• ORICON MUSIC(オリコンミュージック)
  • ドラマ&映画(by オリコンニュース)
  • アニメ&ゲーム(by オリコンニュース)
  • eltha(エルザ by オリコンニュース)
ORICON NEWS

Mrs. GREEN APPLEの音楽ヒット、景気との関係 坂口孝則解説【連載】『オリコンエンタメビズ』

 日々話題を集めるエンタメニュースも、経済目線で知ればもっと面白くなる。そこで『ORICON NEWS』は、エンタメをこよなく愛する経営コンサルタント・坂口孝則氏に、エンタメにまつわるニュースを経済視点で解説してもらう連載企画『オリコンエンタメビズ』を開始した。今回は、飛ぶ鳥を落とす勢いのアーティスト、Mrs. GREEN APPLEの人気と景気の関係について、解説してもらった。

経営コンサルタント・坂口孝則氏

経営コンサルタント・坂口孝則氏

写真ページを見る

 大森元貴は現代のガンジーである。

 私は、この説をかねてから唱えています。大森さんは、ご存知の通りMrs. GREEN APPLEのボーカルであり、楽曲を手掛けるメインコンポーザーです。2023年末には日本レコード大賞を受賞しました。その前後もテレビに出っぱなしだったので、印象に残った人も多いでしょう。

 グリーンアップル=熟していない青りんご、のはずなのに、もう大ベテランかのようにメディアをジャックしています。さらに驚いたのは、先日の報道です。ミセスは、なんと「週間DVDランキング」「週間Blu-ray Discランキング」「週間ミュージックDVD・BDランキング」で、それぞれTOP3を独占する史上初の記録を打ち立てました (※1)。

 言いにくいのですが、「テレビで見る人」と「作品を買ってもいいと思う人」は違います。メディアには出るようになったけれど、本がまったく売れない文化人はたくさんいます。しかし、ミセスはメディアにも出るし、しかも作品を買いたいアーティストなのです。

 それの証左が、アーティストとしての売上でしょう。私は心底ビビりましたよ。だって、ミセス作品の2023年トータル売上が54億円にもいたっているんです(※2)。日本人の75%は中小企業で働き、日本企業の99%は中小企業だといわれます。もちろんスタッフはいるでしょうが、おそらく読者が働く企業の売上高より多くの金額をあの3人が叩き出しています。

 個人的な話をします。私は家族でドライブをする際に、小学生二人の息子から曲のリクエストを募ります。子どもが注目しているアーティストは、将来のビッグスターですからね。すると、ほんとうにミセスの曲が多い。つまり、いろいろな理由の前に、ミセスの曲が良いのがすべての前提です。これを認めない論評はすべてむなしいですからね。

 冒頭の話に戻ります。大森元貴は現代のガンジーである、説について。私はミセスをフェスで3回しか見たことのない“アマチュア”です。しかし、大森さんの歌声とパフォーマンスは印象に残りました。

 ところで、「伝統が大切だ」というとき、社会学では「伝統が大切ではない、とみんなが思うからこそ、伝統が大切だ、という発言が必要だ」という考え方があります。また話が変わるようですが、私は編集者から「不景気のときはエロ本の表紙で明るい顔が求められる」と聞いた経験があります。私が、ミセスを聴くとき、そして大森さんの歌に接するとき、ミセスが時代に求められている理由を想起してしまいます。

 ガンジーは夢と希望を語りました。それは、その時代には、夢も希望も信じられなかったからです。そう、ミセスと大森さんは、時代の逆説を歌っているとしか私には思えません。説明するのは野暮ですが、この世界は「ダンスホール」のように軽やかに生きていけないからこそ、この世の中がダンスホールであってほしい。さらに日常が「ケセラセラ」と笑えないからこそ、「All right All right」という歌詞に惹かれるんですよ。

 ミセスが1年8ヶ月の休止を経て、再開した際の楽曲が、絶望がゆえに希望を信じるしかなかった映画『ラーゲリより愛を込めて』に捧げた「Soranji」だったのは、あまりに象徴的ではないですか。

 企業のマーケッターは、消費者が時代に求める無意識を明らかにしようとします。しかし、なかなかわからない。私は、その無意識は音楽のヒットに表象するのではないかと考えています。つまりミセスのヒットは時代の無意識の現れ。

 大森元貴は現代のガンジーなのです。

(※1)1月18日発表の最新「オリコン週間映像ランキング」より
(参考記事)Mrs. GREEN APPLE、史上初となる映像3部門TOP3独占【オリコンランキング】

(※2)『第56回 オリコン年間ランキング2023』の「アーティスト別セールス部門トータルランキング」より

■プロフィール

坂口孝則(さかぐち・たかのり)

1978年生まれ。福岡放送『めんたいワイド』(隔週)、TBSラジオ『日本リアライズpresents 篠田麻里子のGOOD LIFE LAB!』など出演。日本テレビ系『スッキリ』木曜コメンテーターも担当していた。趣味はメタルのライブに行くことで、音楽をこよなく愛する調達・購買コンサルタント、講演家。未来調達研究所株式会社所属。大阪大学経済学部卒業後、電気メーカー、自動車メーカーに勤務。原価企画、調達・購買に従業。現在は、製造業を中心としたコンサルティングを行う。著書は『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』『未来の稼ぎ方』『製造業の現場バイヤーが教える 調達力・購買力の基礎を身につける本』『調達・購買の教科書』など。直近で『買い負ける日本』(幻冬舎刊)を発売した。

■エンタメニュースを“経済視点”で解説【オリコンエンタメビズ】
連載作品一覧はコチラ

オリコントピックス

あなたにおすすめの記事

>

 を検索