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がらり、シンガーソングライターとしての原点 メジャーデビュー作『螺旋の街』で描く“いい曲”のかたち

 シンガーソングライター・がらりが、メジャーデビューEP『螺旋の街』を6月3日にリリースした。椎名林檎やジャズから影響を受け、システムエンジニアとして働いた経験も持つ異色の経歴を持ちながら、自身の音楽を築き上げてきたがらり。都会に生きる人々の群像劇を描いた本作では、緻密に構築されたメロディやアレンジ、文学的な歌詞世界を通して、“いい曲”とは何かを問いかける。流行を追うのではなく、長く愛される音楽の本質を見つめ続ける彼は、どのような思いで楽曲を生み出しているのか。音楽的ルーツから創作の哲学、そして今後の展望までを聞いた。

メジャーデビューEP『螺旋の街』をリリースした がらり

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■椎名林檎とジャズが育てた音楽的ルーツ

――がらりさんは3歳からピアノを始めて、高校で軽音楽部、大学でジャズを始めたそうですが、具体的にはどういうアーティストに影響を受けましたか?

がらり:アーティストさんとの出会いはいろいろありますが、僕のJ-POP原体験は椎名林檎さんです。小学生の頃、テレビから流れてきた「歌舞伎町の女王」をたまたま聴いたんですが、実はバラエティ番組で芸人さんが歌ったカバーで。でもその時に、メロディラインと物語調の歌詞に感銘を受けて、そこから椎名林檎さんを聴くようになりました。ただ、最初に買ったCDが「無罪モラトリアム」や「勝訴ストリップ」のヒット曲ではなく、『私と放電』というB面曲集で(笑)。僕のリサーチ不足だったんですが、でもそのアルバムにも衝撃を受けたんです。ジャズは高校時代に友人の母親に薦められて聴くようになり、ウェス・モンゴメリーの「フル・ハウス」にビックリして。3拍子で2つのコードしか使っていないのに、こんなに鮮やかに曲を展開させられるんだと感動しました。

――その頃から音楽の本質的な部分に耳を傾けていたんですね。

がらり:僕は構造的な美しさに惹かれるんです。何となくいい曲、耳に残る曲ではなく、ずっと「こんなメロディを作れるなんてすごい!」「この音色に対してこのサビを持ってくるなんて!」という聴き方をしてきました。初めての曲でも、メロディの展開を予測しながら聴くのが好きで。その予測を裏切らなかったり、裏切るとしても心地よく裏切ってくれる曲が好きなんです。

――大学卒業後にシステムエンジニアとして就職されたそうですが、コロナ禍をきっかけに音楽制作を始めて、そして本格的にミュージシャンとして活動をスタートさせたわけですね。

がらり:コロナ禍もそうですし、システムエンジニアとしても行き詰まりを感じた瞬間があって。それでちょっと、別の道があるかもって考えた時に、やっぱり音楽だと思って。会社員時代には作曲はしていなかったのですが、ちょうどその頃にTikTokで音楽を発信している先駆者がいたので、僕もやってみようと曲を作り始めました。

――当初、曲作りには苦労したのでは?

がらり:それが僕はわりと最初から曲を形にすることができたんです。ジャズの経験も大きかったと思いますが、一般論として歌謡曲やJ-POPに要求される音楽的語彙って、それほど膨大ではない気がするんです。もちろん、複雑なコード進行や驚くような展開を詰め込むこともできますけど、古今東西キャッチーなフレーズとか長年愛される音楽の骨子って結構シンプルだと思っていて、それを作ることにはそれほど苦労しませんでした。

――具体的にはどのように曲を作っていくのですか?

がらり:僕はメロディと歌詞が同時に浮かぶタイプで、自分名義の曲でも提供曲でも、感情や情景、曲の奥底にあるものがファーストにあって、それと同じベクトルに、コードやメロディ、言葉、そしてアレンジやBPM、ミックスまでを組み立てていくようにしています。この考え方は、ジャズを通ってきたことも影響していると思っていて。ジャズって、定番のメロディとコードだけの楽譜で演奏するんですけど、いわゆるスタンダードナンバーと呼ばれる名曲って譜面を眺めただけでも美しいんです。最小限の構成でも、美しくて説得力があり、聴き応えがある。曲を作る際にはそこは意識していて、『螺旋の街』の5曲もその点は絶対に外さずに、五者五様の美しさで全曲シングルカットできるようにという気持ちで作りました。

