこの青春小説は、4年間に及ぶ高校の陸上部への取材を経て書き上げられた全3巻に渡る大作である。 「小説を書いている人で本屋を嫌いな人はいないはず。自分も子供の頃から毎日のように本屋に通っていた。本屋は行くだけで幸せになれる場所です。そういった私の作品を書店員の方が選ぶ本屋大賞に選んでもらい、とても嬉しいです。『一瞬の風になれ』は書き上げるのに4年かかりましたが、小説を書くことは楽しい仕事。止めたいと思ったことはないです」 なお、『しゃべれども しゃべれども』は今年の夏に映画化公開が決定している。 |
| 大賞以下のベスト10は下記の通り。2位『夜は短し歩けよ乙女』(森見登美彦著/角川書店)、3位『風が強く吹いている』(三浦しをん著/新潮社)、4位『終末のフール』(伊坂幸太郎著/集英社)、5位『図書館戦争』(有川浩著/メディアワークス)、6位『鴨川ホルモー』(万城目学著/産業編集センター)、7位『ミーナの行進』(小川洋子著/中央公論新社)、8位 『陰日向に咲く』(劇団ひとり著/幻冬舎)、9位『失われた町』(三崎亜記著/集英社)、10位『名もなき毒』(宮部みゆき著/幻冬舎)。 2004年に第1回がスタートし、第1回は『博士の愛した数式』(小川洋子著/新潮社)、第2回は『夜のピクニック』(恩田陸著/新潮社)、第3回は『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(リリー・フランキー著/扶桑社)が本屋大賞を受賞。現在はNPO法人本屋大賞実行委員会となり、今回で第4回を迎えるに至った。 商品はトロフィー、全国の書店員の手書きポップをまとめたスクラップ帳、図書カード10万円分。質素だが温かみのある商品である。権威も歴史もない、いち有志のボランティアスタッフが運営する文学賞ではあるが、第1回の授賞式から受賞作家が快く来場し、集まった書店員と交流し、受賞を心から喜んでいるのが伝わってくるスピーチを行っている。書店員の生の笑顔や持ち寄った手書きのポップに込められている熱気や思いが伝わっているからであろう。 本屋大賞のホームページに図書券で購入した本の目録とコメントが後日掲載されていることからも、作家の喜びが伝わってくる。しがらみではなく「自分達が好きな本はこれだ!」と声をあげる喜びや熱気。本屋大賞にはお祭りのような現場のいきいきとした空気が漂っている。 書店員が自分で読んで、選んで、売る、 書店員としての誇りを取り戻そう 第1回受賞作の『博士の愛した数式』のベストセラー化に本屋大賞の店頭フェアが一役買ったことで、出版業界内で認知度を増した本屋大賞ではあるが、世間的に認知度はまだまだの状況にあった。そんな中、第3回受賞作が既にヒット中であったリリー・フランキーの『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』であったことがメディアの注目も集めるきっかけにもなり、今回の授賞式は楽天TVで生中継された他、メディアのカメラも8台入るなどテレビ地上波でもニュースとして取り上げられ、世間の注目も集まるなかで開催された。 授賞式には書店員を中心とした出版業界関係者412人が集まり会場は大盛況。「わくわく」という表現がぴったりの胸の高鳴り感に満ちていた。会場のスタッフや司会なども実行委員を中心とした書店員の手で担われており、書店員のお祭りのクライマックスのひとつがこの瞬間なのだなと実感させる空気感であった。明日からの店頭フェアを控えた前夜祭といったニュアンスだろうか。本当の書店員としての腕を発揮するのは明日からのはずだから。 そもそも出版不況に対して「何かしなければ」というリアクションとして始まった本屋大賞。NPO法人本屋大賞実行委員会理事長の浜本茂氏が開会の挨拶で語った「この賞は書店員のお祭り。書店員が自分達で読んで、選んで、売る。書店員としての誇りを取り戻せればいい」という言葉がこの文学賞を象徴している。それが「書店員の仕事に対するモチベーションを高め、売り上げをあげ、出版業界の活性化に繋がる」(浜本氏談)というわけである。 出版不況と同じく不況下にある音楽業界。特にパッケージの売上げ減少傾向に悩むレコード店にとっても参考になる話ではないだろうか。