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ファン騒然!解散後最大の問題作か?

ファン騒然! 解散後最大の問題作か?
ザ・ビートルズ、ニューアルバム 『LOVE』の聴き方

 ジョージ・ハリスンが自動車レースのファン同士ということで、意気投合したギー・ラリベル。日本でも「サルティンバンコ」などで知られる、シルク・ドゥ・ソレイユの創設者ギーとの縁が、「LOVE」というミュージカルを作るきっかけとなり、そこからビートルズ新盤が届くことになったというから、趣味も時代を動かす。

 ビートルズ・ミュージカルのサントラを作る場合、2つの道が考えられる。ひとつは精巧なカバーバンドやオーケストラを使ってアレンジする道。2つめは、原曲の使用。
 


しかしDJ技術の流行とコンピュータの進化が、第三の道を作った。「マッシュアップ」という手法がクラブ発で流行中なのだ。『LOVE』はこの旬の感覚で、違う曲が同じリズム上で次々飛び出す。その他、120曲の断片がCD1枚に散りばめられた。謎解きのような宝探しにファンは夢中だ。

 通常、クラブ音楽の問題は音源である。サンプリング訴訟も巨大化し、一般には安易なサンプリングが不能になった。『LOVE』のようにビートルズの音源をふんだんにサンプル使用したアルバムの制作費はいくらなのだろう。100億円ぐらいだろうか。

 今回「ウィズイン・ウィズアウト・ユー」が「トゥモロウ・ネバー・ノウズ」のリズムにのってアップトゥデイトなできばえを示している。「トゥモロウ〜」のリズムパターンは、ケミカル・ブラザースなどのクラブ系で使い倒されたクラブ音楽の古典である。この「ウィズイン〜」を聴いて「クーラシェイカーのよう」という声も聞こえるが、晴れて「サンプル先祖返り」を果たしただけだ。『LOVE』は、DJにとっても「究極の夢」アルバムなのである。

 他にも、構成にあったシークエンス、ピークに向けて盛り上げ強化など、クラブ世代のプロデューサー、ジョージの息子ジャイルス・マーティンの技術と感覚が、冴えわたる。ミュージカル音楽を作る際、コンピュータ音楽制作ほど適したものはない。

 もし旧音源を尊重した舞台サントラを作るとすると、時代時代で音質感がバラバラになり、連続した空間性が損なわれていたことにも注目したい。リミックスのプロセス中には、音質のブラッシュアップもなされる。低音も高音も強化された『LOVE』の音源は、高い音質レベルを維持し、同じ空間内に、初期から末期までの音源が並ぶ。

 特に感激なのが、「アイ・アム・ザ・ウォルラス」の低音が太くクリアな音になったことに驚いた後、その手応えをキープしながら初期の「抱きしめたい」がラウドに響く瞬間である。『マジカル・ミステリー・ツアー』の派手な衣装に身を包んだ4人が、瞬時に若返り、同じスーツ姿に着替えたような幻影。これはただのベストでは得られない感激だし、演出が前提のミュージカルゆえの高揚感ともいえる。音質を均一性で輝かせることにも、ド派手な仕掛けにも、サントラというエクスキューズがある。今回、この『LOVE』が「ミュージカル・サントラ」である、という情報は重要だ。

 このように、ミュージカル音楽にオリジナルマルチ音源を使用できる。それを熟知するプロデューサーが存在する。しかも、予算/時間面から「全力投球」が可能。そうした好条件のなかで「クラブ時代と寝る」という「荒技」が可能になった。これは他アーティストで実現できる企画ではない。

 「ビートルズの音源を玩具のように扱っていいのか」という声も聞かれるが、これは様々なタイミングを考えると、時代を切り開く一期一会のアルバムなのである。また、コラージュを耳のキャッチとして全面に散りばめてはいるが、アンコとして「ヘルプ」「レボリューション」など、手があまりつかず、オリジナルの良さを楽しめる曲も多い。今後のリイシューに期待がつながる。

 そもそも、ビートルズの音源はオリジナルアルバムの音質からして、プレス国や工場、マスタリングされた時期によって違いがある。良い音質、時代に合った音に更新していくことは当時も今も同じなのだ。ただ、そこに必要なのはキーパーソンの存在。今回は、息子ジャイルスをお披露目したい、というジョージ・マーティンの思惑もあったのではないか。とにもかくにも、ビートルズ音源が確かな腕を持つ次世代プロデューサーに引き継がれた。それはめでたい。

 ビートルズは、特に92年の『赤盤/青盤』以降、『アンソロジー』から『レット・イット・ビー…ネイキッド』まで、常に時代の旬の技術を使った作品を継続的にチャートに送り込んできた。だからビートルズの音楽は、若い世代に聴かれつづける。それが続くのなら御の字だ。『LOVE』のようなビートルズ・プロジェクトの同時代性は、多重録音などで先端を駆け抜けた60年代と似ている。『LOVE』は、そんなビートルズの先鋭的なセンスを今に伝えてくれるといってもいい。もちろん、彼らが現役時代の方が一歩踏み込んだ過激さ、前衛性を持っていたことは言うまでもないが。(文/サエキけんぞう)


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