――メロディと歌詞が同時に生まれるからこそ、歌がとても自然に聴き手の心に入ってくるんですね。

がらり:ただ厳密には、「シャイなボーイ」「レンズ」「単純ないきもの」は歌詞とメロディがほぼ同時で、「春を盗んで」と「箱庭ダンス」は、めっちゃ微妙ですけど、ややメロディ先行、かな。とはいえ、僕の場合は言いたいことが決まってから曲を作るのでほんのコンマ差なんですけど、でもこの2曲は鍵盤を弾きながら作りました。それに、まず先の3曲があったからこそ、それらを橋渡しするように「春を盗んで」と「箱庭ダンス」が生まれてきたようなところはありますね。

■群像劇として描く『螺旋の街』の歌詞世界

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――では言葉の面で、歌詞を書く際のこだわりを教えてください。

がらり:語呂の良さはもちろん、字面として、歌詞を読んだ時の印象が美しいかどうか、そこを意識しています。僕は、変わった単語をフックにしたり、言葉の面白さだけで引っ張りたくはないんです。作品として歌詞を読んでもらい、それが誰かの心に残って栄養になってほしいと思っているので、我ながら真剣さが滲んでいる歌詞が多いなと思っています。

――『螺旋の街』の5曲すべてに「僕」「私」という一人称が使われていますが、これらは自身なのか、それとも想定する対象がいるのですか?

がらり:創作物ですから、必然的に自分の魂の欠片、哲学みたいなものが言葉に滲んでしまうでしょうけど、多くの人に共感してもらえるように、それぞれの曲で主人公を想定しながら作っています。『螺旋の街』は都会に住む人の群像劇をイメージしていて、たとえば「シャイなボーイ」でしたら、歌詞にあるような考えをするリスナーなら、きっと自分を「僕(歌詞の主人公)」だって自認するでしょうし、「レンズ」は、必ずしも女性でなくとも成り立つ世界観ですが、ちょっと女性っぽさはあるかなと感じていて。SNSで人と自分を比べた時、素直に相手を褒められない主人公を自分事として捉えていただけるように考えて。それ以外の部分でも、語尾だとか、文語調なのか口語的でいくのか、それと漢字の量も考えます。たとえば「シャイなボーイ」は偏屈な主人公だから、“佇んだ”と漢字で表記しましたし、“天邪鬼”や“批評家”と難しめの言葉を使いました。一方で「春を盗んで」の主人公は、賢そうだけど夢見がちな感じがあるから、ちょっとロマンチックな言葉を使ったり。そうやってみなさんに、小説を読むように自分事として捉えていただいたり、主人公の人生を垣間見ているような感覚で楽しんでいただければと思って歌詞を書いています。

――とても文学的ですね。小説などもよく読むのですか?

がらり:桐野夏生さんの小説はとても好きでいろんな影響を受けましたし、東野圭吾さんや宮部みゆきさん、乙一さんの小説もエンタメ作品として楽しんでいます。あと、特に曲を作るようになって詩を読むようにもなって、図書館のあまり人のいない詩のコーナーで、大正文学全集を読んだりしています。

■ジャズ経験が生きる楽曲アレンジとセッション感

メジャーデビューEP『螺旋の街』をリリースした がらり

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――トラック(曲)はコンピューターでデモを作っているのですか?

がらり:Logic Pro(音楽制作ソフト)で作っていますが、僕はどうやらデモをかなり作り込む方のようで。ただレコーディングの際にはミュージシャンに任せることで、その瞬間に生まれる予測できないエネルギー、セッションの面白さを期待している部分もあります。ですので、「シャイなボーイ」は根幹となるメロディはデモを踏襲してもらいつつ、それとセッション感との組み合わさり方によってとても有機的な演奏が録れたと思っていますし、それこそ「単純ないきもの」は、後半に進むにつれてジャズのセッション感をしっかり出すようにしました。

――宅録で一人完結させることも可能ではあるけど、生演奏のセッション感を活かすあたりは、やはりご自身が軽音楽部やジャズでプレイしてきた経験からなのでしょうか?

がらり:それはあると思います。たとえば「単純ないきもの」のイントロは、ミュージシャンのみなさんにデモを“完コピ”してもらいながら、一方でトップラインではない部分は、その瞬間にセッションで生まれた要素がとても大きくて。自分がジャズをやっていたからこそ、セッションで何が生みだせて、何は生まれないのか、その線引きをある程度は理解できているし、そこが強みなのかもしれません。キャッチーなイントロとかって、セッションで偶然には生まれませんから、ちゃんと作って、きっちり演奏してもらう。ただサビのキメとかは、リズムとして楽譜には書きますが、余白を持たせておくことでジャズミュージシャンはそれをちゃんと解釈して、弾くべき音を弾いてくれる。そういった押し引き、“疎密”と言うのかな、そこを楽譜やデモでどう作っておけばいいかというバランス感は、ジャズを通り軽音も知っているからこそ出来ているのかなと思います。