苦境に置かれているレコード店でここ数年特に見受けられることであるが、日々の多忙な業務に追われコメントカードのケースがあるのにコメントカードのない面陳CDで棚が構成されていたり、ストレスや沈滞ムードが売場の空気として現れてしまっていたりと、「これじゃあお客も楽しくないよな」と思わされることが多くなった。 もちろん顧客サービスを前提とした仕事をしているはずなのだが、それを上回る疲労感に苛まれている売場が多くなっているということであろう。仕方ないと言ってはいけない問題である。どこに行っても同じCDが展開されており、売場にいても楽しくないなら、それこそお客にとってはネット通販で事は済むはずなのだから。 本屋大賞は数人の有志のスタッフから始まった文学賞で、歴史的にも4回と少ない部類に入る。にもかかわらず、これだけの注目を集め、実績を上げているということは素直に認めてもいいのではないだろうか。授賞式で手書きのポップを手にした多くの書店員と受賞者の佐藤多佳子さんが壇上にあがり笑顔で記念写真のフラッシュを浴びているシーンを眺めながら、そんな思いが頭にはあった。 佐藤多佳子さんはスピーチで「小説を書いている人間で本屋を嫌いな人はいない。自分も子供の頃から毎日のように本屋に通っていて、行くだけで幸せになれる場所だった」と語った。書店員として勤める人も同じ思いを抱いている人達が多いであろう。そういう職種を超えた「本が好き」という意識が気持ちのいい連帯感で実っているからこそ、ムーブメント足りえているのであろう。それが本屋大賞の強みである。 その空気は必ずや本屋に足を運ぶ人達にも通じるはずである。本と人とのいい出会いを作るはずである。そうしたいい出会いを経験したお客は簡単にはお店から遠ざからないはずである。不況を乗り越えるには「本と人との出合いのきっかけを作る」という書店の存在意義の原点に立ち返る視点も必要なのである。 売場は作品との出会いの場 出会いの質で今後の付き合いは決まる 今回の店頭フェアは好調な売れ行きを見せている。本屋大賞事務局広報の杉江由次氏は「4回目になってメディアにも多く取り上げられ一般の認知度は高くなっており、大賞受賞作以外も売れている」と言う。立ち上げ時にはお手並み拝見といったスタンスだった出版社や取次ぎ書店も今では趣旨に賛同してくれ、仕込みの段階で全面協力体制を敷いてくれているとのことである。 また、書店の売場でもスタッフがただフェアを展開するだけではなく、陳列に工夫を加え既刊本の売り上げに繋げようとするなど、本屋大賞をお祭り以上の売場を活性化させる機会としてとららえようとしている。「本屋大賞は本屋の良心。既刊本の売り上げ増加にも繋げていきたい。本屋大賞とは違う独自の帯を作ってのフェアを行ったり、フリーペーパーも作ったりしているので、あそこのお店に行けば楽しく時間を潰せると思ってほしいですね」とBOOKSルーエ(東京・吉祥寺)の花本武氏は語る。 またリブロ渋谷店の原田真弓氏も「本屋大賞は特定の書店チェーンのフェアではなく、会社を超えた店舗の繋がりがある。書店員が自分達で選ぶ賞なので、店頭で積極的になれる。独自に発信するのが難しい条件のお店でも、いいきっかけ作りになっていると思います」と語った。 本屋大賞ではベスト10以外にもオールタイム推薦部門ということで発掘本の推薦投票も行い発表している。新刊本をきっかけに、更なる楽しい本の世界に触れてもらいたいという読者へのアピールである。事務局ではフリーペーパーの発行も定期的に行っており、「本との出合い」を作り出そうとしている。もちろん、今の出版不況がこの文学賞だけで改善されるわけではない。だからこそ「本好き」として、書店の売場に関わる人間として、やることがあるのではないかという自己主張と問題提起なのである。作者と読者の橋渡しのきっかけを作れればいい。売場は読者が本と出会う最前線である。出会いの質で今後の付き合いは決まる。レコード店にもまったくあてはまる話だ。 最後に『本の雑誌 増刊 本屋大賞2007』という冊子が販売されている。この冊子はノミネート作はもちろん、選からもれた投票作に至るまで、書店員から寄せられた投票時の推薦コメントでページの大部分が埋められている。ぜひ御一読を薦めたい。高尚な評論本ではないが、大切な言葉がいっぱい掲載されている。音楽業界でも何かを始めたくなるはずの冊子である。 (取材・文/山本貴政) |
2007/05/02