――そのバランスを感覚的に知っているだけでなく、ちゃんとミュージシャンに指示できている点が素晴らしいですね。

がらり:ひとつ言えるのは、僕に社会人の経験があることも大きいと思っています。「(言わなくても)わかってくれよ」という態度ではレコーディングに臨まず、指揮棒を振る、いわばコンサルタント側の人間として、自分の意志がちゃんとミュージシャンのみなさんに伝わるようにしなければいけない。そこは強く意識して、デモや楽譜を作るようにしています。

――よくわかります。一方で、シンガーとしてのがらりさんの歌声もとても魅力的で。作品ごとに“がらり”と作風を変えることから“がらり”と名乗り始めたそうですが、作風が異なりながらもEP作品としてきちんと筋が通っているのは、がらりさんの歌によるところが大きいと思います。しかも特に多くの曲で、ダブルボイスやオクターブ下を重ねたりといった声の演出がとても個性的ですね。

がらり:「シャイなボーイ」は少し変わった下三度のハモリを入れていますが、そこは僕の声がたまたま、オクターブで重ねた時に説得力が増すと感じているからで。自分の声って倍音が少なめで、他にあまりいないタイプの声質なんです。だから、悪く言うとトラックに対して浮いてしまうと自覚していて。そんな声に説得力を持たせるために、普通に張る声と、1オクターブ下や裏声を重ねることでメロディをはっきりとさせている面はあるかもしれません。ダブルボイスにした時にしっくりくる声なんでしょうね。最近の音楽、特にJ-POPとか歌中心の曲だったら、真ん中に歌が“ドン!”と1本あるミックスが多い中で、僕の曲は、歌が前にもいるし左右からも鳴っていて、空間全体で演出することを意識しています。自分の声の雰囲気からして、結果的に意識せざるを得なかったんですけど。

■「古き良き音楽」を未来へつなぐために

メジャーデビューEP『螺旋の街』をリリースした がらり

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――そういった歌の聴かせ方、存在感も含めて、奇をてらわずに丁寧に練られたメロディや曲構成、歌詞の世界観は、目まぐるしく複雑に展開していく情報量過多な最近の音楽に対するアンチテーゼのようにも感じました。そういう意識もあるのでしょうか?

がらり:ああ、薄っすらと、それは考えていました。でも別に、僕はアンチテーゼをしたいわけじゃなくて。世の中の大きな流れとして、主流と傍流って絶えず入れ替わり続けていると思うんです。ちょっと前までメインカルチャーとされていたものが今ではサブカルチャーになったり、サブカルチャーとされていたものがメインとして台頭してきたり。そうした中で、僕はキャリアを通して古き良きものを復権させたいという気持ちがあるんです。「“いい曲”って、そもそもこういう音楽でしたよね?」っていう。だから僕は、今の流行りがどうこうとかまでは考えてなくて、ただ「こっちの音楽って良かったよね」っていう話をしようとしている、そんな節はありますね。

――今の流行りを否定するのではなく、「こっちもいいよね」という、ひとつのサジェスチョンなんですね。

がらり:でももし、「今の音楽はダメだ」っていう見出しにして、それでアクセス数が増えるなら、それでもいいですよ(笑)。

――ははは(笑)。そんながらりさんの良き音楽を、ぜひライブでも体感したいです。まだライブは行っていないようですが、ライブへの意欲は?

がらり:ライブをやりたい気持ちはずっと抱えていて、ようやく実現できるかなっていう段階になってきました。何せ、初ライブをやらないままフルアルバム2枚とEPを作りましたから、持ち曲はたっぷりあるので(笑)、ぜひいつか、楽しみに待っていてほしいと思います。

取材・文:布施雄一郎
撮影:草刈雅之

【がらり プロフィール】
大阪府出身。全楽曲の作詞作曲を担当。
2022年12月より活動を開始し、ジャケットアートワーク・Music Video・SNSコンテンツなどほぼすべてのクリエイティブ制作を自身で手掛けるシンガーソングライターとして活動。曲ごとに“がらり”と作風を変えながら、文学的な歌詞を生々しい歌声に乗せる。元システムエンジニア。

<作品情報>
■がらり Major 1st EP『螺旋の街』
2026年6月3日配信リリース

メジャーデビューEP『螺旋の街』をリリースした がらり

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<収録曲>
1.シャイなボーイ(TOKAI RADIO ONE ARTIST 2026!)
2.春を盗んで
3.レンズ
4.箱庭ダンス
5.単純ないきもの(MBS/TBSドラマイズム『100日後に別れる僕と彼』オープニング主題歌)
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  • がらり Major 1st EP『螺旋の街』ジャケット

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